2017年08月27日
物語A173:「老牢番」
この上陸地点から少し離れた河岸に丸太小屋は建っていた。
小屋の中では暖炉の炎がぱちぱちと威勢よく音を立てながら弾けて火の粉を舞い上げている。
北方地方の寒さを外界に追い出した丸太小屋の中は暖かい。
暖炉の炎は居間の壁に三つの影を揺らめかせていた。
山間部から時おり雪の粉を運んでくる冷たい風が戸や窓の隙間から時々強引に小屋の中に侵入して来る。
影がぶるっと震えた。
三つの影はI村牢獄「ニューポーク1999(別名多数だが、I村の牢獄はこれ一つしかないのでどの通名で呼んでも誰も間違えることはない。)」の入り口を見張っていた老牢番トリオであった。
その神のような堅い守りから「ろろう三堅神(ろろうみけんしん)」と呼ばれ、その名を「梅」「竹」「松」という。
「ろろう三堅神」は「義経隊」が引き起こした大脱走の後にその責任を問われ、全てを彼らの怠慢が原因とされた。
もちろん、その事を声高に言い散らすのはI村に寝返った昼高大将、元「マルビ大密林強行突破作戦」総指揮官であったよるそこ中将である。
当時、よるそこ中将として牢屋に入っていた時の「ろろう三堅神」による数々の狼藉・非礼・侮辱、具体的には牢の鍵を渡さなかった事やその鍵で扉を開ける中将の命令を無視した事などへの報復であった。
「ろろう三堅神」は牢番としての仕事を黙々と遂行していただけであるのだが、身勝手なよるそこ中将の逆恨み的な追及は収まらなかった。
こうした、いわれなき嫌疑に腹を立てた「ろろう三堅神」は、辺境の地に左遷される前日に、まだ牢獄に捕われていた乾火馬(ほしひ うま)、脱走の天才パヨピンら全員を解放してしまったのである。
この時、「地獄の特訓部屋」(I村の牢屋の別名1)から解放された乾火馬は燃ゆる魂の力で苦心の末にこの「マルケットベルト作戦」に参加してのけたのである。
脱走の天才であり、脱走成功率100%を保持するパヨピンはこの時、自らの脱走計画に固執していたが、耳が黒くて胴体の長い白犬スーピーにいつも手にしている愛用の毛布「てっつどう2」を奪われてしまい、仕方なくそれを追いかけて「悪魔洞窟」(I村の牢屋の別名2)を後にした。
スネーク・マクインは連日ムウト・ソムリチネ酋長の舞台に立たされて疲労の局地であったが、この解放の話を聞くなり二度と捕まらない事を心に決めて、疲れた体を鞭打って「煩悩寺」(I村の牢屋の別名3)を脱走した。
ここにマクインの脱走記録の更新は打ち止めとなり、後数回の脱走で達成する筈だったギネスへの登録も不可能となったのである。
だが、あの苦難の舞台に立つ事と比べると、それら栄光はマクインにとっては些細な事となっていた。
「沈黙の洞窟」(I村の牢屋の別名4)の中で29年間もサバイバル生活を送った末に帰還した伝説の村民「横井寛郎」の後継ぎとなった猿のチーザー自称皇帝は、やはりこの時も発見されなかった。
その後、猿のチーザー自称皇帝は地底神MOROKUの先祖となり、802億7019万3千546年後に奴隷民族であったエロイ達と放浪の量子物理学者HG・セガルによって一族をことごとく退治されたという。
だが、そんな長い先の話はSF小説の始祖にでもお任せしてここでは全く関係がないので完全無視とする。
「ろろう三堅神」は「仙人タコ部屋」(I村の牢屋の別名5)を思う存分に綺麗にする事で「飛ぶ鳥後を汚さず!」を文字通りに実践して、D村北方のB村との村境線、すなわちこの辺境の地の河の警護に赴いたのである。
「ろろう三堅神」は昼高大将の手の届かないこの地で静かに最後を迎えようと思っていた。
しかし、冷たい隙間風が「ろろう三堅神」達の体を竦ませて離さない。
-- 猫達の小劇場 その87 --------------------
灰色猫と黒猫が呆けた顔をして並んで座っている。
蜻蛉が飛んで来た。
二匹の目がキラリと光る。
蜻蛉は分厚い肉をぶら下げて、橋を渡っている。
赤身が神々しく輝いている。
最上の肉だ。
黒猫が橋の下の川に石を投げ込むが蜻蛉は気が付かない。
橋の下を覗いて、水面に映る肉を見て「その肉を寄こせ!」と・・・・グリムトラップだ。
肉を奪う作戦だったが耳が遠いいのか、そのまま立ち去ろうとしている。
灰色猫が黒猫を掴むと川に投げ込んだ。
物凄い水音と黒猫の悲鳴に気が付いた蜻蛉は橋の欄干から下を覗き込む。
水面に映った肉を見て、「その肉を寄こせ!」と一吠えして、肉は落下し、灰色猫が肉をGET!それが、物語のお約束で尊い黒猫の犠牲も報われるというものである。
そして、ジューシーな肉が灰色猫の腹に無事に収まる筈だった。
だが、蜻蛉は犬や猫といった動物のように吠えない。
黒猫が浮き沈みしながら流れ去っていく姿をチラリと見ただけで蜻蛉は6本の足で肉をしっかりと持って橋から去っていった。
--続く
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。
この物語の著作権はFreedog(ブロガーネーム)にあります。
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物語A | 日記
Posted at
2017/08/27 12:44:13
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