今回は、最近メーカーで純正採用されることの多くなった、応急パンク修理キットの功罪についてです。
本日、パンク修理にご来店されたお客様がいらっしゃいました。
そのお客様は車の知識も豊富で、タイヤがパンクした時に何をしたらタイヤが駄目になってしまうかよくご存知で、パンクをしたと気付いたらすぐさま車を停止させ、車載されている対処キットでパンクの対処をし、安全運転で当店までご来店頂いたのです。
パンク時の対応として間違いは無く、これでパンクは普通に修理できていたはずでした。
ただ一つ、このお客様にとって不幸だったのは
その車にはスペアタイヤが無かったこと
でした。
標準で車載されていたのは、特殊な繊維が混ざった溶液と12V電源のコンプレッサーがセットになった応急パンク修理キットだったのです。
そして、そのお客様はメーカーの指定どおりにパンク修理キットで応急処置をして、ご来店なさったのです。
結果的に、タイヤは新品交換となりました。
もし、この車に積まれていたのがスペアタイヤであったなら、このお客様であればタイヤへのパンクのダメージを最小限に抑え、滞りなくパンク修理が出来たのかもしれません。(後述の理由により、出来なかった可能性も低くありませんが)
何故、パンク修理キットで処置をしたタイヤのパンク修理ができなくなってしまったのか。
ここで「パンク修理が出来ない」と言い切ってしまうのは御幣があります。
どうしても修理をしようと思えば、
物理的には可能・・・ですが
現実的ではないのです。
これから、その理由を説明しましょう。
まず、件の応急処置がされたタイヤをご覧下さい。
タイヤの中に、白い溶剤が大量に溜まっているのが見えますでしょうか。
この白い溶剤には特殊な繊維が含まれていて、それが穴の開いた箇所に詰まることで、空気漏れを止めるわけです。
この画像をイメージしながら、読み進めてください。
では、一般的なパンク修理をする場合の手順をご説明します。
まずタイヤのパンク修理をする上で、もっとも重要な事が二つあります。
それは、そのタイヤが再使用不可能なダメージを負っていないかどうか見極める事。
もう一つは、空気漏れの場所を発見し修理可能な場所や状態であるかどうか確かめる事。
この二つを念頭においた上で・・・
○タイヤの外観チェック
(1)トレッド面を一周ぐるりと目視チェック。運が良ければ、水試験をしなくても異物が刺さった修理箇所が見つかります。
→今回のケースでは、目視ですぐわかるような異物は発見できませんでした。
(2)バルブコア、バルブ根元などに石鹸水をかけて漏れチェック
(3)(1)(2)でも漏れ箇所が発見できなければ、水槽試験へ。
上記チェックにて、漏れ箇所を発見し、その場所が修理可能箇所であれば、そのタイヤが修理をしても大丈夫かどうかをチェックする。
(4)サイドウォールの外観チェック。パンクした状態で走ってしまい、タイヤ内部構造が破壊されている場合、はっきりとした跡が外観からもわかります。このチェックでそういった懸念があれば、タイヤを抜き内部からもチェックします。
○タイヤを抜き内部チェック
(1)タイヤ内部のショルダー裏側あたりをチェック。表面が割れて内部が見えているようなレベルだと一発アウト。そうでなくても、黒い筋がはっきりと出ているようなら、安全の為に基本的に再使用NGです。

(参考例 別件でのパンクタイヤ 黒い粉が出ているのが見えますでしょうか)
○以上のチェックの上、修理可能だと判断できたなら、パンク修理へ
以上が、おおまかなパンク修理作業の手順となります。
いかがでしょうか? もう、パンク修理キットの問題点にお気づきになられたのではないでしょうか?
パンク修理にとって大事な二つの事が
空気漏れ箇所の発見
と
タイヤへのダメージの見極め
であると先ほど述べましたよね?
パンク修理キットってどういうものでしたっけ? そう、
溶剤の繊維が穴を埋めて漏れを止めるモノです。
つまり、すでに空気漏れが止まっているので、目視ではっきりとわかる異物でも刺さっていない限り、
漏れている箇所を発見するのが大変困難になるのです。
そして、次にタイヤダメージのチェックですが、タイヤを開けると写真のような状態になっています。
この非常にネバネバしてやっかいな溶剤を綺麗に除去しないと、状態のチェックができません。
これホースの水で、その辺の地面に洗い流したりなんかすると、あたり一面が結構すごいことになります。うちなんか、目の前に農業用水路がありますから、そんな事絶対出来ません。当然、排水溝に流すのもNGです。
除去をするには大量のウェスや雑巾などで、地道に拭取っていくしかありません。
ちなみにこれ、めちぇくちゃきつい刺激臭がします・・・。゚(゚´Д`゚)゚。
はっきりって、そんな状態になったタイヤのパンク修理作業、
いったい何時間かかるか解りません。
何とか直らないの? と聞くお客様に僕はいいました。「まる一日預けて貰う事は可能ですか?」と。表面の溶剤を洗う作業の時間はある程度計算できても、穴を埋めた繊維の除去ができるのかなんて、やってみないと解りませんでした。
当然お客様からの答えはNOです。当たり前ですね。其の方は県外の方でしたから・・・
結局、タイヤは新品交換となりました。お客様にとって想定外の出費でした。
実はこのタイヤそのものは、もう製造から何年もたっており、各部のヒビ割れも激しく、パンクの影響からかショルダーにも変形が見られ、スリップサインが出ていないという事以外は、十分すぎるほど交換時期ではあったのですが、お客様自身がまだまだ使うつもりだったのですから、やはりそれは想定外なのです。
今回のパンクで、お客様にとって最適解の手段は何だったのでしょうか?
レッカー移動・・・ 一番安全ですが、ロードサービスに入っていない方にとっては、大きな出費になりますよね。時間も大変かかります。
では、レッカー以外での最適解はなんだったのか? それは
付属のコンプレッサーでエアーだけ高めに入れて、抜けきる前にサービス店に飛び込むことです。
一瞬でペチャンコになっちゃうパンクだったらどうするの? と思うかもしれませんが
一瞬でペチャンコになるような穴があいたパンクに、パンク修理キットは全くの無力なので、その時は諦めてJAFに電話してください。
実は僕も、過去にこのパンク修理キットというヤツにやられたことがあります。
昔のっていたコルト+RAがこれだったんですが、トレッド面をガラス片でザクっとやったパンクには、何の役にも立たず、買ってから3ヶ月の新品Sドライブを新品交換する羽目になってしまいました。
普通のコルトならスペアタイヤが積まれているのに、一番高価なRAだけ修理キットを済み、せっかくのスペアタイヤスペースには、対して役に立たない小荷物入れケースが装着されているのが、余計にやるせなさを助長してくれました・・・
結局、パンク修理キットが漏れを止められるのは、ジワジワと空気が漏れていくようなパンクだけで、そしてそんなパンクであればエアーだけ高めにいれて、安全運転でサービス店を目指せばいいのです。
もちろん、サービス店までの距離が遠く、そして途中で何度もエアー充填なんて出来ないという場合は、修理キットで止めるしかありません。
しかし、修理キットを使ったタイヤは、基本的に使い捨てになる可能性が高いという事は覚悟しておきましょうね。
ちなみに、僕はコルトのパンクトラブルの後、すぐさま付属の修理キットと小物入れケースは倉庫に押し込め、適当なスペアタイヤを積んで置くようにしたのは言うまでもありません。