
今年で誕生してから60周年を迎えるクラウンですが、こういう取り上げ方をしているところは、あまり見かけませんので、それならここでやってみようかと、ふと思い付きまして。
もっともクラウンの歴史を詳細に書いていくと、一冊の本が出来てしまいますので、そちらはメーカーサイトにお任せするとして、さらに営業車についてもそれほど詳しいわけではありませんので、自家用スタンダードの変遷を主として見ていきたいと思います。
このスタンダードというグレード、上級グレードは新型車の発表直後に新聞や雑誌でその姿を確認できたとしても、果たしてどんなディテールなのか、あるいは上級グレードとの差別化の手法等については、実際にカタログを貰うか、タクシーが街中を走り始めるまでは、知ることができなかったグレードでありました。
※主に手元資料から抜粋した関係で一部抜けについてはご勘弁くださいませ。
○2代目(#S40)の中期まで
さすがにこの年代のカタログはありませんので、#S40の初期型が掲載されている
メーカーサイトへのリンクを貼るのみとします。
後述する、ミズリナグリーン(606)とウッドミストグレー(103)は、2代目初期の時点で既に設定されているようです。
○2代目(#S40)
・後期
これも、本カタログがないため、集合カタログから抜粋。
既に古に属する印刷物のため、だいぶ色褪せて見えますが、これはこれで一つの味かと。
上級グレードからは、各所で省略されたモール類、簡素なハーフキャップやフロントグリルがスタンダードであることを印象付けています。
○3代目(#S50)
・前期
シャシーを一新したおかげで、重心が下がり、伸びやかな印象が強くなりました。スタンダードのグリルは、一つ上のオーナースペシャルと共通の仕様となり、デラックス以上の上級グレードとは意匠が異なります。
前後ウィンドーモールの省略が、見栄えには意外と影響している感がありますね。
スタンダードのエンジンは、先代まで搭載されていた、4気筒1.9Lの3Rから4気筒2.0Lの5Rに変更されています。
・後期
これまたカタログ未所有のため省略します。
フロントマスク部分は、大幅に手が入っていますが、メカニズムは前期と共通。
前期では異なっていたフロントグリルは、上級グレードと共通とされています。
○4代目(#S60)
・前期
4代目のスタイリングについては、既に他所でイロイロ書かれていますので省略します。
スタンダードの意匠は、ホイール以外、中級グレードとほぼ同じになったため、かなり豪華になった印象があります。
スタンダードのエンジンは、従来の5Rに加えて、6気筒2.0LのM-Cが選択可能となりました。(同時にLPGも6気筒が選択可能に)
・後期
マイナーチェンジでバンパーやフロントグリル等のメッキが増えたため、一層豪華になった印象があります。その一方で、丸型の平ミラーの採用やリヤガーニッシュの省略という新たな差別化が行われています。
前期と後期を並べると、当時は不評だった前期にかなり苦心しつつで手を入れていることが判ります。
ここからは、内装画像も掲載していきます。
○5代目(#S80 ~ S100)
・前期
前期に限っては、スタンダードを前から撮影したカタログ画像が見つからなかったため、止むを得ずデラックスAと並んだ後ろ姿を掲載します。
”ザ・クラウン”的な外観の印象と同様に、この後しばらく使われるホイール形状やステアリング形状等、この代でスタンダードの様式は確定した感があります。
このステアリングは、上級グレードの4本スポークよりも径が大きくされていました。パワーステアリング装着車は、グレード問わずで4本スポークとなるため、ノンパワーであることも表しています。
上級グレードとの新たな差別化として、バンパーコーナーラバーの省略が加わっています。
自家用スタンダードのエンジンは、直前に迫った排ガス対策を考慮してか、ついに4気筒が落とされて、6気筒のM-Cのみとなります。
・中期
外観の印象は前期に近いながらも、ボンネット形状の変更等、意外と大物も手が入っていたりします。
内装はカラーコディネート化されたため、前期とはシートカラー等が異なっています。
・後期
中期から僅か1年強での再変更でした。
次世代への過渡期として、前周りに大きく手が入っています。
ボディカラーの設定拡大以来、掲載の無かったミズリナグリーンが、ここで再登場。
ガソリン仕様は、タイトル画像のとおり、メーター形状が大きく変更されましたが、ディーゼル仕様とタクシー仕様は従前のとおりとなっています。
○6代目(#S110)
・前期
セダン&ワゴンは角型4灯ヘッドランプの採用が話題となりましたが、スタンダードは、バンと共に丸型4灯ヘッドランプに据え置かれています。
タルボ型ミラーの採用は、ライバル車であるセドリック/グロリアよりも一足早い採用。上級グレードと異なる形状ながらも外観のモダン化には役立っていますね。
画像はありませんが、タクシー仕様には、自家用と異なる専用形状のインパネが採用されています。
フロアシフト車は、センターコンソールが付いて豪華になった一方で、ステアリングは従来と同形状でエンブレムだけ変更されていたり。
・後期
セドリック/グロリアは、マイナーチェンジでスタンダードのみ外観を据え置くという英断(?)を行いますが、クラウンは変更が入っています。
セダン&ワゴンは、フォグランプ一体の異形2灯ヘッドランプに変更されていますが、スタンダード&バンはガーニッシュの意匠は変更したものの、丸4灯のままとされています。
バンパーはマイナーチェンジに伴い、上級グレードと共通のゴムモール付に進化。
ボディカラーは、2代目初期以来、久方ぶりにウッドミストグレーで掲載されています。
○7代目(#S120)
・前期
4世代続いたフレームが一新されています。
小型乗用車規格からホイールベース要件がなくなったことで、ホイールベースが延長されたため、プロポーションが変わっています。
前代後期で上級グレードと共通のバンパーを得たのも束の間、上級グレードがボディ一体型のカラードウレタンバンパーを得たのに対して、ロアパネルと組み合わせて新形状のアイアンバンパーが付けられることになりました。
ライトもクリアランス形状との両立に苦労しながらも、丸4灯が継続されています。スーパーデラックス以下で共通とされたリヤコンビランプ、デラックスと共通とされたリヤピラーガーニシュ等、上級グレードと異なる部品は歴代で最も多くなっていて、差別化の手法はここで定まった感があります。
インパネは、Aインパネと呼ばれるタクシーと共通のものが自家用スタンダードにも装着されることになりました。
エンジンは、自家用が長年続いたM型から1G-Eに、営業用が5R型から3Yに換装されています。
・後期
先代がマイナーチェンジで比較的手が入ったのに対して、セドリック/グロリアの影響を受けてか、フロントグリル等、一部の変更に留まります。
意外と見た目の影響が大きいのは、ホイールカラーがダークグレーからライトグレーに変更されたことで、形状は同一ながらも新鮮に映りました。
○8代目(#S130)
・前期
先代とシャシーは同じながらも、外観の意匠はスタンダードなりに煮詰められた感が強い世代です。
上級グレードとの差別化の手法は、先代から継承しています。
丸4灯のライトは継続しながらも、上級グレードではフォグランプのスペースとなる部分を使うことで、大型化したグリルと両立させたのには感心しました。
長く続いたお椀型ハーフキャップも、ホイール形状が一新されてキャップレスに。これだけで見た目は大きく変わります。
インパネは、アッパー部分を上級グレードと共通化しつつで、一新。新たに”フォーマルインパネ(Aタイプ)”と呼ばれることになりました。
ガソリン仕様のエンジンは、1988年の一部改良により1G-Eから1G-FEに変更され、LPG仕様の6気筒は、1989年の変更でM-Pから1G-GPに変更(ただしスタンダードは設定無)されています。
スタンダードに関しては、1989年のマイナーチェンジでも、ついに意匠変更無とされています。
・併売期
1991年の大幅マイナーチェンジではスタンダードも大きく手が入りました。
セドリック/グロリアはスタンダードも異形2灯&フォグで統一されましたが、クラウンは丸4灯が継続。その埋め込み方法は、120系の手法に先祖帰りしています。その他差別化の手法は、従前のとおりですが、ミラーの大型化が目新しい内容でした。
これが最後の自家用スタンダードの姿であり、営業用よりも一足早く1993年に全社を挙げての合理化の推進の中で、生産中止となります。
かくして、他の車種がボディ一体型バンパーや異形ヘッドランプの採用によりモダン化する中で、その時流に逆らうグレードであり続けました。その特徴的な各パーツを流用することにより、代用旧車的な存在に仕立て上げたものを見た時には感心したものです。
ボディデザインについては、あまり触れていませんので、ここで少しだけ書くことにします。
全長4,700mm × 全幅1,700mmという限られた枠内、さらにシャシーを長期に使って使い続けるという制約がある中で、各世代これだけ表現の異なるデザインが作れたことには、驚かされます。
この後の170系のデザインインタビューの中に、「全幅を抑えてガラスを外に出すと、ドア断面が薄くなる。これはエクステリアのスタイリングの制約になるのですが、(中略)5ナンバー枠のなかでドア断面に苦心した先輩たちの叡智が財産として残っていた。」というものがあるのですが、こうして並べてみると、なるほどと納得できるのです。
さらに余談でボディカラーの話を少し。
2代目初期でスタンダード用として設定された、ミズリナグリーンとウッドミストグレーは、4代目まではこの2色からのみ選択可能でした。(画像では印刷物の関係で、同色とは思えない状態ですが・(笑))
5代目からは他色も選択可能となりますが、その後も設定が続いたのはカタログで確認できるとおりです。7代目以降は、カタログにその姿が登場することはなくなりますが、設定は続いていたようです。
下は、1990年8月のカタログからの引用
スーパーデラックス以下には、設定があるのが確認できます。
現在のクラウンコンフォートも、カタログの記載は白と黒の設定のみとなっていますが、どうやら長くクラウンを使い続けている地方のタクシー事業者向けの裏メニューとして、この両色は選択可能なようです。
そんな訳で、クラウンの伝統芸の一つとして、低グレードを語る上では、触れないわけにいかない色なのであります。