『ジョーカー』

９８年バートン監督版『バッドマン』では、ギャング組織の大幹部から組織のトップに上りつめる悪役。
バットマンの宿敵としてジャック・ニコルソンが、ユーモアを交えた怪演を披露しました。

０８年ノーラン監督版『ダークナイト』では、得体のしれないモノ。不安や疑心を振りまくモノ。
混沌の象徴としての存在。簡単に西洋的に言えば、サタンの具現化。
ヒース・レジャーの、命を削るような演技はいまでも色褪せません。

そして
１９年トッド・フィリップス監督が世に問うた『ジョーカー』
とことんまで『人間』ジョーカーを描き切っていました。


正直、自分が思い描いていたモノと、ズレがかなり有りました。
でも、人間ジョーカー、否　大道芸人のアーサー・フレックという男が如何にして悪のカリスマ
『ジョーカー』へと羽化していったかを、丹念に、そして理詰めで描いています。

その理詰めの脚本をホアキン・フェニックスの演技が、あたかもジョーカーが実在するかの様な迫力とリアリティで観る者に迫ってきます。

本気でココロが凍えるシーンがありました。
アーサーの母親の若い頃を描いたシーンがひとつだけありました。
その母親の姿を見詰めるアーサーの表情に、心底ココロが凍えました。。

とことんまで人間としてジョーカーを描き切った事で、或る意味この映画はヒューマンドラマと呼べる作品です。悪人を主人公とした。

そして、
間違いなくこの作品は、現代に蘇った『タクシードライバー』と呼べます。

ベトナム帰りの元海兵隊員のタクシードライバーが、社会の不条理に翻弄され、病んだ精神を更に病んでいく様を描いた『タクシードライバー』
架空の大都市『ゴッサムシティ』の底辺で暮らす男が、不条理な社会の中でバケモノへと変貌していく様を描いた今作。
『タクシードライバー』で主人公を演じ、狂気に落ちていく様を演じ絶賛を浴びたロバート・デ・ニーロが、今作で重要な役柄で登場しています。
明らかに狙った配役ですね。


そしてもうひとつ。
この映画は、約40年前に絶滅した映画潮流の復活を確信させてくれました。
間違いなく今作は
『アメリカン・ニューシネマ』の系譜上の作品です。