ひょんなことで、むかしの友に会った。
じゅんくんとは、一緒に映画を観にいった仲なんだけど。中学卒業以来ほとんど遊ぶことはなく、どちらかというと過ぎ去りし友だったようにも思う。
でも、会ってしまえば、空白の時は一気に埋まるから不思議だ。アイザックヘイズの歌う
Shaft♪ があまりに格好良かった
黒いジャガーを一緒に観た帰り、自転車をこぎながら
いつかはV8のアメリカンに乗ってやるゾ、と言ってたのに。
30余りの年月を重ねた今、僕もじゅんくんも。
シリンダーの数は半分だ。
それでも。
クルマが好きな気持ちは変わってなかったんだなぁ
じゅんくんが乗ってる
Fait Panda を見て、そう思ったのだ。
それにしても。
高校と中学に通う二人の息子を持つ、いまや立派な父親を演ずる彼が、どうしてこの色なのだ?
淡いクリームのように優しい黄色は。
バニライエローなどと40代の中年オヤジが乗るには気後れしそうなフィアットのネーミング。
まぁ、奥様のクルマだと思えば、それはそれで愛らしいのかもしれない ...
実はさぁ、お袋のクルマなんだよ
え”ぇ~
それは驚くさ。
なんたって僕らの世代、母親と呼ばれる女性のほとんどは戦中派、なのだから。
既に70代に突入する、立派な高齢者ドライバーに属する女性が、バニライエローのパンダとは!
なんて、ハイカラなお婆ちゃん、なんでしょう。
Aクラス・メルセデスからの乗り換えらしいこのパンダは、2ペダルコントロールのAT車。
クラッチペダルはないけれど、一般的なトルクコンバータも存在しない。
原理的にはフェラーリ F1マティックと同じ、自動クラッチ付きのMT車みたいなもの。
動力の液体継手を持たぬ以上、クリープ現象も期待できぬわけで。
渋滞時におけるスムーズなストップ・アンド・ゴーや、坂道発進時の手軽さは、もちろん、ないのだ。
そんなイタリアン・ミニを、メルセデスを運転されていたシニア世代の女性が操作するなんて。
どう考えたって、無謀のような気がするんだけど。
で、お袋さん、気に入ってるの、コレ?
ちょこまか出掛けてるから、気に入ってるんじゃないかな
狭い路地でも取り回しの良いコンパクトなクルマを欲していたお袋さんは、それを期待して買った
Aクラス・メルセデスに、大いに失望されたそうだ。
独特の二重構造による(文字通り)敷居の高いフロアは乗り降りが憂鬱である、と。
アウトバーンの直進安定性を実現するために設定された重めのステアリングは憂鬱である、と。
Eクラスにも負けぬ重厚さを醸し出すインテリアは運転席に座るたびに憂鬱である、と。
シュトゥットガルトの巨人が造ったコンパクトカーは、その中に息づく精神が尊大なのだ、と。
申されたいのかどうかわからなかったけれど、
とにかく、鬱陶しいクルマであったことは、事実らしい。
あぁ、だから。
パンダなのね。
じゅんくんからステアリングを渡され、住宅地の中を元気いっぱいに走り回りながら、僕は理解した。
この楽しさは、なんなのだろう?
たかだか60psしかないエンジンは、回せば回すほど嬉しそうに答えてくれる。
ロボットが操るクラッチはアクセルを踏んで走ってる限り、上級者の足技だ。
短いホイールベースはピッチングを誘発すれど、それが不快でないのは、
ポップな色合いのそれでいて掛け心地の良いシートのおかげ、であろうし。
ウレタンなれど握り具合の宜しいステアリングは不自然なほどに軽いけれど、
前輪がどこを向いているのか指先で感じられるほどに舵はダイレクトであるのが、ご立派。
おませな娘の部屋のようにルーミーな室内とは裏腹に、総じて男っぽいドライブ感が
遊園地の乗り物のように可愛らしい、のである。
イタリアの蒼い空、ローマの石畳、ミラノのドォウモ、ナポリのカンツォーネ
ジウジアーロの傑作、初代パンダの面影は微塵もないけれど、パンダはやっぱりパンダ。
なぜか笑みがこぼれる、このクルマ。
すぐそこのコンビニまでもパンダで行きたいと思わせる軽快感は、下駄代わり。
いや、サンダルのようにオシャレな生活の道具なのかもしれない
だから、じゅんくんのお袋さんがお気に入りになっちゃうのも、わかるけれど。
だけどもふつうは国産コンパクトを選ばないか?
国産のコンパクトカーは、私が乗るには子供っぽいんだと、さ
うん、確かに。お袋さん、粋だねぇ~
Posted at 2006/08/20 16:02:57 | |
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