ついに2014年F1開幕です!
今年のF1はエネルギーなんちゃらシステムがついていて、複雑極まりないのですが、どこのチームも開幕に間に合わせてきたのはさすがF1チームです。
今年は燃料規制が厳しいので予選で速くても、決勝でペースを維持できるとは限らず、決勝も最後まで目が離せなそうです。
さて、そんなF1チームでも使われているサーキットシミュレーションですが、これを走行会で誰もが使えるようにしたいというのが、僕の野望であります。
僕が2003年にもてぎチャンピオンシビックレースの手伝いを始めたときには、データロガーを使っているチームは2~3チームしかありませんでしたが、現在は当たり前のようにみんな使っています。
サーキットシミュレーションはデータロガーに比べると必要性は低いのですが、近い将来は走行会でも使われるようになると思います。
ということで、今回はサーキットシミュレーション活用の例を紹介したいと思います。
前回紹介したスーパー耐久 ベンツSLS AMGのもてぎシミュレーション結果を使って、富士スピードウェイでのシミュレーションをしてみます。
ところで、僕がサーキットシミュレーションで毎回行っている”合わせ込み”という作業があるのですが、何のことやらわからないと思うので説明します。
合わせ込みとは、実測値とシミュレーションの計算結果の差が小さくなるように、各種定数を設定する作業のことです。
各種定数とは
①タイヤ摩擦円の大きさ(横G最大値、加速G最大値、減速G最大値)
②揚力
③出力カーブと走行抵抗
④走行ラインの曲率半径
それぞれの合わせ込み方法を説明します。
①と②は同時に合わせ込みをします。
タイヤの摩擦円の大きさですが、これはタイヤの種類で決まるので、
こちらの値を目安に設定します。
減速Gは横G×0.9、加速Gは横G×0.8くらいで初期設定をして、実測に合うように調整します。
低速(70km/h以下)は①のタイヤ摩擦円、高速(100km/h以上)は②の揚力で合わせ込みをします。
③出力カーブはカタログやメーカ公表値を使いますが、走行抵抗と両方を変更して加速時の速度変化カーブが大体同じになるように補正値をかけます。
まずは、走行抵抗を0にして、低速側を出力の補正値で合わせます。
高速は、走行抵抗を0にすると実測よりも最高速が出過ぎるので、最高速が同等になるように走行抵抗を設定します。
④、走行ラインは非常に難しいです。時間もかかります。しかも一番大事です。
方法は2つあります。
①実測の走行ラインに合わせる
②実測の速度に合わせる
もちろん、正しいのは①です。
しかし、GPSロガーで得られる走行ラインが必ずしも正確であるとは限りません。
従って、①の実測ライン②の実測の速度からのズレが小さくなるように設定します。
とくに各コーナの最低速度に差がでないように曲率半径の最小値を決めることが重要です。
順番としては
1、それなりの走行ラインを作る(最小旋回半径は
僕の設定した目安に設定すると後が楽です)
2、直線部分で出力補正値と走行抵抗を設定する
3、低速コーナで横Gの大きさを設定する
4、高速コーナで揚力の大きさを設定する
5、1~4を3回くらい繰り返す
6、走行ラインの精度を上げる
2~5は数値を入れるだけなので、10分くらいで合わせ込みが完了します
問題は5の走行ラインです。
ここは分割数だけ数値を入れなくてはならず、何度もやり直さなければならないので、時間がかかりますが、淡々と作業します。
という作業の結果得られた2012年もてぎ走行時のSLS AMGの各種設定値は
①タイヤ摩擦円の大きさ
横G最大値:1.32G
減速G最大値:1.3G
加速G最大値:1.2G
②揚力
140kgf@100km/h
③出力カーブと走行抵抗
出力カーブ:EK9×2.7(500ps相当)
走行抵抗:220kgf@180km/h
これらの数値と、FD2シビックの実測走行ラインとS2000RRの合わせ込み走行ラインと作図法で作成した走行ラインを組み合わせた走行ラインでシミュレーション計算しました。
結果
赤:シミュレーション結果、青:
2013S耐決勝2周目実測
シミュレーションのラップタイム:1’42”67
2013決勝2周目のラップタイム:1’44”411
ちなみにこのときの予選タイムは1’42”143です。
シミュレーションと実測の速度変化のカーブを見るとほぼ合っているので、走行ラインの設定としては問題なさそうです。
車載映像の走行ラインを見ても、おおよそ合ってそうです。
差のあるところをみると、1コーナのブレーキが実測の方が緩いです。
他のところは差が小さいので、2周目で様子を見たか、タイヤが温まってなかった、燃料が重かったのだと思います。
車載映像を見ると最低速度地点も奥になりすぎていて加速開始が遅れているようです。
100Rは路面にバンクがついていて、いまいち実測とシミュレーションが合わないのですが、1500m付近から1700m付近にかけて緩やかに減速するという走り方は合っていると思います。
ダンロップ1個目(右)は実測の速度が低くくなっていますが、S2000RRのときはシミュレーションと合っているので、速度の落としすぎと思われます。
13コーナは上りがきついのでシミュレーションがあてにならず省略
最終コーナは実測の速度にあわせこむと最小旋回半径が小さくなりすぎるので、速度の落としすぎと思われます。
プリウス~パナソニックコーナの走行ラインは、
以前作図法で設定した走行ラインを若干修正して使っています。
青線が作図法、○はシミュレーションの設定
という感じにどこかのサーキットを走った結果があれば、他のサーキットを走ったときのラップタイム、最高速、各コーナの最低速度を走行ライン別に事前検討できます。
さらに、自分と同じクルマの走行データがない場合でも、事前に各地点の速度が計算できてしまうので、走行1本目から自分の走行データと比較してどこが具合が悪かったのかがライン取り含めてわかってしまいます。
なので、とってもオススメなのですが、オススメの理由は別のところにあります。
オススメの理由は、走行ラインまたは速度変化のどちらかを見るともう一方を推測できるようになることです。
コーナの走り方を頭の中で考える人は多いと思います。
これはこれで大切なのですが、具体的に考えていない場合、実行に移すことできない場合があります。
しかし、シミュレーションの合わせ込みという作業は具体的です。
なんどもなんども走行ラインと速度変化を見ながら、区間毎の曲率半径を手入力しなければなりません。
最低速度になる地点をどこにするか?
曲がり始めはどこの地点にするか?
アクセル全開の地点をどこにするか?
自分の設定した走行ラインはコースに対してどこを通っているか?
などなど、全部具体的に自分で設定しなくてはなりません。
こんなことを考えながら1時間も2時間も一つのコーナの絵と速度変化を交互に見て検討するので、速度変化だけを見れば、どんな走行ラインで走っているのか、おおよそ推測できるようになり、走行ラインを変えると速度変化がどうなるかも想像できるようになります。
ということで、実際に自分でサーキットシミュレーションをやって、走行ラインがいかに速度変化に与える影響が大きいかということ感じてもらえたらいいなぁと思っています。