『十二人の怒れる男』

午前10時の映画祭」何度見てもすごい50本
にて観賞してきました。

この映画祭は、全国２５館の劇場で約一年間を通して５０本の洋画名作を上映するイベントです。
北陸地域は富山の「ＴＯＨＯシネマズファボーレ富山」が上映館になっていて、最近毎週末通うのが習慣になりつつあります。
今回も、ＧＷの5月1日に帰省途中で立寄って観賞しました。

この『十二人の怒れる男』をスクリーンで観賞するのは今回で2回目になります。
前回は二十歳前後の学生だった頃に、商業上映ではない形式での上映で観賞しました。
密室劇の最高傑作として当時も、そして現代でも多大な影響を各方面に与え続けているこの作品を、前回の観賞の時はストーリー展開の妙を中心に観ていました。

アメリカの陪審員制度裁判の元、集まった十二人の陪審員が評決に達するまでの議論の様子を
（ほぼ）一室の中だけで描いています。
被告に圧倒的に不利な証拠の数々。
陪審員全員一致で「有罪」の評決が下されると誰もが思う中、
たった一人の陪審員が「無罪」を主張。
ここから密室の中だけの熱い人間ドラマが展開されます。

ここからネタばれになるけど。
如何に「無罪」の評決へとドラマが進むのか？が、二十歳前後に観た時の興味の焦点でしたが、
今回、この歳になって変な気負いも無くニュートラルな気持ちで観賞したら、頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けてしまいました。
ストーリー展開はいま観ても見事の一言に尽きますが、この作品が真に伝えようとしている主題。
「自分の正義を行使するな！」
の重さに、この歳になって初めて気付かされました（汗
語弊があるので補足しますと、
（陪審員に於いて）自分の信じる正義という「固定観念」囚われてはいけない。
自分の固定観念を行使するのではなく、裁判の過程に於いて「疑問」はなかったか？
証拠には他の可能性の余地はホントに無かったのか？
を、ひとつひとつ検証することが大事だと云う事です。

集まった十二人の陪審員たちの人間模様も見事にシンボリックです。
評決をする責任に無頓着な者。
自分の考えよりその場の空気で考えを決める風見鶏。
この映画の主題に直結する最後まで「有罪」を主張する三人の男は、特にシンボリックでした。
社会的偏見を自らの正義と信じる男。
目撃証言という最後に残った証拠を頑なに信じ、他の可能性を排した証拠至上主義の男。
自らのトラウマにより事実を見ようとしない男。

システムは違うけど日本でも「裁判員制度裁判」がスタートしました。
そして先ごろ、「ＤＮＡ鑑定」という唯一の物証だけで他の可能性を排してしまった冤罪事件があったばかりです。
裁判員制度裁判が「感情論」になるか「論証論」になるかは社会の成熟度次第だけど、
この映画は一例としての「テキスト」に、いまでも十分使える時代を超えた傑作です。

1959年日本公開　アメリカ映画　第30回アカデミー賞作品賞・監督賞・脚色賞ノミネート　　無冠


<object width="445" height="364"></object>