
軽自動車がその短くない歴史の中で、さまざまな方向へと進化していった時に、ひとつだけ、ふと忘れられそうになっていたジャンルがあった。それが「ベーシック車」だった。そもそも「軽」とは、より多くの人に、クルマを使うことの便利さと喜びをもたらすためのカテゴリーだったはずなのだが、その原点が見えにくくなっていたのだ。
軽自動車にはどのくらいの基本性能があればいいか。価格は、もっと安価にならないか。そもそも「軽」は何人を運べればいいのか。そして、4人きちんと乗れるというのは、軽自動車にとって、果たして重要なことなのか……?
このような軽の原点の再考が行なわれた際に、おそらく、当時の「商用車規格」を乗用ユースに転用するという発想が生まれたのだろう。法的に軽の後席を“荷台”としてクルマを作ると、税制面で圧倒的にで有利になり、「乗用車」として作るよりも、はるかに安価にクルマをカスタマーに提供できる。そういうアイデアであった。
その結果、このアルトのプライスは、何と47万円! それも、全国一律の価格だった。また、その商用車規格にミートした車室の後半部は、カーゴルームとして多彩に活用できるというメリットも生んだ。この商用車を「乗用」に使えるように展開するという“コロンブスの卵”的な発想は、法的には「ボンネット・バン」(通称ボン・バン)と呼ばれ、これ以後、「軽」に携わるすべてのメーカーが追随することになる。
「アルト・バン」の性能は、ベーシック・トランスポーターとして、必要にして十分だった。「商用」かどうかなんてことは誰も気にせず、この「バン」によって、たくさんの人々がクルマと一緒に生活することを楽しんだのである。
(「カーセンサー」誌、1995年。「昭和名車伝」より一部加筆)
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クルマ史探索file | 日記
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2015/05/05 09:13:26