さて、いよいよ最終日となりました。
この日のミュンヘン発成田行きのルフトハンザは夕方の早い時間の便で、
空港には午後の早い時間に行くとしてまだ余裕があります。
もちろん、この時間も有効に活用します。
2台のスペシャルなクルマをアウトバーンを中心に試乗!
ホテルの朝食開始前より早い時間、
友人の運転によりミュンヘン市内のホテルの玄関にその1台目は横付けされました。
ひときわ甲高いエンジン音とともに。
そのクルマはアストンマーティン・ラピード!
しかも400kmも走っていない、
おろしたての新車です。
内外装ともにピカピカ。
早朝のうちにミュンヘン市内を抜け、
郊外のアウトバーンからワインディングを堪能する作戦。
友人と交代しながらまずはガラ空きのアウトバーンでアクセルべったり最高速テスト。
私の運転で276km/hが最高でした。
ドイツ在住の友人もほぼ同じくらい。
夜間に雨が降ったせいでアウトバーンの路面はウェットでしたが、
477psを発揮するV型12気筒5.9Lをフロントに搭載し、トランスアクスルで後輪を駆動、
全長5mを超えまっとうな4座を持つハッチバックはどこまでも余裕と自信を持って踏んでいけます。
ステアリングの操縦性は素直なんですが適度な鷹揚さもあり、
しかし手のひらを通じて伝わってくるインフォメーションは心地いい硬質さを持っており
これは今までに経験したことのない感触でした。
ドイツ車とは違う柔らかめのレザーから腰へ伝わってくる乗り心地は
それなりに締まってはいるけれど、不快なゆすられ感や強いダンピングを感じることはなく
これも心地いい。
可変ダンパーもついているけれど、触る必要性を感じません。
ノーマルで十分ベストバランス。
驚いたのは圧倒的な風切り音の少なさ。
今まで乗ってきたクルマの中で圧倒的に200km/h以上での風切り音が少ない。
アストンのV12は鳴き叫ぶでもなく、しかしドイツ系の様にくぐもった低いサウンドでもなく
非常に上品かつ耳触りがいい。
とにかく五感に感じる全てが心地よく、本当にどこまでも走っていける感じ。
その後はワインディングへ。
ホイールベースは3m、車重は2tに届こうかというものですが
もちろんポルシェ911の様に人馬一体で、という感覚ではないながらも
豪快なエンジントルクとそれを受けるシャシーのマッチングが素晴らしく
全く鈍重でトリッキーなところがありません。
やはりここでも自信を持って踏んでいけます。
助手席の友人は「結構踏むなー」と感じていたそうですが
リアタイヤのグリップの限界は常に伝わってくるので、
運転している私は安心してその操縦性を堪能しておりました。
アルミ削り出しのパドルで操るトルコン付き6ATには流石に古さを感じる場面もありますが、
そもそもパドルをパタパタやりながらワインディングを攻めるクルマではありませんから
特に問題にはなりません。
ワインディングの引き返しポイントで。
この景色にこのクルマ・・・たまりません。
ディテールをチェックします。
20インチのBS POTENZA S001。
ボンネットを開けると最終検査員の氏名が刻印されています。
英国クラフトマンシップの誇りですね~
金属部品は削り出しを多用し、その切断面も美しく仕上げられています。
おもしろいのはこれ。
各所のステッチがまっすぐでないのです。
これはまさにハンドメイドの証かと・・・
ドイツ系やレクサスが同様のステッチであれば、
「不良品だ!!」と真っ先にクレームが上がってしまうでしょう。
もちろん最高速テストやワインディングを飛ばすだけでなく
通常の走りも堪能しました。
通常の走行の中でも、やはり適度な硬質さとやさしい包まれ感が同居する、
上質な乗り心地と操縦性は変わらず。
ミュンヘン南部の郊外の友人おススメの試乗コースはずっとこの様な景色で、
ヨーロッパの美しいワインディングと郊外の景色のイメージそのもの。
その中を英国の匠の技が作り上げたとびきりのクルマでゆったり流す。
これはまさに至福の時間でした。
その後はミュンヘン市内のホテルに戻り、
朝食ののちスーツケースをパッキング。
また友人が迎えに来てくれるのを待ちます。
そして現れた、BMW M550d。
これは日本未発売モデルですが、
M5と並ぶBMW 5シリーズの「顔」とも言えるモデル。
その秘密はエンジンにあります。
なんと3Lディーゼル6気筒に3つの過給機が付く、
「トリプルターボディーゼル」なのです。
出力は381ps。トルクは75.3kg-mという恐ろしい数値を2,000rpmで叩き出します。
さすがにFRではダメなのか、2WDはなくXDrive(4WD)の設定しかない。
トランスミッションも8ATのみ。
レイアウトの関係か右ハンドルも無いので、英国でも未発売。
0-100km/h加速も4.7秒でこなすなど、間違いなくスペシャルなクルマなのですが
アストンの後の試乗なのでどうしてもビジネス特急という印象ばかり。
いや実際そうなんですが、エキサイティングな要素が感じられないのですよね。
アストンの直後では分が悪すぎ。
アウトバーンでの最高速ですが、
道が混んでおりこの時は240km/hまでしか出すことが出来ませんでした。
友人は私たちを空港でおろしたあと、250km/hまでは試したそうですが。
ワインディングでは2,000~3,000回転のみでトルクでグイグイと進んでいくので、
これはこれで結構面白い。
音もディーゼルらしからぬ「ビーエムの6発」という感じの音がするので
なかなか気持ちいい。
トランクにスーツケースが乗っているとは思えない走りです。
こいつはまさによく出来たビジネス特急。
ただ、現行5シリーズに共通するステアリングインフォメーションの希薄さと軽さ、
そしてスポーツサルーンというにはダンピング不足の足回りは、
クルマ好きとしてはチョット、、、という感じ。
日本で売るには需要がないジャンルのクルマとも思います。
なおM550dの試乗コースは、
ミュンヘン市内からアウディの本拠地、
インゴルシュタットのアウディフォーラムを経由してミュンヘンの空港で
私たちを降ろしてもらうというものです。
時間に余裕がないので、
アウディフォーラムはまさに「寄っただけ」という形ですが
ここインゴルシュタットに表敬訪問することで、
ドイツの主要自動車メーカー(ブランド)の本拠地は制覇したことになります。
しかし、ここはやっぱり他メーカーの本拠地と同じく、
アウディ車のミュージアムやレストランもあるので再訪をしたいところです。
ということで、無事ミュンヘン空港へ到着。
出国手続きを前に、友人と食事。
最後にやっぱりビールで乾杯。
(クルマで帰る友人はもちろんノンアルコールです)
ドイツ在住の友人には試乗車の手配やおススメ試乗コースの提案、
またドイツに関する全般的なアドバイスを頂き大変お世話になりました。
彼がいなかったらここまで充実した旅にすることは出来ませんでした。
改めてお礼を申し上げます。
そして構想8年にわたる、パック旅行でない完全個人手配のこの旅を終えるにあたり
名残惜しさよりも、事故や大きなトラブルもなく無事終わらせる事が出来て
ホッとしていたということがこの時の正直な心情です。
ドイツでの総走行距離は8日間の滞在で延べ2,200km以上。
長かったグランドツーリングを通じ、
自動車先進国のドイツの交通事情、そして自動車の文化を肌で感じることが出来た
私にとって一生の財産になる、物凄く「濃い」旅でした。