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2015年03月13日

素晴らしき父とその娘 ~ 映画『アラバマ物語』 《12》

その12 「モッキンバードは、殺してはいけないんだよね」

父がスカウトを見た。スカウトは立ち上がって、父のところへ行った。アティカスはスカウトを椅子の上に立たせ、目の高さを、自分とほぼ同じ位置にする。そんな風にしてくれた父に向かって、スカウトはちょっとオトナっぽく言った。
スカウト「テートさんが正しいわ」
アティカス「何だって?」(どういう意味かな?)
スカウト「マネシツグミ(モッキンバード)を殺すのは、いけないことなんだよね」
父は娘を抱き締めた。

アーサーが立ち上がった。窓から、家の中の様子を覗いている。ジェムが気になるのだろうか。そこに、フィンチが近寄って行く。
アティカス「ありがとう、アーサー」
右手を差し出したアティカス。アーサーもそれに応じ、二人は握手した。
アティカス「ありがとう。子どもたちを救ってくれた」

──夜の道を、スカウトとアーサーが歩いている。二人は手をつないでいる。

女声のナレーション。
「死の際には食べ物を、病床には花を。それが隣人だ」「“ブー”は私たちの隣人だった」
「彼は、石鹸で作った二つの人形、壊れた時計とその鎖、小さなナイフ、そして、私たちの命をくれた」

「アティカスは、よく言っていた。その本人になって、想像力を働かせてみるんだ、と」(直訳では、その人の“靴”を履いて一緒に歩き回ってみるまでは何もわからない)
「私は、アーサーの家のポーチに立つだけで、十分だった」

並んで歩いてきた二人。そして、アーサーが自分の家に戻って行った。スカウトは、それをポーチで見送り、ひとり、歩き出す。

女声のナレーション。
「夏が終わり、その次の夏も、あっという間に過ぎた」
「秋になって、“ブー・ラドレー”は姿を見せた」

父が待つ家に向かって、夜の道を、少女スカウト=ジーン・ルイーズ・フィンチが駆けている。

女声のナレーション。
「私は、あの頃をよく思い出す。ジェム、ディル、“ブー”、トム・ロビンソン……。彼らがいた、あの頃を」

フィンチ家の中。スカウトとアティカスがいる。娘を抱き締める父。

女声のナレーション。
「彼はジェムの部屋に、一晩中いるだろう。眠らずに、朝、ジェムが目覚めるまで、彼はそばに居続けるのだ」

夜の街、ずっと灯りがついているフィンチ家。そして、エンドマークへ。



こうして、映画『アラバマ物語』は終わる。この邦題は日本独自で、原題は「モッキンバードを殺すこと」( To Kill a Mockingbird )。映画は、ハーパー・リー女史が1960年に発表して、米国で大ベストセラーとなった同題の自伝的小説を原作としている。ここから、少女の目線を大事にした脚本が生まれ、抑制が効いた演出と巧みな出演者がドラマを紡いで“いい映画”ができた。ただ、この映画は秀作だとは思うが、見終わっての気分はちょっと複雑でもある。

たとえば、こんなランキングがある。2003年に、アメリカン・フィルム協会(AFI)が映画史100年での「ヒーローと悪役」をそれぞれ50人ずつ選んだ。この時に、インディアナ・ジョーンズ、『007』ジェームズ・ボンド、『カサブランカ』のリック、『ロッキー』『アラビアのロレンス』『シェーン』『ダーティ・ハリー』『スーパーマン』、そして『街の灯』のチャップリン、『バットマン』『ターミネーター』などなど。これらの華々しい主人公たちをすべて抑えて、アメリカ映画史上最高のヒーローとされたのは「アラバマ物語」の弁護士アティカス・フィンチだった。

これを知った時には、ちょっと驚いた。そして、こんなシブい人物を最高の「ヒーロー」だとしたアメリカ映画界は“深い”とも思った。ただ、これはいわゆるネタバレになってしまうが、この映画でのフィンチ弁護士は、法廷での検察との闘いには、実は勝っていない。

たしかにこの映画でのアティカス・フィンチは、町のほとんどの人々(白人)を敵に回してでも、敢然と弁護士としての職務を全うした。それは美しかったし、誰の助けも得られずとも、ただひとり悪漢たちとの対決に赴く『真昼の決闘』の保安官とも通ずるものがあったと思う。(ゲーリー・クーパーが演じたその保安官ウイル・ケインは、例のヒーロー・ランキングでは5位になっている)

ただ、この映画で、フィンチがそのように英雄的であればあるほど、逆に際立ってくるのは、町の白人たちの「非道」ぶりだ。フィンチは、カラードの被告の弁護をするというだけで、ツバを吐きかけられた。そして町の白人たちは武器を持ち、徒党を組んで、裁判前夜の留置場を襲おうともした。もし、あの夜にフィンチが留置場前でガードしていなかったら、黒人被告は裁判を受ける機会すらなかったということなのか。

そして、あのハロウィン。子どもたちにとっての「最も長い夜」……。襲撃者の白人ユーウェルはおそらくアルコール依存症であり、その夜も、例によって酔っていたのかもしれない。しかし、そうであったとしても、大の大人が夜陰に乗じて子どもを襲うのか? しかも、子どものひとりは小学生であり女の子なのだ。その襲撃の理由は、あの時に“ニガー”の弁護をした奴の子どもだからか? 

こうなると、思わず呟きたくなる。アメリカ社会よ、弁護士アティカス・フィンチとその賢い娘スカウトに花束を捧げるのもいいが、このような人の道に外れた白人たちを何とかしてくれ、と……。ただ、アメリカ南部社会の暗部を、ここまで描き尽くしたからこそ、原作小説「モッキンバードを殺すこと」は900万部を超えるベストセラーになった。そこにアメリカの良心があるのだ……ということかもしれないのだが。

(つづく)
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Posted at 2015/03/13 10:05:47

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