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2016年04月26日

フォードの不在……《11》

フォードの不在……《11》 優れた「量産メーカー」がひしめく日本マーケットで、海外から来た同じようなタイプのメーカー&ブランドが成功するのは容易ではない……。そのことに気づいても、フォード車がこの国のマーケットから消えてしまうというのは、やっぱり残念である。

その理由はいくつかあるが、ひとつは、フォードが文字通りにグローバルな、スケールの大きいクルマの「量産」メーカーであること。20世紀の初頭から世界展開を開始したそのキャリアと実績をもとに、今後の世界市場に、どんなクルマを送り出してくるか。そのフォードの動向に、ひとりのカスタマーとして、これからもリアルタイムで接していきたい。そしてそれをニュースや映像で知るのではなく、実車に触れたいし体験(試乗)もしたい。

何より、「欧州フォード」という存在がおもしろい。英フォードと独フォードが融合したであろうこのメーカーが出してくるクルマは、コンセプトと生産はドイツ産かもしれないが、しかし、“民族系”のVWとは微妙にテイストが異なっている。もちろん、フランスやイタリアのクルマとも違うわけで、コンパクト系のフィエスタやフォーカスは、ヨーロッパに生まれながらも、ヨーロッパに「特化」してないところがある。そんな“世界性”が盛られたクルマが日本市場から消えてほしくない。

それに、フォードが大衆車ブランドの先駆であり“雄”であるのなら、量産ブランドがひしめく日本マーケットでこそ、“優等生の弟子”たちに、フォードとしての一定以上のシェアや存在感を見せつけるべきだ。そもそも、そうしたアピールや拡販のための活動を、フォードは「ここ」でやったか? さまざまなPRがなされたけれども、ついに、このマーケットとカスタマーはフォードに反応しなかった……といえるのか?

たとえば、「米国フォード」と「欧州フォード」が作るクルマは、同じフォード車であっても相当に違う。このことがきちんと、作り手側からマーケットに語られたことがあっただろうか? また、フォードは実はモータースポーツにも熱心であり、なりふり構わずル・マン24時間レースにメーカーとして「勝ちに行った」こともある。そのル・マンを勝ったフォードGTはウルトラ・スポーツとして市販された。

また、いっときのF1を席巻した軽量コンパクトな「DFV」エンジンの“苗字”は「フォード・コスワース」である。そして、そのコスワース・チューンによるラリー車は、1960年代のエスコートRSに始まって今日のフィエスタまで、WRC(世界ラリー選手権)での有力なコンテンダーであり続け、ツーリングカーのシエラやカプリは、サーキット・レースで活躍した。コルチナ・ロータスという“羊の皮を被った狼”的な公道バージョンもあった。

つまり、「フォード」とは、モータースポーツ・シーンひとつを取っても、このように、けっこうドラマやネタを抱えているメーカーなのだ。しかし、こうした事象や歴史がフォードのブランド戦略やPRに活用されたという記憶は、そういえば、とくにない。

また、以上は「欧州フォード」絡みだが、“デトロイト・フォード”にもサンダーバードやマスタングといったアメリカン・スポーティ車の系譜がある。そしてGMのキャディラックに対してはリンカーンがあり、近年のSUV志向に応える仕様としてはエクスプローラーもある。こうして見ると、アメリカ版フォードもなかなかPRのネタには事欠かないはず。「ブランド性」という言葉があまり好きではない……というか、私にはよくわからないというのが正直なところだが、仮にフォードというメーカーとそのジョブをPRしようとするなら、また「ブランド性」を創出しようとするなら、それなりにネタはあったと思う。

しかしフォードは、そうした“イメージ戦略”を、この日本マーケットでほとんど展開しなかった。それでは、成熟しきったこのマーケットでの売り上げが年間数千台というのは、むしろ当然の帰結ではなかったか。そんな無策ゆえの結果をもとに、もうこのマーケットには関わらないというのであれば、それはちょっとオトナの判断ではないとも思う。

2016年に、日本市場からはいったん撤退する。そして、たとえば中国マーケットの方に、フォードとしての全力を傾注する。それは、それでいい。でも、世界に冠たる「量産」メーカーの誇りとともに、いつかふたたび、この日本マーケットに還ってきてほしい。まあ確かに日本の場合、輸入車の全体でも年間30万台程度で推移するマーケットであるわけで、そんな“小さなパイ”を分け合うような競争は、“大フォード”としてはおもしろくも何ともない……かもしれない。でも、フォードが本気になることで、その“パイ”自体が大きくなるとしたらどうだろう?

あるいは、「量産メーカー」の雄であるフォードが真に“売る気”でこのマーケットを見たら、つまり外から日本を見れば、日本メーカーとは違った戦略や車種のセレクトがあるかもしれない。フォードはこんな機種が日本には合っていると考える。世界企業としての、そんな選択も見てみたい。さらには、合弁を強いられるので簡単には行かないかもしれないが、巨大市場の中国をベースに「アジア・フォード」のような拠点をつくるのであれば、そこから「アジア車」として、どんなモデルが出てくるか。フォードのそんな“アジア解釈”にも興味がある。

とにかく、日本マーケットとカスタマーは、フォードを否定したのではなく、フォードが“見えなかった”だけだったと思う。そして、見えないから、買うこともできなかった。フォードって何? どういうメーカーで、どんなクルマがある? フォードは日本で何をしたい? こうした「PR」がないと、このマーケットでクルマ(とくに外国車)を売るのはむずかしいのではないだろうか。

(了)

○タイトルフォトは1960年代エスコート・ラリー、「THE FORD CENTURY」より。

追記:フォードの「情熱と興奮を呼び起こす25台」をセレクトしたのは、「THE FORD CENTURY」(フォード百年史)の著者ラス・バナムであるかのように書いた箇所がありますが、これは間違いです。これについては「自動車産業にかかわる人々が選んだ25台」という記述がありました。お詫びしつつ、ここで引用しておきます。
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Posted at 2016/04/26 02:32:07

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