「オートモビルカウンシル」2024、日本車編です。
オートモビルカウンシルでは、懐かしい日本の旧車もたくさん展示されています。広い会場で、欧米のヘリテージカーと我らが日本車を並べて眺めてみる。これはとても意味のあることです。
日本車の個性や独自性、日本のメーカーが受けた海外からの影響、あるいはその逆。いろいろなことを感じ取り、考えることができます。
== トヨタ ==
スポーツ800(1969年)

三重の旧車ショップ「ヴィンテージ宮田自動車」にて。赤い後期型のトヨタスポーツ800。この車は去年展示されていたものと同じでしょう。フロントフェンダー前方の側面ウインカーが特徴的です。

エンジンはパブリカ用の水平対向2気筒をベースに、ツインキャブレター化し排気量もアップしたもの。高性能なDOHCエンジンを搭載したホンダのSシリーズと比べたら絶対的な性能は低い。にも関わらず、当時のレースシーンでは好成績を納めています。堅実なトヨタの手法がこの時代から顕著です。

それにしてもこの小ささ。特に車高がとても低い。1,175mmなので、今の一般的な車、たとえばBセグメントのコンパクトカーと比べたらだいたい30cmほどは低いということになります。車高1.1m弱の初代ロータス・ヨーロッパほどではないにせよ、この車で走ったらまさに地を這う感覚なのでしょう。ただ、ブレーキランプの視認性がちょっと心配かも。
トヨペット・クラウン 1900デラックス(1962年)

初代クラウン、後期型。各部のクローム装飾やエンブレム類が上級モデルであることを示しています。写真に取り損ねてしまったのですが、トラックリッドには「Overdrive」の文字が。ATのオーバードライブ機構を採用した初のトヨタ車です。って、オーバードライブって懐かしいですね。O/Dってスイッチがちょっと前までのトヨタ車には付いていました。

雰囲気いっぱいの点検ステッカー。ってこれ普通にいま運用していますね。それからレースのカーテン。
トヨペット・クラウン(1958年)

トヨタ自動車の出展です。「トヨタ クルマ文化研究所」と銘打った個性的なブースを展開していました。

初代クラウン。フロントウインドウが分割された最初期型ですね。先に「日本のメーカーが受けた海外からの影響」と書きましたがこのトヨペット・クラウンはまさにそうで、そのスタイリングはアメリカ車の影響大。シボレーを縮小した印象です。

2代目クラウンになると、今度はフォードの影響がとても強くなる。クラウンがそのデザインで完全に独自のものとなるのは3代目からだと私は思っています。
過去にアップした2代目クラウン↓場所は今はなきMEGAWEBです。

Bピラーにアポロウインカーが仕込まれていますね。アポロを採用した最初で最後のクラウン。

この車はトヨタ自身による徹底的なレストレーションが施されています。メーカー自身が自社の過去製品を復旧させる。これは車の保全だけでなく技術の継承も目的としているそうです。トヨタは最近になって、旧い車のパーツを復元(再販)したりと自動車文化の発展を意識した動きを見せています。素晴らしいことです。
AE86 BEVコンセプト

これはカローラ・レビンをベースにBEV化した1台。旧車を電動化するケースは最近増えていますが、この電動ハチロクは自動車メーカー自らの手によるものです。

ボディサイドに「藤原と○ふ店」ではなく「電気じどう車」と書いてありますね。

この内装、完全EVだとは思えません。電動車で峠を攻める時代が来るのでしょうか。
MR2 Gリミテッド スーパーチャージャー(1988年)

この綺麗に仕上げられた初代MR2、レンタカー向けに用意されたそうです。

「レンタカー?」と一瞬思ったのですが、旧車を所有するのはなかなか敷居が高い。それを少しでも低くするため、まずは借りて乗ってもらおうという狙いだそうです。「Vintage Club by KINTO」というサービスです。

極上中古車、いやほぼ新車と言ってよい素晴らしい仕上がりです。サイトを調べてみたのですが、初代セリカから初代セルシオまで、豊富なラインナップとなっています。トヨタというトップメーカーがこのような事業を手掛けるというのは大きな意味があります。なお、トヨタと関係の深い「新明工業」がこれらレストアやBEV化事業に関わっています。
クラウン2000(1970年)

墨田区のショップ「Wolf Racing」が展示していた、3代目クラウンのオープン仕様。

調べるとこの車は三井財閥系の会社が社用車としてオーダーしたものだそうです。ワンオフとのこと。大相撲の優勝パレード用のようだ…と思ったら本当にその使われ方もしたのだとか。

個人的に、この「白いクラウン」の端正なスタイルは好きですね。
== 日産 ==
シルビア Q's(1988年)

日産自動車公式ブースには1980年代後半から1990年代初頭の、3台の懐かしい車が並んでいました。爽やかなトーンで演出された清潔感のある展示でした。

懐かしいS13系シルビア。「ART FORCE SILVIA」という洒落たキャッチコピーも記憶に残っています。あの頃、日産の広告コピーって実に秀逸でしたね、「スポーツカーに乗りたいと思う」とか「きっと新しいビッグ・カーの時代が来る」とか。後者は音楽家グスタフ・マーラーの言葉を連想します。

この美しいシルビア、まさにアートフォースです。こんなにカッコ良かったっけ…
このデザインはモダンそのものですが、よく見ると初代シルビアをオマージュというか強く意識していますね。
フィガロ(1991年)

このベースが初代マーチだとはちょっと信じられません。

白い内装も贅沢。本革張りのフロントシートは分厚く、これは小型車の基準を越えている。ステッチまで入っています。

ただ、後席レッグスペースは皆無。事実上の荷物置き場です。シートベルトのアンカーが前後の席であり得ないほど近い。デザインと質感に振りきっています。

限定生産2万台ですが、いつの間にかイギリスで評判になっていてあちらに3000台くらい渡っているそうですね。
プリメーラ 2.0Tm Sセレクション(1995年)

90年代日産セダンを代表する名車、初代プリメーラ。この車は登場してすぐに注目を浴びましたね。ヨーロッパ車にも負けないボディ剛性と走行性能を持つ車として、自動車雑誌などでも高い評価を受けていました。日本車には厳しい評価をしがちだった当時の「カーグラフィック」誌が、この車に対しては極めて高い評価をしていました。

もっともユーザーからはその固い足回りに不評の声も出ていたようですが、フワフワが「良い乗り心地」とされがちだった当時の風潮に、日産はこの車で一石を投じたわけです。

展示車は後期型。ヘッドライト横、アンバーのウインカーが特徴的なフロント。ここ、前期型ではクリアでしたが、マイナーチェンジで色付きに。逆のパターンはたくさんありますが、これは珍しいと思います。
初代プリメーラの綺麗にまとまったスタイリングは、どこかオペルに通じるものを感じます。Wikipediaにあった初代ベクトラの写真ですが、近いものがありませんか?↓

エアロダイナミクスを重視した張りのあるボディが共通していると思います。

素晴らしい日本車です。今、こういった硬派な車はスバルがあとを引き継いでいるように思います。それにしても、この時代の日産は良かったですね。選択肢がたくさんありました。それにスタイリング。この時代こそ、日産デザインの黄金期だったのでは。

しかし今は…
おっとやめておきます。深刻な経営不振が伝えられますが、なんとか復活して欲しい。日産が過去の栄光を忘れていないことは確かでしょうから。
スカイライン GT-R(1972年)

こちらは「ヴィンテージ宮田自動車」で展示されていたハコスカGT-Rです。今回は2台、同じ1972年式の、シルバーとホワイトが。
スカイライン GT-R(1972年)

クリームに近い白。シルバーも良いですがハコスカにはこの色もとてもよく似合います。それにしても新車のようです。あと価格もすごい…ロールス・ロイスのカリナンと同じくらいですかね。

高性能なエンジンですが、こうして眺めると今の車と比べ構造がずっとシンプルです。
スカイライン 1500V(1972年)

「Wolf Racing」にもハコスカがありました。しかも、希少なバン。個人的に「ハコスカバン」を目にしたのは初めてです。当時の日本では「ステーションワゴン」という概念はなく、こういう車はあくまで商用バンだったそうですね。平日は仕事に使い、休日は私用に使う。このスカイラインのバンなら仕事もはかどり休日のドライブも楽しかったのでは。あ、でも「いい車使ってますねぇ」と客先でイヤミ言われたりして…

リアランプは赤一色。これはハコスカ共通ですね。
フェアレディZ-L(1975年)

「ヴィンテージ宮田自動車」に戻ります。Zもありました。

状態がまさに素晴らしい。デッドストックか?と思える綺麗さ。新車時からワンオーナーで、車検は一度も切らさず、しかも雨天時未使用だそうです。

エンジンルームを見せていただいた流れで、バッテリー格納のフタも開けていただけました。
セドリック 2ドアハードトップ 2000GX(1990年)

「ヴェイルサイド」で展示されていた230セドリックです。いわゆるレストモッド。ヴェイルサイドといえばいわずと知れた日本のトップチューナーで、派手なカスタムカーは映画「ワイルドスピード」に登場するほど。それがこのような車も手掛けるとは。東京オートサロン2024にも出展されています。

ヘッドカバーに「VeilSide」の刻印がありますね。

ボディカラーは「ミレニアムジェイド」、R35GT-R(Tスペック)のカラー。なぜヴェイルサイドが230セドリックをレストモッドしたかというと、代表の横幕氏の父親がかつて乗っていたからだそうです。
== ホンダ ==
こちらはホンダの公式ブースです。シビックを特集しています。
シビック RS(1975年)

初代シビック、まさにエポックメイキングな名車。アメリカでの厳しい排気ガス規制「マスキー法」をいち早くクリアした1台であることでも知られています。50年近く前の車ですが、すでに一線級の性能を持つ日本車が登場していたのです。
シビック (1987年 全日本ツーリングカー選手権仕様)

これはあくまでレプリカですが、当時のレースカーの雰囲気を感じるには充分です。
シビック RS プロトタイプ

こちらは現行シビックRSのプロトタイプ。ただ、真っ黒い塗装のためボディの陰影がよく分かりませんでした。改めて写真を見ても、手元のスマホで写真を撮っている悲しさではあるのですがどうしても黒く塗りつぶされてしまう。白かシルバーでこのボディを見てみたかったというのが正直なところです。
NSX タイプR プロトタイプ

アイルトン・セナ没後30周年にちなんだ主催者展示があったことは「イギリス車編」で書きましたが、このNSXもその1台です。セナは初代NSXの開発にも協力し、自身も赤いNSXを愛用しました。

元々軽量だったNSXをさらに軽量化したタイプR。これはプロトタイプモデルです。1992年に鈴鹿でプロトタイプに試乗したセナの逸話がプレートに書かれています。

リア。先進的でありながら大胆。アメリカンな印象もあります。これ、夜間の存在感が抜群なんですよね。しかもブレーキを踏めばリアウイングの横幅いっぱいに、LEDハイマウントストップランプが一文字に光る。
なお初代NSXについては、カーグラフィック誌が1991年の誌面で、輸入スポーツカーとの大規模な比較テストを実施していました。で、その結論が…
日本車は3日で飽きる。NSXはそれが3ヶ月に伸びたに過ぎない、と…
読んでいてさすがにヒドいことを書くものだと思いましたよ。

日本車に喝を入れたいという意図でしょうけれど(たぶん)、パワハラ上司もかくやという理不尽さだと思います。まぁ当時はそんな論調でも読者がついてきたのですけど。
== 三菱 ==
今年も三菱自動車がブースを構えていましたね。ラリーシーンで栄冠をつかんだ車を誇らしく展示していました。

アフリカを駆け抜けたギャラン。この6代目ギャランはとてもよく売れました。いま見てもマッシブでかっこいい。それでいて車高を先代より上げ、居住性も上げているのがうまい。

今年の3月に亡くなった篠塚建次郎氏が操った車です。
ランサーエボリューションⅥ(2001年 モンテカルロラリー優勝車)

モンテカルロラリー優勝車といえばモーリス・ミニを思い出したのですが、ランエボもその栄冠を勝ち取っていましたね。

三菱はなぜランエボを廃止したのか。今さらですがちょっと信じられません。モータースポーツを嫌い運転免許すら持たない人をトップにしてしまったからでしょうか。
パジェロ(2002年 ダカールラリー優勝車)

2002年のダカールラリーで総合優勝した車です。こうしてみると、特にラリーシーンでの三菱自動車の実績は相当なもの。実力のあるメーカーですよね。
パジェロ(1992年)

こちらは初代パジェロ。路上で見かけたのは何年前でしょうか。苦渋の決断であろうとはいえ、三菱がパジェロを廃止したのは悪手でした。本格クロカンSUVの需要はまだあるのに、三菱は一時代を築いた栄光のモデルをみすみす捨ててしまった。

とはいえ、復活のうわさも…というか、トライトンをベースに新型パジェロを開発中というのは確かなようですね。再来年あたりに登場とか。楽しみです。
トライトン スノーシュレッダー(2024年)

そしてそのトライトン。今年から日本市場にも導入されています。とても魅力的なピックアップトラック。

このカッコイイ名前のコンセプトモデル、このまま市販されても違和感がありません。三菱はこうでなきゃ!自動車メーカーの舵取りは自動車好きがやらなきゃダメです。当たり前の話です。
== スズキ ==
スズライト・キャリイ(2014年)

広島の「オーエイプロト」、自動車の板金試作から新幹線の内装まで手掛けるメーカーです。その会社がレストアしたスズライト・キャリイ。

スズキの車はこのショーで初だと思います。商用車はおしなべて酷使されたはず。よく今の時代まで残っていました…と、レストア前の状態をパネルで見たところ、やはりかなりダメージの入った状態でした。
== マツダ ==
マツダの公式ブースです。今回のテーマは「ロータリースポーツカーコンセプトの歴史と未来」とのこと。
ICONIC SP(2023年)

「アイコニック・エスピー」、去年のジャパンモビリティショー2023に展示されたコンセプトカー。

実写は美しい、というか迫力があり思わず息を飲みます。この濃いめの赤がボディラインをうまく際立たせています。フェラーリ・ディーノがもし今もあったなら、こんな感じだったかも。
RX-EVOLV(1999年)

RX-エボルブ、こちらは1999年の東京モーターショーに展示されました。コンセプトカーですがRX-8の原型にもなっていますね。このRX-エボルブは完成度が高い。とはいえ、フロントはあくまでコンセプトカー然としていますかね。ヘッドライトはどこでしょうか。細長いランプはLEDでしょうか。一本ワイパーはベンツを思い出します。

フロントに比べリアはずっと現実的で、ランプのパーツなどちゃんと作り込まれています。

そして内装。しっかり作り込まれており、これはむしろプロトタイプっぽい。外観だけのドンガラコンセプトカーも多いのに、やはりマツダは真面目です。というか、マツダはよくこれを維持し保存している。おそらく手間もお金もかなり掛かるでしょうに…
RX500(1981年)

よく保存しているといえば、これもですね。ロータリーをミッドシップに積んだ幻のスーパーカー。以前これを目にしたけれど、それはいつだったか…と、2009年の東京モーターショーでした。当時の写真です↓

紆余曲折を経たものの修復されたそうです。

一時はロストテクノロジーになるかと思われたロータリーエンジン。発電用エンジンとしてではあるのですが、マツダは去年「MX-30」にロータリーを復活させました。やはりマツダにも意地があるのでしょう。

ロータリーの灯は決して消えていません。技術と個性を大切にするメーカーですからね。
以上、
オートモビルカウンシル2024でした。
今回も充実した展示を楽しめたオートモビルカウンシル。総来場者は公式発表によると39,807人とのこと。マニアックな展示で、入場料も決して安くないのにこの実績は素晴らしいことです。そして次回は10年目。節目ということで、なにか特別なことはやってくれるかな?
来年2025年は、4月11日(金)から13日(日)の3日間を予定。
今からとても楽しみです!