2015年04月05日
【90's コラム】ルノー・メガーヌ ~フランス車の新しい地平
新登場した「メガーヌ」というクルマに至って、ついに、いわゆる「フランス車」というジャンル分けが過去のものになったのではないか。例の“限りなく柔らかい”と形容できる乗り心地とシート設定で、他国のクルマにはない特有の乗り味を示していたのが、かつての(80年代までの)フランス車だったが、このクルマはそこから大きく方向転換している。
もちろん、そのような「国際化」への気配は、昨今のフランスのニューモデルのすべてに見られる傾向だった。だが、このメガーヌはとりわけ、その要素が強い。端的に言うとメガーヌは、ドイツ車だといわれても通ってしまうボディ剛性とタイトな乗り味になっている。
ただ、さすがに、こと乗り心地に関しては非常にウルサイ客を抱えている(?)国のクルマとして、ボディを硬くしても、またロールを減らしても、乗り心地における全体的なマイルドさは失っていない。(ただし、16Vバージョンは除く)
こうした乗り心地、あるいはシートの厚み、そして、そのシートによる身体の支え方の見事さ。こうしたフランス車としての基本は外すことなく、しかし、国際マーケットでの評価に耐え得る内容を持つ。それがメガーヌという「ネオ・フレンチ」車であろう。
ともかく、メガーヌのその高いボディ剛性には驚く。そして、しっかりしたボディは同時に、静粛性の高さにも貢献している。要するに、何となくクルマ全体がガタピシしていて、いろんな音が入ってくる……という、かつての“フランスの常識”を大きく超えているのがこのモデルなのだ。
そんなメガーヌだが、これはルノー「19」の後継モデルであり、VWゴルフ、オペル・ベクトラ、フォード・モンデオ、プジョー309など、これらの強力なモデルがひしめく欧州2リッター級という激戦区への、ルノーからのチャレンジャー。そして、最後発のモデルであることを利して、いわば「仏・独」のいいところを一緒にして国際マーケットに問う。そんなクルマの作り方も随所に見られる。
ただ、ハッチバック、クーペを問わず、インテリアでは、われわれ日本人にはどうも各スイッチ類が身体から遠く感じられる。つまり、もう少し手や足が長い方がもっとイイのに、と思ってしまうのだ。居住性においても、たとえばクーペでは、もっとシートを後方に下げて座れるなら、額のあたりの窮屈感(フロントウインドーが近すぎる)も減るのに……と思う。
この点では、オペルのティグラでも同様の問題があった。どうも欧州のクーペは、われわれのような手足の長さでは、適切で快適なドライビングポジションにならないものが少なくない。
また、今回のメガーヌ・シリーズでの最速バージョンである「16V」仕様は、パワーはあるものの、高回転域では極めてノイジーだ。また乗り心地の面でも、路面から入ってくるショックがダイレクトで、かつ大きい。スポーティ仕様とはいえ、プジョー306のGSiという例もあることだし、「フレンチ・スポーツ」として、快適性にももっと気を遣ってほしいと思った。
それと、デザインは「楕円」というコンセプトで徹底していて、それは認めるとしても、そのあまりのこだわりぶりを示すインテリアには、ちょっと辟易する部分がある。さらには、これは好みの問題かもしれないが、顔つき(フロントマスク)も、けっこうコワい?
さて、このメガーヌだが、試乗の時点では、まだ価格が発表されていない。ただ、それもどうやら、ライバル車並みの範囲に落ち着く模様。静粛性、足とシート、ジワッとした感じの(柔らかすぎない)乗り心地には魅力があり、日本市場でも、十分な競争力があると見た。
(「カーセンサー」誌、1996年7月)
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90年代こんなコラムを | 日記
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2015/04/05 20:06:53
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