実は、750iLを下取りにパジェロミニを購入した後、今度は其のパジェロミニを下取りに740iを購入していた事は、当時の家族すら知らない事であった(苦笑)
何故またBMW7シリーズに戻ったのか? それはまだ宮仕えの身ではあったが、此の頃から、副業として物書きを始めたからに他ならない! 元々その為の取材用に山奥や水辺に行ける様、オフロード車であるパジェロミニを購入した経緯が有ったのだが、実際には取材でその様な場所に行く事は無かった。んが、高速走行は飛躍的に増え、しかも長距離の場合が非常に多かった。故にまた高速クルージングを楽にこなせるクルマが必要と感じ始めたので、ちょこちょこっとクルマを探し始めたのだった・・・。
最初はクレスタかチェイサーを中心に探し始め、それらのクルマを見ているうちに、段々“ステップアップ”と言う名の欲が出て来て、クラウンが欲しくなり、そのクルマを探していたら、更に“ジャンプアップ”という名の欲望が膨らんで来てしまい、またまたドイツのツートップ(この頃のアウディは、まだ御三家の地位には達していなかった)に目が移り始めたのだった。
と言う訳で、当時のクルマ屋の店長(この人物は現在行方不明…(^。^;)から勧められていた、ブラバスのエアロをカマしていたメルセデスの300CE(W124)を購入しようと贔屓にしていたその店へと向かったのだが…。
「おう!今日は何しに来やがった!?」
私を出迎えたのは、見た目と性格はガラが悪いが、決して悪気が無い訳では無いK氏(後にココの店長となる)がニタニタしながら近づいて来た。
「この前来た時、店長に勧められた300CEを見に来たんだけど…」
「買うなら見せてやる!」
相変わらず居丈高で、高圧的な態度のままそう言って来たので、ココは≪ソレ≫に付き合わず、
「じゃあ、やめる…」
と言ってスグに踵を返し、店から出ようと歩き出した。
「チョッチョッっと、待ってよ~」
急に砕けた口調になって強面K氏が追いかけて来た。しかし私はソレを無視したまま歩を止めない。すると何とか私を宥め賺そうと蝿の様に纏わり付いた。涙目になって来たK氏をみて流石に可哀相になり、そろそろ許してやるかと振り向こうとした時、店のガレージの奥にひっそりと停まっているクルマに目が留まった。
「ん? アレって…」
そこには、当時“ブリリアントシルバー”のメルセデスSクラスに対抗する様に、“ポーラシルバー”を採用していた7シリーズのBMW(E38)が佇んでいた。それは奇しくもかつての愛車である750iL(E32)と同じ色だった。私は導かれる様にそのクルマの元へと向かった。
「カッケ~」
第一印象はホント良かった。グレードは740iであった。750をとても大きく感じていた私には、丁度良いサイズ感だと思った。更に見ると、何と右ハンドルではないか!しかもサンルーフも付いているし!! 私は俄然興味を憶え暫くそのクルマを喰い入る様に観ていた…。
「これ乗れる?」
視線を車から離さないまま、強面K氏にそう言うと、ガレージの奥に居た若いサービスが、
「あ、それ、まだ手続きが済んでいないので…」
と断りを入れようとした時、強面K氏が被せる様に怒鳴っ…少し大きめの声を発した。
「ああ、イイから、この御仁に“キー”を渡してヤレや!!」
と言うと其のサービスに鍵を取りに行かせた…。
数分後、早速とばかりに勝手知ったる地元の道を走り回った。
やはり12気筒から比べれば4リッター以上あるとはいえ、8気筒はややローパワーなのは否めない。しかしボディサイズはかなり小さく感じられ…と言うより実際かなりのダウンサイズとなっており、狭い路地ではとても重宝した。
多少、サスがヘタっていたが、心配していた右ハンドル仕様も、E30の右ハンドル仕様から比べれば、まるで別物であった。
「コレ買う!」
店に戻るなり、そう宣言した。正にジャストフィットに感じたクルマだった。私はパジェロミニを下取りして追い金だけを払う事にした。強面K氏は急に真面目な態度で書類の準備を始めた。
今思えば、完全に強面K氏の掌で踊っていたようにも思えるが、まあ彼なりの親切心だと気持ちを切り換え、差し出される書類の数々に署名押印を刻んで行った。
書類を渡し終え、ふと見上げた強面K氏の顔は、してやったりの表情を隠そうとはしていなかった…。
そして納車日当日。私はパジェロミニで店に向かった。外は生憎の空模様であった。
店に着くと、綺麗に磨かれていた740が出迎えてくれた。最後の追い金を払いクルマのキーを受け取ると、現在行方不明の店長と、後に店長となる強面K氏共々、満面の面持ちで私のファーストドライブへと送り出してくれた…。
高速に乗った後、辛うじてもっていた空模様も、とうとう土砂降りとなった。私は直ぐにワイパーレバーを一番高速になる様動かした。と同時に物凄い違和感に襲われた!
「ナンダナンダ? 何か…すっごく、気持ちワリーぞ!!」
その違和感は目の前を高速で動くワイパーから発せられていた。雨が降るまで全く気にもしなかったが、この頃のBMWの右ハンドル車は、相変わらずウィンカーレバーとワイパースイッチの位置が逆なのは判っていたが、何とワイパーの動きも左ハンドル車のままだったのだ! つまり本来の右ハンドル車なら左下から右上に拭くべき軌道が、右下から左上となっていたのだ! 当然運転席の正面には、かなりの拭き残しの部分が現れた。
「ナンダナンダ、クソ!! ゲルマンの糞野郎が~~日本人舐めやがって!!!」
私は豪雨の高速道路を走る740の車内で、一人急激にこのクルマに対する愛情が冷めて行く感じと、同時に湧き起こる怒りに包まれていた・・・。
数十分後、私は店に戻るなり、強面K氏に向かって怒鳴っ・・・少し大きめの声で宣言した。
「このクルマを下取りに、パジェロミニを買う!!」
顔面蒼白となっていた強面K氏に対して今度は私が、してやったりのニヤつき顔を満腔の想いを乗せて誇示していた…。
と言う訳で、このクルマを所持していたのは、たったの1日…では無く半日にも満たなかったので、家族が知る由も無かったのである。
これより後、ちゃんと右ハンドル仕様のワイパー軌道となった先代の5シリーズ迄、私はBMWに対して全く興味を示す事は無かった・・・。