大山広域農道
山陰地方を縦貫する国道9号線および山陰道と並行し、鳥取県西部の単独峰・大山の麓を横切る広域農道。
現在は山陰自動車道が開通し日本海沿いも走りやすくなったが、国道9号線しかなかった頃は沿岸部に集中する集落を結んでいる道ゆえに、朝夕の通勤・帰宅ラッシュや、九州・近畿方面へ向かう大量の大型車の影響で走行速度が極端に落ちる時間帯があった。
その点、広域農道は陽が落ちれば農作業用のクルマが撤収していくので、通行量は国道9号に比して大幅に少ない。信号機も、国道9号線方面へ下る道との交差点に設置されている程度で、赤信号に殆んど引っかからないまま走り抜けられることもある。
鳥取県内を担当していた20世紀の末頃、私は年に数回はレンタカーでこの地域を走る機会があったが、国道9号線よりも専らこの道を利用していた。
昼間は米子や倉吉で仕事をし、移動はどうしても交通量が増える夕方以降になってしまう。
前後を大型トラックに挟まれ窮屈な思いをしたり、意地でも制限速度以下を厳守する地元車輌に頭を抑えられながら走るよりも、多少遠回りで道は狭いが前後にクルマがいない道の方が気分がいい。
積極的にシフト操作をしながら、少々攻撃的にカーヴへ突入。横Gがサスペンションとタイヤの限界を超えぬようアクセルとステアリングの操作に集中し、視界が開けたところでアクセルオン。ダウンヒルでスピードが出過ぎたらシフトダウンしてエンジンブレーキを効かせ、谷底でベタ踏み&キックダウン。視界に次のカーブを捕らえたら、再び攻めの態勢で……といった感じで、ちょっとしたラリードライヴァー気分を愉しんでいた。
しかし夜も更けてくると、人家が殆んどない農道周辺は、漆黒の闇に包まれる。
最も大きな目印たる大山は夜に溶け込み、昼間は神々しくすらあるその姿を消してしまう。
国道9号線や沿道の街の灯りが見えることもあるが、広域農道からは数km離れている上に、大山山麓に刻み込まれた谷底へ降りている時や、等高線に沿って山頂方向を向いて走っている場合は視界に入らない。
ヘッドライトに照らされる狭い範囲の情報だけを頼りに曲がりくねった、或いは高低差の大きい道を長時間走っていると、自分は正しい方角へ走っているのか次第に不安になってくる。
この時代はレンタカー全てにナヴィゲーションシステムが装備されていなかった。運よく付いていても、今からすれば検索能力の低いデヴァイスばかりで、ひたすら太い道(この辺りなら国道9号線)に誘導し、広域農道経由のルート案内をしてくれない。
交差点が近付く度に、国道9号線方面へ行くよう指示するカーナビを無視し続けていたら、怒ったのか案内を止めてしまった。うるさい案内音声が止まり静かになった反面、自力で道を探し運転しなければならないプレッシャーが熨しかかり、不安を増幅する。
そんな時、私は車外に絶対的な目印を設定し、不安を払拭していた。
走りながら宵の明星(=金星)や月を見つけるのだ。
発見したら、自分の行きたい方向に対する角度を記憶する。
正面に見えれば一番判り易いが、斜め前や真横でも構わない。
クルマを走らせている最中、記憶した角度から大きくずれ続けていなければ、まず道を間違えていない。
これが当初記憶した角度の真反対側に見える状態が続いていたら、道に迷っている可能性が高い。
星も動いているので、あまり長い時間目印にしておくわけにはいかないが、大山広域農道および接続する中部広域農道を走り抜け、宿に辿り着くまでの1~2時間であれば十分役に立ってくれる。
そんな経験から、もう15年近くが経ってしまった。美しい大山および山麓の光景は今でも残っているだろうか。
次の機会があるなら、できれば陽光麗しき昼間に走ってみたいと願いつつ、星を目印に闇夜を疾走した体験も忘れ難い私である。
住所: 鳥取県西伯郡大山町下市 ※電話番号は鳥取県庁県土整備部道路建設課農道担当
電話 : 0857-26-7676
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