- 車・自動車SNSみんカラ
- グループ
- ジェットストリーム シアター (elymingo)
- トーク
- ☆ジェット オン ドリーム ~夢幻飛行~ 第3部
グループ
ジェットストリーム シアター
-
☆ジェット オン ドリーム ~夢幻飛行~ 第3部
-
-
ジャパンエアネットのベテラン機長、フェアレ・オッサーニは
短距離国際線アジア路線と国内線乗務を終えると、新千歳空港
運行管理部で所定の手続きを済ませ、今夜宿泊するホテルへと
足を向けた。「ふう、今日も平穏に終わったか・・・」
「お疲れさまです」と迎えのハイヤーがすでに待機していた。
ときどきに離着陸するジェット機の轟きがこだまする飛行場をあとにして
送迎ハイヤーの静かな車内に乗り込むと、何やら聞き覚えのある音楽が
静かに流れていた。それは、どこかで聞いたことのあるメロディだった。
が、すぐには思い出せずにいた。
「ドライバーさん、これ、このBGM、なんだっけね?」
車内に静かに流れるオーケストラサウンド、その旋律は、確かにどこかで
聞いたことのあるメロディであったが、静かな編曲のせいか、オリジナル
の曲をなかなか思い出すことができず、思わず問いかけてしまったのだ。
-
「外人機長さん、日本語が上手で・・・これですか?
確か・・・米米クラブの‘浪漫飛行’ですね、歌ナシ
ですから違う曲のようですね(笑)
「あ~その曲でしたか(苦笑)・・・ありがとう、疲れが取れますね(笑)」
「そうですか、ありがとうございます」
西の空は、はやくも夕暮れの色になり、一日の乗務の疲れとともに
飛行場を離着陸する航空機のシルエットをただボンヤリと見上げる。
新千歳空港19L滑走路に着陸するアプローチルートに変更はないようだ。
風向きによっては海側からのILS 01R アプローチに変わることもあるが
さきほどと同じVOR/DME NR2方式で、左旋回しながらランウェイ19L方向に
消えてゆくジャンボ機のシルエットを目で追っていると・・・
「・・・機長さん、はい、もうすぐ到着ですよ」
美しいBGMと安堵の時間をゆっくり堪能する間もなく
ハイヤーは、JANA千歳ホテルに到着した。
-
-
フェアレ・オッサーニ機長は、フロントでチャックインを済ませ
ホテルの部屋に入ると、久しぶりに札幌市内に住む友人に電話をかけてみた。
明日は午後からの乗務になるため、市内での食事も悪くないと思っていた。
(ピュルルルル ピュルルルル ピュルルルル・・・)
しばらくしても出ないので、携帯電話にかけてみた。
『ハイ、北野です』
「ハ~イ、ミスターキタノ、オッサーニです、お元気?(笑)」
『お~ミスターオッサーニ、で、今ひょっとして千歳のホテルから?」
「そのとおりJANAホテル!(笑) 市内で食事でもどうかなと思ってね」
『いや~残念だなぁ・・・これから夜勤なんですよ~」
「ヤキン? オ~マイガッ(笑) 」
『あ、いや、今からホテルの近く通るから、差し入れしますよお』
「OK、707号室で寝てる(笑)」
『ハイハイ、わがまま言ってると、コンビニ弁当にしちゃうぞ(笑)」
「ワタシ贅沢イワナイ・・・もうすぐ身体検査アル(笑)」
フェアレ・オッサーニ機長は、久しぶりに聞いた
友の声を聞いただけで、嬉しかったのだった。
ホテルの外は、とっぷり暮れていた。
-
-
札幌市内の友人が尋ねてくるまで、まだ、すこし時間がある。
オッサーニは、カバンの中から航空関係の資料を取り出し
日本の空で予定されている航法変更などに備え、予備的な
知識に目を通すため、必要書類を出してベッドにゴロンと
身を投げ出し横になった。しかし、一日の疲れからもあり
満足に頭に入るわけもないことは承知していた。
ふと、昔の飛行訓練所の光景を思い出していた。
オッサーニが米軍を退役したあと、民航飛行訓練を経て
はじめてJALのDC-10型機に乗務してから何年が
たつだろうか・・・
アメリカ西海岸カルフォルニア州
カービューオークランド・シティ JAL飛行養成訓練所―――――
オッサーニは、少年時代を過ごし育ったカルフォルニアの青い空が好きだった。
その地に開設されたJALの訓練所は、いわば彼にとって第2の故郷であった。
日本の航空キャリアと縁を持ち、日本人女性を結婚した。アメリカと日本を愛し
やがて、世界の空を飛び回るジャンボ機のベテランキャプテンにもなっていた。
普段はあまり思考することのない昔の事象を、今夜は何故か
思い起こしてしまうのは、さっき旧友と会話したせいかもしれない。
オッサーニは、いつしか、ウトウトと浅い眠りに入っていた・・・
-
オッサーニ機長が運航するJAL524便、福岡発 東京行き B747SR型機は
伊豆大島を眼下にしつつ東京アプローチエリアに向けて順調に降下を
続けていた。
『ドドン!ドン!』(何かの衝突振動音)
警報音とエンジン計器類に警告表示が点灯し、ジャンボ機の機体は
片側にヨーイングしながら傾き始めた。
航空機関士「第1第2エンジン警報!」
副操縦士「第1第2エンジン停止」(左主翼エンジン停止)
オッサーニ機長「何だ!こんな高度でバードストライクか!?」
機長は、右翼に偏った推力による飛行姿勢をコントロールするため
かなりの力をこめて右ラダーを踏み続け、エルロンで傾きを修正した。
機体のコントロールを保持しようとしたが、しかし動きが緩慢に感じた。
何かが機体に衝突したようだが、コクピットからは状況が確認できない。
航空機関士「ハイドロ オールロス!」
オッサーニ機長「何!オールロス?」
あの御巣鷹尾根の事故と同じ油圧喪失など、信じがたいことだ。
房総半島上空にさしかかるが、このままだと海上着水を決断する
としても、結果はどうなるかわからないことは、シミュレーター
による模擬飛行で体験していたため、一気に緊張が走っていた。
シミュレーターでは、エンジン推力のみによる航法では
かなり困難であることも実証されていたが、オッサーニ
のテストチームは、かなりの時間、機体をコントロール
することに成功していた。しかし、着水寸前で姿勢制御
に何度も失敗していた。
すぐさま客室乗務員を呼び、緊急着水の準備をするよう指示する。
-
この緊急事態は、すぐさま東京管制区、および東京航空局に通報された。
羽田のRCC救難調整本部や、航空自衛隊も緊急捜索救難体勢に入り
茨城県百里基地からはF104が緊急発進した。
この緊急事態を受けて、第3管区海上保安部も東京湾一帯で緊急の
警戒態勢に入っていた。また、飛行経路によっては、外房太平洋側
への着水も考えられるため、貨物船、漁船、フェリーなど、東京湾や
外房沖すべての船舶に航行制限と避難命令が発せられ、百里管制区
成田管制区も、付近を運航中の全航空機に飛行制限をかけて万全の
体勢である。
航空自衛隊機 百里基地所属 津院太 歩(ツインタ アユミ) 空尉
「日航機 こちらは自衛隊支援機 F104 要求はありますか」
オッサーニ機長
「支援に感謝する 何かが機体に衝突したもよう 左エンジン2基損傷停止」
航空自衛隊機 津院太 空尉
「了解 要求内容があればどうぞ」
オッサーニ機長
「左翼エンジン周辺、尾翼周辺に大きな損傷がないか確認してほしい」
航空自衛隊機 津院太 空尉
「了解、機体外見を確認するため接近する」
オッサーニ機長
「油圧が低下中、操縦困難のため、海上着水したい」
航空自衛隊機 津院太 空尉
「了解・・・」
日航機の飛行経路、速度、高度が安定せず予測が困難であった。
随伴飛行による接近観察は、戦闘航法とは違った難しさがあった。
へたに近づくと、機体同士の接触など不測の事態を招くことがあるからだ。
航空自衛隊機 津院太 空尉
「日航機へ、え~外見上、機体に大きな損傷は今のところ確認できない」
オッサーニ機長
「もう一度よく見てほしい! こちらハイドロ低下中、現在、操縦困難」
-
高度を下げてはいたが、すでに房総半島上空を通過しようとしていた。
機体はしだい左への機首振り旋回モードが強くなり、意のままに修正
操舵することが非常に難しくなっていた。
御宿上空で大きく左に旋回し、都心方向へ向かいかけた。このままだと
陸地市街地に入り込む可能性もある。高度計器が絶えず変化して気分が悪い。
左旋回モードを逆に利用して、飛行方向を外房太平洋側に向けるべく
ラダー、エルロン、昇降舵、スラストレバーを操作するが
しかし、機体は言うことをきかなくなっていた。
避難体勢が整い、初動救助がしやすい東京湾への着水は相当困難な状況だ。
やはり太平洋側、望みは九十九里沖だが、不安定な高度処理が追いつかないため
このままだと茨城沖、福島沖、場合によっては左旋回を繰り返しながら
遠く宮城沖への迷走飛行も念頭にいれなくてはならないだろう。
いずれにせよ、陸地側への飛行、遠く離れた大海原への着水は
何としても避けたいとオッサーニは考えていた。
ゆっくりだが、ついに全油圧を喪失した機体は、片性ダッチロールと
片翼推力増減によるフゴイド運動を伴い、不安定極まりない飛行状態
に陥りはじめていた。『墜落させてたまるか!』という強い意志とは
裏腹に、この巨大な飛行機がまるで悪魔に操られているかのようだ。
コクピットの窓ごしに、自衛隊の支援機が近づいては、また遠ざかり
支援パイロットも、息の合わない飛行経路に困惑していることだろう。
まさに、あの御巣鷹尾根の事故と同じ、シミュレーション擬似飛行そのもの
いや、片肺飛行という、それをはるかに上回る悪条件であることは明白だった。
全身から冷汗が吹き出ているのを感じながら、オッサーニ機長は機体を落下させ
ないように、スラストレバーによる飛行コントロールと格闘を始めていた・・・
オッサーニが、ハッ!と目を覚ましたのは、ホテルのベッドの上だった。
何かのうめき声を発していたかもしれない。かたわらの鏡に目をやると
部屋の間接照明に陰った自分の顔が映っている。額に汗がにじんでいる
のが分かった。『OH!・・・これは悪夢だったのか・・・』
JANA千歳ホテル 707号室―――――
オッサーニは、ホテルのベッドで浅い眠りの中、短い夢を見ていたのだった。
彼は今見たばかりのことが、ただの悪夢であったことに、大きく安堵した。
夢を思い返してみると、なんとバカげたストーリーだと苦笑いもしたが
『最近、ちょっと疲れがたまっているせいだな』と、自分に言い聞かせた。
旅客機の機長とて、ごく普通の人間であり、悪い夢を見ることもあるだろう。
おそらく、昔を思い出したときに、潜在的な記憶の中から過去の事象が
脈絡もなく、からみついて、呼び起こされてしまったのかもしれない。
そうこうしているうちに、フロントからの電話が鳴った。
旧友が差し入れのため、フロントロビーで待っているのだ。
悪夢の冴えない顔をしてはいられない。
洗面室で顔を洗うと、急いで部屋を出た。
エレベーターの1Fボタンを押し、ドアが開くと、そこには
差し入れを持参して笑顔で待っている旧友のすがたがあった。
-
-
羽田空港たそがれ―――――
行き交う人々、航空乗務員や地上職員たち、夜景デートスポットで訪れたカップル
航空機の発着シーンを見る航空ファン、さまざまに、かかわりを持った人たちに
よって、今日もまた、この大空港に活気を与えていた。
到着便、出発便などのインフォメーションアナウンス。
人々の雑踏、そして空旅を前にした微笑みの会話と会話。
そこは航空機という非日常的世界へといざなう玄関口としての顔がある。
さまざまなお店が立ち並ぶショッピングモール街も一段と賑やかである。
ここは、空港ターミナルにある‘のれん横丁’の麺処「 食楽亭 ~オッサン~ 」
店のメニュは、長崎豚骨ラーメン、博多ラーメン、沖縄ラーメン、札幌ラーメンなど
日本各地の地場ラーメンや、宇都宮名物の特製ギョウザも人気の定番商品である。
栃樹秀美(トチギヒデミ)副操縦士「ちわ~」
食楽亭オーナー
「へいっらっしゃ・・・お~久しぶりっすね! あれ?(乗務は)終わり?」
栃樹秀美 副操縦士
「ん、まあ、そんなとこ、今日は疲れたぁ(笑)」
食楽亭オーナー
「しばらく顔見なかったんで、クビにでもなったと思ってましたよ(笑)」
栃樹秀美 副操縦士
「ったく口が悪いなぁ~(笑)・・・しばらくドサ周りが多かったんでね」
食楽亭オーナー
「冗談ですよぉ、で、いつもの佐野ラーメンでいいっすか?」
栃樹秀美 副操縦士
「ん、あとギョウザもね」
-
「どこかで聞いたことある声だけどぉ、誰だろう?」
カウンターの奥で、聞き覚えのある誰かがつぶやいた。
栃樹秀美 副操縦士
「うわ!プー・ゼットマン機長がなんでここに?!(汗)」
プー・ゼットマン機長
「あれぇ、奇遇だなぁ(笑) JANAでのOJTも順調に終わったみたいで昇職おめでと」
栃樹秀美 副操縦士
「ゼットマン キャップテンがラーメン食べるなんて、初めて見ましたよ」
プー・ゼットマン機長
「え~知らなかった? 大好物だよ、ジャバニーズ ヌードル(笑)」
JANAは外人パイロットが多いが、彼らのほとんどが日本語が堪能であり
日本人以上に日本文化に造詣の深い人もいる。
ベテラン機長のプー・ゼットマンも、そんな一人であった。
その店内の壁には『たそがれ』と題した全紙大の写真が掲げられていた。
店のオーナーの愛車、日産フェアレディZ32を前景にした夕暮れの東京湾であろうか。
Z32の特徴的なヘッドランプと、パープルレッドの夕焼け雲が遠景の空に拡がり
薄暮のナトリウム灯に照らされた港湾の風景とあいまって、その幻想的な作品は
来店客の目をひく存在である。
また、彼の友人でもあり姉妹店でもあるパスタ専門店『Gフォス』オーナーの
写真も掲げられていた。こちらの作品も個性的である。『横浜みなとみらい』の
夕景にとけこむ愛車は、三菱GTOだろうか。ストロボにスローシンクロさせた
幻想的な色合いが印象的だ。写真のわきには、古びたエレキギターが飾られ
よく見るとフェンダーの文字が書かれていた。
-
プー・ゼットマン機長
「使い古したフェンダーのストキャねぇ、渋いねぇ」
食楽亭オーナー
「若い頃はですね、よく彼とスタジオで遊んだもんですよ」
栃樹秀美 副操縦士
「へえ~オーナーもギター弾きとはねぇ・・・人はみかけに(笑)」
食楽亭オーナー
「おいおい、秀コパイだって、パッと見、どう見ても普通の人(笑)」
プー・ゼットマン機長
「栃樹クン、こりゃ、一本とられたな(笑)」
栃樹秀美 副操縦士
「まいったなぁ(苦笑)」(頭をかきながら)
プー・ゼットマン機長
「次は機長昇格に向けて頑張ってもらわなくちゃね。今日は誰レグ?」
栃樹秀美 副操縦士
「渡鳥教官、トライ・スターマン教官の厳しい指導が(苦笑)・・・
今日は御山参二(オヤマサンジ)機長と朝から2.5レグ(地方路線5往復)して疲れました(笑)」
プー・ゼットマン機長
「じゃ、君に機内アナウンスさせたでしょ?(笑)」
栃樹秀美 副操縦士
「ええ、初のアナウンスでしたが、なんとか無事に(笑)
しかし・・・ゼットマンキャプテンが私服でこの店に来てたとは」
プー・ゼットマン機長
「今日はスタンバイ勤務で、突発的な乗務要請もなく平穏に終了(笑)、まぁR-NAVの
データーベース変更の予習や、たまっていたメールボックスをみたり、宿題の座学したり
けっこう忙しかったけどね。もうすぐ航空身体検査だし、カロリーは控えてるよ(笑)」
-
パイロットは半年に一回の航空身体検査があり、検査項目は多岐に渡るため
彼らにとって、あまり気分のいいものではないようである。
一般身体検査、生活習慣病検査、レントゲン、バリューム検査、尿血液検査の他
眼科検査の項目だけでも一般視力のほか、近距離視力、中距離視力、遠距離視力、
視野、深視力、色覚、眼圧、輻輳近点、瞳孔散瞳点眼による眼底検査などがあり
パイロットに要求される身体能力、視力検査の緻密な厳正さがうかがえる。
栃樹秀美 副操縦士
「あの瞳孔を開く目薬は、しばらく視力がおかしくでイヤですね(笑)」
プー・ゼットマン機長
「確かにあまり気持ちのいいもんじゃないね、外に出ると3~4時間は霧が
かかったようにまぶしいからね、しばらく室内から出ない(笑)」
栃樹秀美 副操縦士
「ええ、スターバックス(コーヒー専門店)で時間を潰します(笑)」
航空身体検査のほかに、いわゆる「シックスマンス」とよばれる
事業用パイロットに義務づけられた技能検査が年2回行われるが
それもまた、空の安全にかかわるパイロットライセンスを維持する
ことの厳しさの表れであろう。
命をあずかり空を飛び続けるということは、半年ごとの検査審査と
合格、更新の繰り返しがあってはじめて、可能となる。終わりなき
スキル向上への道を歩むと言い換えることもできるだろうか・・・
-
-
-
新大阪行きの新幹線キップを手にした見るからに仲のいい男女。
東京駅地下コンコースの電光掲示板で列車情報を確認しながら
その新婚らしき若夫婦は新幹線乗車ホームへと昇るエレベーター
に乗り込んだ。
やがて、ホーム上の風がエレベーター通路内にフワッと
流れ下りてきて、駅弁か何かの美味しそうな香りがした。
鉄道の旅が好きな人ならば、こんなちょっとした匂いや
駅の発車案内、発車チャイムのメロディーなどを耳にすると
うれしく気持ちの高ぶりを感ずるものなのかもしれない。
妻「なんや、うち、おなか減ったわ(笑)」
夫「そうだなぁ、駅弁でも買って食べようか?」
妻「ほんま、それがええわぁ、うち、駅弁ひさしぶりやなぁ~」
夕立ちがあがり、一時赤く染まっていた東京上空の夕空だが
今はすっかり暮れなずみ、初夏の涼風夜風が吹き渡っていた。
若夫婦の目的地は新大阪である。指定席は、すでにとってあるが
予定発車時刻までは、まだかなり時間があった。
乗車予定のプラットホームに出ると、長々と連結された新幹線車両の鼓動と
東京駅一帯の喧騒が、夜の旅先の情景となって、旅人の心をくすぐるようだ。
-
新幹線のりばの各ホームには、先発列車に乗車するための人の列ができては
出発列車に呑み込まれてゆく。その間には、車内整備スタッフが、折り返し
列車の清掃作業のために、次発の到着列車を待つ光景もみられる。
『24番線 ご注意下さい 博多からの ひかり118号が到着しま~す』
東海道山陽新幹線車両が出入りするホームには、700系車両の運用が多く
300系、500系などの旧編成は、すいぶん減ってきているようである。
一方、北方面の新幹線ホームは、東北、山形、秋田、上越、長野新幹線など
行き先別に車両編成が異なり、また混合編成もみられる。東海道方面に運用
されている多くの700系車両だが、北方面の列車種別はバラエティに富んだ
印象だ。中でも、E4系 MAX 総2階建て編成の出入りが多いようだ。
-
京浜東北線北行 日暮里駅~西日暮里駅間 車内
「次は西日暮里 西日暮里 お出口は左側です」
「地下鉄線 舎人ナイナーは お乗り換えです」
「ザネクッストップィズ ニシニッポリ」
「ザドォオンザ レフトサイド オープンズ」
「プリーズチェンジフォー ザサブウェイライン アンド ザトネリライン」
京浜東北線北行 E231系運転席 ―――――
『チン』(ATC速度指示信号音)
切賀 呉雄運転士「信号15 警戒」
西日暮里駅構内の手前で、ふだんとは違う速度減速信号が出た。
切賀運転士は、ブレーキハンドルを廻し、10両編成の通勤型電車は
かなり、ゆっくりとした運転速度になった。
『ピピピピピピピピピピピピピ・・・』
そして今度は、切賀運転士の乗務員室に緊急無線信号の傍受音だ。
電車を停止寸前まで徐行させながら、通信指令が入るのを待った。
『こちらは東鉄指令 只今 列車防護無線を傍受しました』
『田端駅構内において公衆の線路内立ち入り』
『付近で無線を傍受した各列車は停止 その後の指令が出るまで待機して下さい』
『他の列車は閉塞区間にしたがい最寄の駅に徐行停車して下さい』
どうやら、京浜東北線と、それと並走する山手線に運転障害が発生したもようだ。
帰宅ラッシュ時間帯であり、運転士も気が重くなる内容である。
-
中央線快速、山手線、京浜東北線、東海道横須賀線など
東京駅周辺在来線の往来も激しくなる帰宅通勤時間帯である。
東京駅の各プラットホームの蛍光灯も、煌々と輝きを増して
夜空は深い漆黒の闇につつまれていた。田端駅構内で起きた
人身事故の影響で、京浜東北線北行きの電車がストップして
運転を見合わせているようだ。乗客としては、なるべく一駅
でも先に進みたいところだろうか。
鉄道の閉塞信号運行方式の特性から、列車間隔の安全確保という観点から
また、駅間停車などの事態を避けるために、先行列車が次の駅にいるかぎり
列車を発車さることはできないが、いたずらに時間が経過してイライラを
募らせてしまう乗客は少なくない。
人身事故なら、しかたないというあきらめムードが大半とはいえ
運転ストップから30分ほどたった頃、駅員に詰め寄る乗客もいた。
いつまでたっても、運転再開のアナウンスがない。埼玉県以北へ向かう人は
しきりに時計を気にする。携帯メールをさかんに打つ高校生・・・しびれを切らし
並走する満員の山手線に乗り換える人、埼京線や湘南新宿ラインに乗るため、急遽
新宿行き中央線快速に乗り換える人、東北・上越長野新幹線のりばに向かう人など
鉄道網が縦横に発達した大東京圏ならではの光景であろうか。
さきほどまで混雑していた停車中の京浜東北線車内は、乗り換え客の移動のため
すいぶん空いてきたようだ。しかし、並走する山手線にも大きな影響が出ており
運転間隔が伸びていた。くる電車くる電車すべてが、すし詰め状態である。
「お急ぎのところ 大変ご迷惑をおかけしております」
「事故処理は終わりましたが 只今 田端駅構内の安全確認を行っております」
「恐れ入りますが もうしばらく お待ち下さい」
通勤通学帰りのグッタリした顔が、駅のアナウンスを恨めしそうに聞いている。
一度ダイヤが乱れると、正常に戻すには相当の時間がかかるものである。
場合によっては、運転区間をカットし(区間運休)折り返し場所を新たに
設定し直すなどのダイヤ再構成を行いながら、ダイヤの回復を迅速に
図らなくてはならないが、最近は線路の共用使用や相互乗り入れなどの
利便性向上もあり、一部の区間で起きた運転障害が広範囲に及んでしまう
ことも多く、これは鉄道会社の悩みのタネになっているのだった。
-
東海道新幹線 東京総合指令所 ―――――
時速250~300キロ近い高速運行列車種別による速度の違い、そして過密ダイヤ。
日本の大動脈、東海道新幹線の運行指令室は、その中枢ともいうべき場所である。
常時、全列車の運行状況がモニターされており、そのダイヤ運行の緻密正確なことは
世界屈指のレベルであろう。「時計を忘れても、新幹線の運行で時刻がわかる」など
と外国人に言わしめたのも、うなずけるものだ。
各列車は秒単位で運行されており、発車時刻、通過時刻、到着時刻に数十秒の遅れが
発生すれば、指令所では緊張感につつまれ、分単位の遅れともなると大騒ぎになる。
そのような運行上のプレッシャーは在来線も同じだが
東海道新幹線のような大動脈区間では、遅れに対する
緊張感の度合は相当なものである。それは運行指令所
や運転士、事故を防止する駅務員など、すべての鉄道
マン共通のプロ認識である。
-
-
岡山発 上り「ひかり156号」300系車両16両編成は
新横浜を定刻で通過、都県境の鉄橋を渡り、終点東京
に向けて走行中である。まもなく大東京、山手線圏内
に入ろうとしていた。
ひかり156号 運転席 ―――――
『キンコン』(ATC速度指示音 170km/h→120km/m 減速指示)
桐賀呉運転士「信号120」
速度信号に応じて、自動ブレーキがかかる。
16両編成の車両は、時速113キロまで減速するが、運転士は加速ノッチを入れて
118キロまで再加速させた。指示速度を上回ると再度自動ブレーキがかかるが
そうならないギリギリの速度域まで加速させ、指示速度に近い速度を保つのは
秒単位の遅れを生じさせない運行手法だからである。また、走行区間によって
線路の曲線や勾配(登り下り)も変化するため、加速減速操作を頻繁に行う
必要がある。前方視界と速度計変化監視、視線と操作は意外と忙しい。
桐賀呉運転士「品川 10秒遅通(エンツウ)」(品川駅通過目標地点 10秒遅れで通過)
-
東京駅新幹線ホーム ―――――
『23番線 ご注意くださ~い 岡山発 ひかり156号が到着しま~す』
『あぶないですから、黄色い線の内側にお下がり下さい』
「ピピ~」(駅員の警笛)
「あぶないですから、柵の内側へ、お下がりくださ~い」(駅員のハンドマイク)
『パオ~ン』(300系新幹線ひかり号の警笛)
・・・ゴゴン・・ゴゴ、ゴゴン・・ゴゴ、ゴゴン(シュ~~~)
・・・ゴゴ、ゴゴン(ヒュ~~~~~ン)・・・・ゴ ゴ、ゴ ゴン・・・・(シュ~)
桐賀呉運転士「信号70 ブレーキ 信号30 ATC解放」
時速70キロ以下で東京駅構内に入り、ATC 自動ブレーキがかかる。
運転士が、このまま何も操作をしなければブレーキがかかったまま
停止位置のはるか手前で列車は自動停止してしまう。
いわば新幹線の安全装置である。
桐賀呉運転士は、時速30キロ以下になったところで
手動で駅構内自動ブレーキ解除する。
列車がホーム中央付近まで進み、そのまま惰性走行で停止位置に近づいてゆく。
ゴン ゴン・・・ゴン ゴン・・・(キイ~~~~~シュ~ゥ)
風を巻きこみながらホームに入線してきた列車は、レールジョイント特有の
重々しい鉄路の音、架線パンタグラフやスパーク発光、ブレーキの摩擦音
モーター音、ブレーキの圧縮空気をリリースする音などを響かせながら
所定の位置に停車した。
桐賀呉運転士「東京 定着 戸閉め滅」
(東京駅定刻到着 ドア閉めランプ消灯=ドア開) -
東京駅新幹線ホーム ―――――
「ご乗車おつかれさまでした 終点の東京で~す」
「車内にお忘れものなさいませんよう・・・」
「この列車は、折り返し ひかり177号 新大阪行きとなります」
「すぐには ご乗車になれません」
たくさんの乗客たちを吐き出したのち、ホームで待機していた車内清掃員が
一斉に乗り込む。限られた時間内でテキパキ車内作業をこなしてゆく光景が
窓ガラス越しに見える。作業が終わると一端ドアが閉められ、乗務車掌長が
車内の最終確認をしている。
「23番到着の列車は、ひかり177号 新大阪行きです」
「まもなくドアが開きます」
「1号車から10号車は・・・グリーン車は・・・」
「東京を出ますと静岡まで止まりませんので、ご注意下さい」
「停車駅は 静岡、名古屋、新大阪、京都、終点の新大阪です」
『弁当~ 弁当~』
「これ と これ! 1個づつ頂戴 あと お茶ふたつ」
『へい、毎度あり~』
若夫婦は、ひかり177号の乗車キップに書かれた号車を確認しながら
ホームに到着した端正なフォルムの300系新幹線のすぐわきを歩きながら
指定席予約の5号車に向かった。
-
新大阪へ向かう若夫婦は、さっそく5号車ドアの乗車列に続いて
お目当ての指定座席を陣取った。
ひかり177号車内 ―――――
夫「ふぃ~ やっと坐れたな。足が棒になったし」(標準語)
妻「早う実家の親に顔見せたいわぁ」(関西弁)
実は、彼女には新しい命が宿っていた。今、妊娠8ヶ月である。
若妻はJANAの客室乗務員をしていたが、妊娠中の休職期間
を使って実家に里帰りするところであった。彼女は、乗務中に
関西弁を使うことはしなかったが、実家に帰る途上の安堵感で
つい関西なまりが出ていた。苦笑いする旦那も、同じグループ
会社の航空整備士をしているが、愛する妻のために休暇をとり
同伴していたのだった。
『こちらは日本食堂です』
『お弁当にサンドイッチ またお酒ソフトドリンク類など ご用意しております』
『係員がお近くを通りましたさいには お気軽にお声かけくださいませ』
『本日もご利用ありがとうございます』
「な~んだ、車内販売もあるんだな(笑)」
「ええやんか、うちの弁当 美味しそうやし」と若夫婦。
5号車の別の場所では、ホームで見送る子供連れの親子が、車内の祖父祖母に
手を振って何か話している。よく聞き取れず、首をかしげたり、身振り手ぶり
での会話である。
親子の絆、孫子の絆が薄れてゆく現代社会にあって
やはり、このような見送り風景は微笑ましいものである。
-
ひかり177号車内 ―――――
『本日もJR中部東海をご利用下さいまして ありがとうございます』
『この列車は ひかり177号 新大阪ゆきです』
『東京を出ますと 静岡まで止まりませんので ご注意下さい』
『発車まで5分ほど お待ち下さい』
『なお携帯電話のご使用は デッキにてお願いいたします』
東京駅新幹線ホーム ―――――
『23番線ご注意ください まもなく ひかり177号 新大阪ゆきが発車しま~す』
『お見送りの方は、列車から離れてくださ~い』
(ひかり号 発車チャイムがホームに鳴りひびき、ドアが閉まる)
車体に深い群青色の帯が施された伝統的塗装の300系新幹線が静かに加速してゆく。
ホームの柵のそばで見送りする親子連れが、列車が駅を離れる最後まで手を振る。
速度を増してゆく車体の窓に、人々の人生が流れてゆく。
最後尾の車両が、スピードと風圧を巻き起こしながら、乗客一人一人の顔すら
判別できないほどに加速通過、赤いテールランプを鉄路の果てに光らせながら
遠い旅路、鉄路の哀愁を漂わせながら消えてゆく。
マイページでカーライフを便利に楽しく!!
今日のイイね!
-
611
-
419
-
392
注目タグ
最近見た車
あなたにオススメの中古車
-
マツダ フレアワゴン 届出済未使用車 衝突軽減B スマートキー(滋賀県)
139.9万円(税込)
-
フェラーリ 360スパイダー F360 モデナスパイダー F1(岐阜県)
1273.0万円(税込)
-
三菱 アウトランダー 禁煙車 パノラマサンルーフ 純正9型ナビ(愛知県)
459.9万円(税込)
-
アウディ SQ7 レザーシート/サンルーフ/キャリパーレッド(東京都)
1010.0万円(税込)
イベント・キャンペーン
-
2025/08/19
-
2025/08/19
-
2025/08/19
-
2025/08/19
-
2025/08/19
【 おことわり 】
この物語はフィクションです。登場する人物、組織、会社
地名等、および実際に実在する名称等は、すべて架空です。
画像は、シアター効果を高めるためののであり、必ずしも
本文と合致するものではありません。
また、運行に関する記述内容も事実とは限りませんので
架空の物語であることをご理解の上、お読み下さい。
0人