
……そうか、パルサー(ニッサン)のシートを、けっこう高く評価していたんだ。1986年にパルサーについて書いたコラムを読み返して、遅まきながら、このことに気づいた。実は私は90年代から00年代をずっと、ニッサンの初代プリメーラ(P10型)とともに過ごしたが、その理由のひとつがシートだったのである。
おそらくは、このパルサーでの「ヨーロピアン・シート」をベースに、1990年のプリメーラ登場時には、それを進化させたものが付いていたのだろう。1991年にプリメーラを購入した時には、パルサーのことはすっかり忘れていたが(笑)。
パルサーのコラムでの「形状としてはフラットな実用的なかたちであり、一部のスポーツシートのような使い勝手の悪さはない。奥深いところの硬さで、じっくりとドライバーの身体を支え」……というのは、ダイヤル式のバックレスト調整も含め、プリメーラのシートにもそのまま適用できるものだ。
この初代プリメーラ(P10)については書きはじめると長くなるが、たとえば、前述のように「90年代から00年代を(略)ともに過ごした」という、その時間がやけに長いのは、私がこのクルマを二台(!)買ったからだった。(フフ、baka ですね(笑))
その一台目は26万キロ以上を走行し、ラジエターが(おそらく寿命で)決壊した時に、エンジンそのものまで壊してしまった。やむなく廃車の手続きをディーラーで行ないながら、「ところで、同じクルマ、中古車センターにないかなあ?」と冗談っぽく呟くと、ディーラーの担当者もさる者、速攻で「ありますよ」という答えを返してきたのだ。もちろん、同じクルマといっても、MT車が中古で簡単に見つかるはずはなく、また、色もよくあるシルバーグレイで、トランクリッドには余計なウイングも付いていたけど。
ちなみに、私はどうもクルマの色では「好み」というのがないようで、この色に乗りたいというより、そのクルマに似合う色は何だろうかと考えてしまう。そこから、プリメーラはエンジ(ダークレッド・パールと言っていた)にしたのだが、ただ、すべての新型車には、メーカーやデザイナーが押したいイメージカラーというものがあって、それがカタログや広告でメインに登場する。このモデルの場合は、それがこの“赤”だったわけだが、そういう意味では、私はメーカーの戦略に乗せられやすいタイプの(笑)カスタマーなのかもしれない。
……というわけで、色は決まり、エンジンは2リッター(SR20)、ミッションはマニュアルシフト、グレードは「Tm」というのが私のチョイスだった。そして、おそらくはファミリー系として設定された「Tm」に、私にとってグッドなシートが装着されていたのだ。
その「P10」に長く乗れたのは、シートもさることながら、やはりシャシーの魅力が大きかった。このクルマの前足(前輪)は、いつも地面にベタッと貼り付いていて、ステアリングを切った方向にクルマは向かった。そのシュアな応答性とトラクション感覚が嬉しかった。そして、それを可能にしている、いわば“レーシーな”サスペンションであるにも拘わらず、乗り心地にも優れていた。硬いなりに快適という“味”で、それは低速域など日常的な使用でも不満のないものだった。そして、広くて深い何でも収まるトランクは、無精な(笑)私にはぴったりだった。
そういえば、これは私見だが、1989年から1990年とは、日本車の歴史における“ヴィンテージ・イヤー”だと思う。この時期に、世界基準を一気に突き抜けたようなモデルが各社から登場している。車名を挙げれば、ユーノス(マツダ)ロードスター、トヨタ・セルシオ、ニッサンR32スカイライン、ホンダNSXなどだ。そして、そんな中で最も重要なのがプリメーラだと私は思っていた。
雑誌などからこのモデルについてのコメントを求められると、私はいつも、このクルマは「ヨーロッパ自動車界に対する、日本からの卒業論文だ」と答えていた。卒論なので、ちょっと“青い”部分はあるが、それも含んで魅力がある、とも──。また、このモデルの登場によって、欧州車への“追いつけ追い越せ”の時代がついに終わったと書いたこともあった。
そういえば、欧州各メーカーとのコンタクトが強力な先輩ジャーナリストのKさんが、私にこんな話をしてくれたことがあった。Kさんがヨーロッパの某メーカーを訪ねた際に、プリメーラについて「こんなことを言われたよ」というのだ。「ミスターK、日本に帰ったら、ぜひニッサンのエンジニアに伝えてくれ。『グッドジョブだ、コングラチュレーション!』と」。
ブログ一覧 |
茶房SD談話室 | 日記
Posted at
2014/07/21 09:51:46