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まとめ記事(コンテンツ)
2017/03/30
けいよん!13:Corner 虹の向こう
けいよん!12:Corner AFTER THE RAINで鈴木千野と衝突してしまった本田美都は後悔していた。

「最悪だ………。千野にキレても仕方ないのにヤッてしまった。千野があんなチャラチャラした帰国子女と仲良くするから…」
本田美都が明らかに不機嫌な足音で本田自動車工場に帰ってきた。

「おかえり」と整備士の松田AZUが声を掛けると美都から殺し屋のような眼で睨まれた。
「年頃の女の子」は感情が不安定だ。
三年前は「年頃の女の子」だったAZUには少しだけ不機嫌な美都の気持ちが解る気がする。
学校や同級生や管理社会や母親や体制や権力や、とにかく何に対しても不機嫌だった学生時代を送ったAZUには、頑固な美都は「何かしらの筋を通そうとしてもがいている娘」に見えていた。

「なあ、美都、今日は仕事がもう終わりなんだ。一緒にドライブ行かねえか?」
と軍手外しながら不機嫌な女子高生を誘ってみる。

「峠には行きませんよ!」とレスポンスよく仏頂面で美都に断られた。
「まあ、そう言わずにその辺流そうぜ!おやっさん、お宅の大事な娘借りるよ!」

「煮るなり焼きを入れるなり好きにしてやってくれ」と社長の美都の父親から承諾を得て強制的に美都をAZ-1に乗せてドライブに出かけることにした。

走りだしてもずっと黙って窓に流れる風景を見ている美都に松田AZUが口火を切りだす。
「毎日さ、河原に捨てられた子ネコにエサをあげてる女子高生がいたんだ。高校生の小遣いなんかたかが知れてるし、自分の欲しいモノを我慢してでもそうしたかったんだろうな。そんな事するヤツはよっぽどのネコ好きか、捨てられたネコに自分自身を投影しているヤツか、二つに一つさ。その子がある日、今のアンタみたいなシケたツラしてやがった………。

『自分が捨てられた』と思っているような眼をしてたよ。何かさ、放っておけなくてその子に声を掛けて代車に使ってたアンタのオヤジさんのS15に乗せたんだ」
「…………………………………………………………………………………………………それ、千野の話ですね?…………………………………………………あいつ、覚えていますよ。その話、千野からも聞きました」

「そっか……………。その時その子がにっこり笑って『クルマって良いですね!私の友達がビートに乗ってるんですよ。黄色の小ちゃくて可愛くて凄くカッコ良いクルマなんです!私もあんなクルマに乗りたいんですよ』って言ってた。まさか数ヶ月後にウチの店に学生服でクルマ買いに来るとは思わなかったけどね」
「そう………なんですか……」
「自分の愛車みたいに感情移入して楽しそうにビートを自慢してたよ。助手席じゃない、その友達がドライブしている時と同じ風景が見てみたいって言ってた」
「何で今私にそんな話するんですか?」
「さあ、何でなんだろうな……」

「フン、調子の良い女ッスよね、アイツ…。私には頬にオイルつけた強面のお姉さんにS15に乗せてもらって楽しかったからカプチーノを買ったって言ってましたよ」
AZUはようやく美都が笑った顔を見ることが出来た。
「ぶっちゃけ『ふわふわ』してて何考えているかよく解らない娘だけど、お調子者じゃねえ。アンタは何でも『好き』か『嫌い』か、『全部』か『無』かハッキリしないと気がすまないが、千野は『曖昧なところ』も大事にしたいと思っているだけだよ。それはアンタが一番知ってるはずだろ?」
「………………………………………………そう…………………そうですね………。アイツはそんなゆるふわ女でした……。あっ、AZUさん、虹が出てる!」

雨上がりの虹は何かの架け橋になる為にこの街の遠くで姿を現わしたようだった。

「なあ、美都、虹は遠くに離れているから鮮やかで綺麗に見えるんだ。虹のそばにいるとボヤけて、存在すら気づかない。虹の色だって本当は7色だけじゃないし、物理学的には無限の中間色がある。アンタの大切な友達は赤から紫の色の中で自分なりの色を探しているように見えるよ…」
美都は虹を眺めながらAZUの言葉を咀嚼していた。

AZU(あずみ)は街中を一回りして美都を家に送り届け自分の家に帰ろうとすると、電柱の後ろに隠れている明らかに不審な人影………いやひよこ影がある。
影というよりもランドセルと腹が電柱からはみ出している。

「まったく……。もう良いわよ、先生」
「あれっ、気づいてた?米国の特殊部隊員並みに気配消してたんだけど……。なあ、あずみ、美都の様子はどうだった?」
この人は昔から私のことをAZUとは言わず、自然にフラットなトーンでアタシの事を「あずみ」って呼ぶよな……。
その呼ばれ方がまんざらでもないあずみは「そんなに自分の生徒が心配なら私なんかに頼まないで自分できちんと相談に乗ってやりなよ。担任で顧問でしょうが!」と一応苦言を呈しておいた。
「いやあ、女性同士のケンカってナイーブでナーバスでセンシティブじゃない?ほら、オレってそういうデリケートなのに向いてないタイプだから……。アイツら、あずみのことを信頼してるし………」とバツが悪そうにぴよ八先生が言い訳を始める。
こうなるとぴよ八は自己肯定するためには手段を選ばなくなるのであずみは話を切り上げる。
「アタシは女子高生の悩み事相談室長じゃねえよ!貸し、ひとつね‼︎」
「いつもの店のラーメンで良い?」
「餃子とビールの三点セットね!」

「アンタが私の担任だったらちったあマシな高校生活が送れたのかもな……」とこの前酔っ払って言えなかった言葉をAZUは無意識な吐息のように身体の外に吐き出した。
ぴよ八はチラッとあずみを見て空の虹に視線を移動させた。
「そっか?あの頃のあずみとウチの妹はいつも他校の生徒とケンカばっかりしてたけど、悪くない高校生活にオレには見えたよ」

松田あずみは矛盾だらけで迷っては行き止まりだった自分の思春期をぴよ八に肯定されたような気がして心が軽くなったが、同時に千野や美都にほんの少し嫉妬した。
ラーメンじゃなく大盛チャーシュー麺にしてやる!とあずみは考えながら夕焼けの光に包まれてぴよ八とラーメン屋「新豚(ニュートン)」に向かった。

次の朝、美都が教室に行くとバッタリ千野に鉢合わせした。

一瞬の間があり「おはよう」と千野が声を掛けてきた。
始まりもなければ終わりもない無限の時間が流れているようだ。
どちらかが一歩でも動けば何かが音を立てて崩れさるヒリヒリするような空気に包まれている。
「おはよう………」
ようやく美都は自分の人生史上で最弱なボリュームの声を絞り出した。

「昨日は悪かったな…………」

「美都、喋り方が何かAZUさんみたい…」

「最悪だ………。千野にキレても仕方ないのにヤッてしまった。千野があんなチャラチャラした帰国子女と仲良くするから…」
本田美都が明らかに不機嫌な足音で本田自動車工場に帰ってきた。

「おかえり」と整備士の松田AZUが声を掛けると美都から殺し屋のような眼で睨まれた。
「年頃の女の子」は感情が不安定だ。
三年前は「年頃の女の子」だったAZUには少しだけ不機嫌な美都の気持ちが解る気がする。
学校や同級生や管理社会や母親や体制や権力や、とにかく何に対しても不機嫌だった学生時代を送ったAZUには、頑固な美都は「何かしらの筋を通そうとしてもがいている娘」に見えていた。

「なあ、美都、今日は仕事がもう終わりなんだ。一緒にドライブ行かねえか?」
と軍手外しながら不機嫌な女子高生を誘ってみる。

「峠には行きませんよ!」とレスポンスよく仏頂面で美都に断られた。
「まあ、そう言わずにその辺流そうぜ!おやっさん、お宅の大事な娘借りるよ!」

「煮るなり焼きを入れるなり好きにしてやってくれ」と社長の美都の父親から承諾を得て強制的に美都をAZ-1に乗せてドライブに出かけることにした。

走りだしてもずっと黙って窓に流れる風景を見ている美都に松田AZUが口火を切りだす。
「毎日さ、河原に捨てられた子ネコにエサをあげてる女子高生がいたんだ。高校生の小遣いなんかたかが知れてるし、自分の欲しいモノを我慢してでもそうしたかったんだろうな。そんな事するヤツはよっぽどのネコ好きか、捨てられたネコに自分自身を投影しているヤツか、二つに一つさ。その子がある日、今のアンタみたいなシケたツラしてやがった………。

『自分が捨てられた』と思っているような眼をしてたよ。何かさ、放っておけなくてその子に声を掛けて代車に使ってたアンタのオヤジさんのS15に乗せたんだ」
「…………………………………………………………………………………………………それ、千野の話ですね?…………………………………………………あいつ、覚えていますよ。その話、千野からも聞きました」

「そっか……………。その時その子がにっこり笑って『クルマって良いですね!私の友達がビートに乗ってるんですよ。黄色の小ちゃくて可愛くて凄くカッコ良いクルマなんです!私もあんなクルマに乗りたいんですよ』って言ってた。まさか数ヶ月後にウチの店に学生服でクルマ買いに来るとは思わなかったけどね」
「そう………なんですか……」
「自分の愛車みたいに感情移入して楽しそうにビートを自慢してたよ。助手席じゃない、その友達がドライブしている時と同じ風景が見てみたいって言ってた」
「何で今私にそんな話するんですか?」
「さあ、何でなんだろうな……」

「フン、調子の良い女ッスよね、アイツ…。私には頬にオイルつけた強面のお姉さんにS15に乗せてもらって楽しかったからカプチーノを買ったって言ってましたよ」
AZUはようやく美都が笑った顔を見ることが出来た。
「ぶっちゃけ『ふわふわ』してて何考えているかよく解らない娘だけど、お調子者じゃねえ。アンタは何でも『好き』か『嫌い』か、『全部』か『無』かハッキリしないと気がすまないが、千野は『曖昧なところ』も大事にしたいと思っているだけだよ。それはアンタが一番知ってるはずだろ?」
「………………………………………………そう…………………そうですね………。アイツはそんなゆるふわ女でした……。あっ、AZUさん、虹が出てる!」

雨上がりの虹は何かの架け橋になる為にこの街の遠くで姿を現わしたようだった。

「なあ、美都、虹は遠くに離れているから鮮やかで綺麗に見えるんだ。虹のそばにいるとボヤけて、存在すら気づかない。虹の色だって本当は7色だけじゃないし、物理学的には無限の中間色がある。アンタの大切な友達は赤から紫の色の中で自分なりの色を探しているように見えるよ…」
美都は虹を眺めながらAZUの言葉を咀嚼していた。

AZU(あずみ)は街中を一回りして美都を家に送り届け自分の家に帰ろうとすると、電柱の後ろに隠れている明らかに不審な人影………いやひよこ影がある。
影というよりもランドセルと腹が電柱からはみ出している。

「まったく……。もう良いわよ、先生」
「あれっ、気づいてた?米国の特殊部隊員並みに気配消してたんだけど……。なあ、あずみ、美都の様子はどうだった?」
この人は昔から私のことをAZUとは言わず、自然にフラットなトーンでアタシの事を「あずみ」って呼ぶよな……。
その呼ばれ方がまんざらでもないあずみは「そんなに自分の生徒が心配なら私なんかに頼まないで自分できちんと相談に乗ってやりなよ。担任で顧問でしょうが!」と一応苦言を呈しておいた。
「いやあ、女性同士のケンカってナイーブでナーバスでセンシティブじゃない?ほら、オレってそういうデリケートなのに向いてないタイプだから……。アイツら、あずみのことを信頼してるし………」とバツが悪そうにぴよ八先生が言い訳を始める。
こうなるとぴよ八は自己肯定するためには手段を選ばなくなるのであずみは話を切り上げる。
「アタシは女子高生の悩み事相談室長じゃねえよ!貸し、ひとつね‼︎」
「いつもの店のラーメンで良い?」
「餃子とビールの三点セットね!」

「アンタが私の担任だったらちったあマシな高校生活が送れたのかもな……」とこの前酔っ払って言えなかった言葉をAZUは無意識な吐息のように身体の外に吐き出した。
ぴよ八はチラッとあずみを見て空の虹に視線を移動させた。
「そっか?あの頃のあずみとウチの妹はいつも他校の生徒とケンカばっかりしてたけど、悪くない高校生活にオレには見えたよ」

松田あずみは矛盾だらけで迷っては行き止まりだった自分の思春期をぴよ八に肯定されたような気がして心が軽くなったが、同時に千野や美都にほんの少し嫉妬した。
ラーメンじゃなく大盛チャーシュー麺にしてやる!とあずみは考えながら夕焼けの光に包まれてぴよ八とラーメン屋「新豚(ニュートン)」に向かった。

次の朝、美都が教室に行くとバッタリ千野に鉢合わせした。

一瞬の間があり「おはよう」と千野が声を掛けてきた。
始まりもなければ終わりもない無限の時間が流れているようだ。
どちらかが一歩でも動けば何かが音を立てて崩れさるヒリヒリするような空気に包まれている。
「おはよう………」
ようやく美都は自分の人生史上で最弱なボリュームの声を絞り出した。

「昨日は悪かったな…………」

「美都、喋り方が何かAZUさんみたい…」
Posted at 2017/03/30 18:52:56
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