歴代BMWの中で最も長く乗り続けたペケ6号だったが、6年1ヶ月をもってこの度ドナドナされていくこととなった。
この間の走行距離も85,000kmと歴代最長だったが、60,000kmを超えた辺りから徐々にオイル食いが顕著となり、最近は2,000km台でオイル補充警告が出る(1L足さないとヤバいよアラーム)ほどだった。
シリンダボアとピストンリングが結構摩耗して来ているのかなとも思ったが、サービス曰く「そんな程度で減るほどBMWのシリンダボアはヤワじゃ無いです!」とのこと。
要するにエンジン自体は10万kmどころかそれ以上でも余裕で楽勝なのだが、違うところでちと厄介な症状が出てくるそうな。
しかも、この症状はN63A(V8ツインターボ4.4L)特有のものでは無く、直噴ターボ車ならどのメーカーでも(つったってドイツ車くらいだが)走行距離が長くなると避けられない現象なのだという。
端的に言うと、それは「オイル潤滑経路の静脈硬化」とでも言うべきか。(動脈ではない)
ではここから、この症状について詳しく述べていこうと思う。
さて、ターボチャージャー軸受けは一般的にエンジンオイルを潤滑に使用しているが、10万回転以上のタービン高回転と高温に耐えうるベアリングは無く(R32スカイラインはボールベアリング併用だったが今は無し)、基本的に軸受けはオイルのみでフローティングさせている。(動圧軸受け)
ポンプでせっせと汲み上げられたオイルは、タービンの軸受け潤滑及び冷却配管に送り込まれ、800度近くまで熱せられる排気側タービンの軸受けを冷却しながら潤滑し(軸受けはそこまで熱くは無いが)、その後はまた戻りの配管を伝ってエンジンへ戻る。
タービン軸受けからの戻り側が所謂静脈配管というわけだが、当然ここの油温はエンジンブロック内の油温よりかなり高温では無いかと推察される。
しかし昨今のターボチャージャーは油温上昇による軸受けオイル焼き付きを防ぐため、その上にクーラントの冷却配管まで張り巡らせているため、タービン軸受け自体はオイルだけで冷却されるわけでは無い。
さらにクーラント循環はエンジンが止まっても電動ポンプでしばらく続くため、大昔のようなタービン冷却のためのアイドリングなんざ理論的には無用となっている。(ターボタイマーなんて今は不要)
このように冷却技術が格段に進歩したため、ターボ車といえどもフールプルーフとなり、今やエンジン排気量ダウンサイジングのおかげでターボ搭載車は一般的になってしまっているのだが、問題はここからである。
当然のことだが、NAエンジンと比較してエンジンオイルへの熱衝撃はターボ車の方が顕著であり、そのため使用オイルは高性能のものが必須となるのはいうまでもない。
これをケチって安価なオイルを使えば、たちどころにタービン軸受けはオイルが焼き付き、タービン破損へとつながる。
そのためターボ車は一般的に100%化学合成オイルを使用しているのだが、それでも経年変化でオイルは当然劣化していく。
しかし、昨今の自動車メーカーは純正使用オイルのロングライフ化を10数年前から提唱しており、2年30,000kmなんてのが当たり前のように喧伝されていた。
はっきりいって、NAエンジンならまだしも、ターボ付きエンジンでこんなロングライフは自殺行為に近い。
今や高性能車どころか、一般車まで排気量のダウンサイジング化でターボ装着が当たり前になっているご時世で、オイルのロングライフを提唱し続けるメーカーにも責任はあるといえよう。
事実、直噴ターボエンジンが世間に氾濫して既に何年もが経過し、長距離走行車が増え始めてからこの問題が徐々に表面化してきている。
具体的には、過走行車のほぼ全部が顕著なオイル消費をし始めているのである。
ではどうしてこのような現象が起こるのか。
ここからはあくまでも素人の推察として読んで欲しいのだが、この原因の大半は上述した「静脈硬化」にある。
タービン軸受けを潤滑したオイルは、ここで高温に晒されてから戻りの配管へ入るが、この時点での油温はまだかなり高い。
おそらく沸点までにはたどり着かないように設計はされているのだろうが、天ぷら油のような状況と考えても良いであろう。
高温となったオイルは戻りの配管内で徐々に冷却されていき、最終的にはオイルクーラーで冷却されて適正油温にまで戻るが、これを長年続けているとタービン軸受けから戻りの配管内に極微少ずつながらも「コレステロール」が蓄積されていくのではないかと考えられる。
つまり、戻りが徐々に詰まってくるのである。
では戻りが詰まったオイルはどうなるのか。
せっせとタービン軸受けへ供給されたオイルも潤滑後に戻される配管が狭くなってこれば、ここでオーバーフローすることになる。
オーバーフローしたオイルは軸受け部分からタービン内へ漏れることになるのだが、実はオイルが排気タービン側へ漏れると高温の排気ガスで一挙にオイルが燃焼しマフラーから白い煙が吹き出すため一発で分かる。(大昔はこういう車がたまにいた)
しかし、メーカーもその辺は心得ており、エキゾースト側へオイルが漏れないよう最近はちゃんと設計時に配慮がなされている。
つまり、仮にオーバーフローしても軸受け部から漏れたオイルは吸気圧縮側タービンの方へ導かれるようになっているわけだ。
これであれば、タービンで圧縮された吸気と共にオイルはシリンダ内へ送り込まれ、ここでガソリンと一緒に着火されるが、都合の良いことにシリンダ内の燃焼時間は非常に短いため、大半のオイルは燃焼せずに排気ガスと共に放出されていき白い煙を吐くことはまず無い。
要はオイル消費が激しくなったターボ車は大昔の2サイクルエンジンのように混合燃焼状態になっているといえよう。
その証拠に、オイル食いの症状が出ている車のマフラー出口にはオイルがベットリと付着している。
実際、オイル食いが始まったエンジンのインテイク内もオイルの付着が顕著となっており、当初はブローバイの負圧が高すぎてクランクケース内のオイルが一緒に吸い出されているのではという疑惑もあったらしい。
これも一理あるが、真相は経年劣化による戻り配管の詰まりが最も妥当と考えられる。
尚、近年このオイル食い症状は、長距離走行車のみならず、走行距離があまり伸びない所謂「チョイ乗り」車にも波及しているようである。
滅多に乗らず、たまに乗ってもエンジンが温まらない前に目的地へ着いてしまう買い物専用車でも起き始めているのである。
この場合、水温は無論油温も適正温度に上がらないうちにエンジンを切ってしまうため、油温が上がらないタービン潤滑配管にも大きな圧力が掛かる。
そのためその圧力によってオーバーフローしてしまう状態の運転のみが延々続くため、オイル食いが発生するのではあるまいか。
しかも、オイルというのは短時間でこのような油温上昇、油温低下のサイクルが頻繁に発生すると劣化も進むものである。
この問題をメーカーも放置できなくなってきているようで、某メーカーは従来のエンジンオイル2年30,000kmまで無交換というサイクルを、1年ないしは15,000kmまでと一挙に従来の半分まで引き下げた。
つまり、ターボ車のオイル劣化が放置できなくなってきたことを暗に認め始めたのである。
実際、オイルが混じった混合燃焼が続くと、シリンダヘッド内のインジェクターノズルや点火プラグがオイルで汚損する危険性が生じてくる。
昨今の完全直噴(インテイク内噴射や副燃焼室を一切持たない)エンジンは、各気筒ごとに1個ずつ高精度のピエゾインジェクターを使っており、これが壊れると結構高価な修理代が発生するため、放っておけなくなったのである。
ある知人の車は、某ドイツメーカーのCセグメント車で、1.4Lの排気量で2.0L並みの馬力とトルクを発生するターボ&スーパーチャージャーの二段式過給エンジン車であった。
エンジン自体は非常に好調で、既に10数万kmを走破していても全く問題ないほどだが、ことオイル消費だけは10万kmを超えてからドンドンと顕著になってきた。
現在では1.4Lという小排気量にも関わらず、1,500km程度で1L消費するほどであり、常に車内へ1L缶を常備しているそうである。
いくらテストを行っても、長期に於ける経年変化というものはやはり市場へ出てみてからで無いと分からないものも多く、昨今の現象はこれの典型的事例といえよう。
メーカーも重い腰を上げ、これに対する抜本的な対策を実施しないわけにはいかなくなってきたようで、今年はボチボチとエンジンリコールを発表するメーカーが出てきそうである。
まずは完全直噴ピエゾインジェクター方式を以前から採用している大手メーカーで、さらに画期的なインテイク&エキゾースト方式を確立した新型V8エンジンを世に出したメーカーが動き出したようである。
このメーカーの従来では考えも付かないVバンク内側排気、外側吸気という常識を破ったエンジンは大成功を収め、その後近年になって続々と他メーカーまでもが新型V8エンジンでこの方式を採用し始めているが、これらも早々に同じ問題に直面するのは避けられないであろう。
てなわけで、3年ぶりのブログはマニアックな長編となってしまったが、最後に更新した愛車を紹介しておこう。
今回ひょんな事に吊しのM235iを買うことになってしまった。
2006年に2ndカーとして購入したアルファ147GTA以来のCセグメント車となる。
この車は発表当時から気に入っていた車でもあり、ペケ6を1stカーに、これを2ndカーにというのが理想だったわけだが、肝心のペケ6がここへ来て相次ぐトラブルで修理代も増え、さらに前述したような症状が深刻化するにつれ、もはや売れるときに売っておかないと修理代の方が圧倒的に嵩んでしまうのではという状況になり始めていた。
とはいえ、挽回し始めたとはいえまだまだ不景気の後遺症はすぐには癒えず、おいそれとペケ6を新型に更新することなど予算的に未だ難しい状況。
さりとてここのところ「エンジン出力低下!重大アラームです!」なんてメッセージまで出てきて、これが本当ならかなりの高額修理費ですとまで言われると、幸いアラームは一旦消えたとはいえ、これに加えてオイル食いの問題もあり、もはや乗り続けるのが怖くなってきていた。
しかし、まだまだ更新は出来ないと、上記症状と例のオイル食い症状の二つを直すのに幾らくらいかと聞いたら、何とまあ諭吉様が1個中隊以上は飛んでいくと言う。
さらに、もしミッションも逝かれたらさらに1個中隊追加と言われた日には、開いた口が塞がらない状態であった。(これ、国産車なら某メーカーのFRセダンが新車で買えますぜ)
そんなときに、滅多に入らないM235iがD~ら~に入ってきた。
聞けば客先付かないままの仕入れだという。
どうやらD~ら~車両係がたまには買っておくかと発注しておいたのが届いたものらしい。
確かに今やM4よりレア車種で、うちのD~ら~だけで既にM4は7台売っているにも関わらず(担当営業君だけで4台販売済み!)、M235iは納期も掛かるし枠も希少ということで初のタマだとのこと。
まあオーダー無しでも入ればすぐ客が付くと見込んでの仕入れだったそうだが、案の定D~ら~内でも既に引き合いが数件付き、さらに全国のD~ら~からも引き合いが次々と入って来ているという。
最近はD~ら~端末で全国のD~ら~に何が入ったか一発で分かり、めぼしいものがあれば先着順で引き合い希望を登録できるそうな。
今回の便で来たM235iは数台で、この時点でBMW-JAPAN含め全国に残っていたタマは白ボディーが2台と目の前にある黒ボディー1台限りという。
さらにこの車はOPでメリノレザーシート(赤)が付いており、黒の内装に赤シートというのが自分の理想とピッタリ一致していた。
さらには、純正Mと同様鋳物製2個イチとはいえブレンボ製ブレーキが前後ともに搭載なのも非常に好ましいし、タイヤもRFTではなく軽量なミシュランPS3というのも誠にグッド。
ただ、ボディー色が黒というのが自分的にはイマイチで、実際今まで購入した10数台の車で黒は1台も無い。
最も多いのがシルバー系で、BMWは歴代4台ともチタンシルバーないしは濃いグレーであった。
次に多いのが白であったが、これはどれも吊しのタマであり、即納だから購入しただけであり自分でチョイスしたわけではないが、黒よりはまあ良いかという感じ。
だが、目の前にあるのは理想のOP付きとはいえ黒ボディー、早速残りの2台のOP状況を調べてもらったところ、1台は内装黒で標準のアルカンタラ&布製シート、もう1台はレザーだがブラックだとのこと。
黒ボディーが何とも決断を阻害していたため、最初は乗り気では無かったし、どうせ既に引き合いが付いているなら買えないだろと思ったら、担当営業がいの一番に押さえてますと言う。
営業君、ミズテンで売ること想定で押さえたらしいのだが、猶予は2日間のみらしい。
だが、満身創痍の過走行車であるペケ6自体、7年落ちでは大した査定付かないでしょと言ったら、予想を覆すほどの高査定とのこと。
聞けば、ペケ6のV8自体タマが希少で結構な値がまだ付くのだという。
そう言われれば気持ちは黒ボディーでもグラッとくる。
何より今処分した方が高額な修理代も発生しなくなるとなればお財布的にもむしろ採算が合う。
決断すれば後は速い、さっさと購入を決定し愛車ペケ6はまた重大アラームが出る前に即引き取ってもらうことに。(アラーム出ちゃったら査定台無しだし)
その間の代車は営業君の愛車である420iM-spを一週間借りることとなったが、ここんところ相次ぐペケ6の入院で1ヶ月の間に320i、118i、320GT、さらに420iと、M235iと同じ内装デザインの車に立て続けに乗ったことで車内の新鮮味は少薄れたとはいえ、新型iDriveの使い方も習得できたので良しとしよう。
さらに内装は一緒とはいえ、新車への乗り換え前に低パワーの車ばかり乗ったのはある意味正解で、M235iをD~ら~で引き取り、いざ街中へと走り出したときの感覚は、まさに「ぶっ飛び感満載!」であった。
直前に乗っていた420iのSモードよりも、エコなコンフォートモードで走っても遙かにパワフル!、「絶対に1,000kmまでは4,000回転以上回さないで下さい!」とサービスに釘を刺されていてもチョイ踏んだだけでキックダウンもしないままグイグイ回転が上がって行ってしまう。
シーケンシャルターボのおかげで1,300回転から最大トルク(450Nm)が出るためだが、これは以前乗っていたE53 X5 の4.4L V8NAエンジンより低速では勝っていることになる。
この感覚はV8ツインターボ407馬力のペケ6よりも多少上回っているほどで、ペケ6のSモードの走りがM235iだとコンフォートモードで出来てしまうのはやはり800kg以上も軽量なせいなのだろう。
しかも上記印象は4,000回転どころか3,500回転以下までであり、まだまだじっと回すのを我慢しての状態だから、慣らしが終わった以降はどうなるかが極めて楽しみ。
通常なら306馬力のN55エンジンを、Mがチョイいじって326馬力にしただけでこれだけ変わるのも驚きだが、この軽快感は147GTAとも違い、その後に乗っていた997C2Sとも違った、まさにライトウェイトスポーツという感がピッタリ。
14年間に亘り、E53 X5 4.4i 初期型、E53 X5 4.4i 後期型、X6 50iとV8エンジン車ばかり乗り継ぎ、BMW本来の味である直6は正室カーのE90 330iM-spしか経験が無かったのだが、あらためて小型のボディーに高出力の直6こそBMWの醍醐味だと感じ入ってしまった。
まあこの車もゆくゆくは正室カーになるのだが、とりあえず次期1stカーが購入できるまではダウンサイジングの楽しみを味わうことにしよう。
しかし、確信犯的に派手なエキゾースト音と空ぶかししただけでもパンパンと鳴るアフターファイア(完璧演出)は、寄る年波にはチョイと恥ずかしいのも事実。
とはいえ、この歳でこんな小さい車に乗ること自体気が引けるのだが、年々肥大化してもはや細い路地など入れなくなっていたペケ6に比べると、圧倒的に取り回しが楽で機敏なM235iはしばらく楽しめそうだ。