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まとめ記事(コンテンツ)
2017/04/17
けいよん!14:Corner 音の境界線
「おかえり、美都!修学旅行はどうだったか?」と本田美都の父親が美都に声を掛けてきた。

「たっだいま〜。うん、まあ楽しかったよ。でもビートに乗りたくて仕方なかった……」

「修学旅行や文化祭や体育祭なんかはさ、学生の時は面倒くさいもんなんだけど、歳を取って振り返ると懐かしい良い思い出になるもんなんだ。ずっとそのイベントの中に居続けられたらと思うくらいさ」と高校時代に素人コピーパンクロックバンドをやっていた美都の父親は当時の気分が浮かんび嬉しそうに娘に語っている。
「文化祭でギターをブッ壊すパフォーマンスの為にお金がないから一生懸命に安いベニア板で模造ギターを作ったもんだ……」

(管理社会や汚い大人達に小さな抵抗をしていた17歳の美都の父親)
「修学旅行も文化祭も楽しいよ。でも私は今、ビートと走るのが一番楽しいの」
と、一蹴され父親のノスタルジーなどは全く伝わらなかった。
青春のど真ん中にいる人間は青春がいかに素晴らしいものだ語られても理解出来ないし又理解しようともしない。
歳を重ねて青春を懐かしく思い出す時は自分にとって都合良く記憶を改竄された「幻想としての青春」でしかあり得ない。
人間は永遠に現実の青春には出会えないのかもしれないが、それでも確かに輝いている青春は存在する。
「お前が修学旅行でいない間、余ってたパーツをビートに付けておいたよ。気に入らなかったら言ってくれ、また外すから……。でも、多分俺は物凄く不愉快な顔をすると思うけどな……」

「おっ、早速乗ってみよ!サンキュー、お父ちゃん‼︎」と脇目も振らずにビートの駐車場に向かう。
「バカ親父」から「お父さん」に呼びかたが変わって最近は「お父ちゃん」で落ち着いた。
思春期はいつもセンシティブなのだ。
横からニヤニヤ笑いながら女整備士の松田AZUが「優しいお父ちゃんだね〜」と仕事の手を止めて揶揄いにやってくる。

「美都には家の事を全部やって貰ってるしな。クルマバカのオレが出来ることってこの位のものだろ?」
「きっと気にいりますよ。昨日の試乗してみたらすげえ良かった……」
「お前、いつの間に!?」

「だっせえチューニングしてんじゃないかと思って!………あれならS660とタメ張れるかも。良いッスよ、アレ!」

何日間か愛車に触れる事が出来なかった美都は無意識にいつもの峠に脚が向く。
「何、この音?エンジンに火を入れた時から違う……。何なの?この速さ??この加速、もしかしてお父ちゃん、ターボ入れた?」

「速いだけじゃない………全ての挙動をカラダのド真ん中で受け止める感じ……。まるであたしの手足が伸びて脚の指先でブレーキディスクを摘んだり、手で路面のうねりを触って確かめているみたい。自分がちょっとミスったらクルマの挙動がダイレクトにはね返ってくる。素っ裸でドライブしてる感覚……、ちょっと敏感過ぎるけどスッゴイ楽しい‼︎」とワインディングを楽しく攻めているとタイトコーナーを駆け抜けた瞬間、前にベタベタに低いクルマがいた。

「ケータハム160!」

「ヤツだ!帰国子女の転校生‼︎」

「香鈴・NANA‼︎!」
香鈴NANAは笑っていた。

「待っていたわ、本田さん………。初めて出会った時から私は感じていた。アナタとワタシはまるで鏡を挟んだ実体と虚像のようによく似ている」

「この峠に来れば必ずアナタに会えると思ってたわ」
日本に来て毎日のようにこの峠にNANAは来ている……、雨の日以外は。
美都はケータハムの真後ろにつけて走ると
NANAは当然のようにペースを上げる。
テールとノーズを突き合わせたバトルが暗黙の了解のうちに始まった。

「コイツ、速い……。何だ、この感じ?千野と楽しく走っている時とは違う昂揚感、ヒリヒリするような刺激、生命が燃えているような充足感…。何であんなイヤなヤツがわたしを熱くさせるんだ?香鈴NANA……地元で走り込んでる女をナメんなよ!」
美都は完全に戦闘モードのスイッチが入る。

タイヤのスキール音が耳を突き、タコメーターはレブに当たり、

サスはフルバンプして悲鳴をあげてるが、二人とも知ったことではない。
何がそうさせるのか解らないが、ただそこにいるヤツより速く走りたいというプリミティブな欲望に取り憑かれている。

「速い!NAのビートがそんなに速いワケない‼︎ワタシの過給機とは違う音が微かに聞こえる………。そっか!ボルトオンターボ‼︎ ワタシのケータハムのエンジンはノーマルで84馬力出てるのよ。イギリス魂、安く見ないで欲しいわ!」

美都の耳にも普段峠を走っている時には聞こえない音が届く。
「………?何、これ?何か聞こえる……。風切り音とスキール音とエキゾーストノートの他に何か……………………」

全ての感覚が違和感を察知する時、夕焼けで峠道のセンターラインの流れが紅く揺れている。

「……………………………………………、ハミング?あの女、限界走行中に歌ってやがるのか??……………………この曲、聴いた事ある………。何だっけ?歌声の優しいアメリカの兄妹の歌…………」

「あの女、ふざけやがってええええ!」
美都はコックピットで獣のように叫んだ。

黄金色の髪をなびかせているライン川の魔女ローレライが魔歌を口ずさんでいるかの如き香鈴NANAだが、決してふざけているのではない。
人によって「ゾーン」の入り方は違う。
「ローズ・ゴースト」こと恵州むつみの頭の中は通常状態ではパガニーニの「モーゼ幻想曲」が流れているが、「ゾーン」に入ると無音になり集中力が増す。
しかし香鈴NANAの場合は逆なだけだ。
ゾーンに入ると無意識のうちに頭の中でカーペンターズの「(They Long to Be) Close to You」が流れ出す。
本人は自分がハミングしている事すら全く自覚していない。

160とビートの後輪は横方向に暴れだそうとし、ねじ伏せるようなドライビングに必然的になるが、アクセルを戻した時が敗北する瞬間を認める時だ。
お互いに一歩も引く事は出来ない。
峠で走ることに勝ち負けなんかはないのだが、そんな事に燃え上がるのが青春なのだ。

一人で峠に来ていた鈴木千野が休憩していると、もの凄いスピードでケータハム160とホンダ・ビートがコーナーを駆け抜けていく。
「あの二人、眼を三角にして走ってる……。二人とも負けず嫌いでよく似ているのに何であんなに美都はNANAの事を嫌ってるのかしら?」

二人はそんな千野の気持ちなど全く知るはずもなく、千野が峠にいたことすら気づいていない。
二台の軽四に乗る女子高生が己がレゾンデートルを掛け全神経を研ぎすましてブラインドコーナーに飛び込んだ時のアプローチでビートがケータハム160の前に出る…。

「イケる!この立ち上がりでフルスロットルで行けば香鈴NANAを離せる‼︎」
が、その時美都の眼の前にネコが飛び出してきた!

「ヤバいっ!」
二人の声がほぼ同時に発せられ、二台はパニックブレーキ状態でのステアリング操作余儀無くさせられ、あとは「クルマに行く方向は聞いてくれ」状態になりコントロールを失った。

タイヤのスキール音が峠に絶叫のように響き渡った。
奇跡的に二台は何処にも接触することなく道路の上でハーフスピンして止まることが出来たようだ。
「ネコは!?」
二人はクルマを飛び降りてネコの安否を確認する。

「アソコにいる……」と全神経がプッツリ切れたNANAが説明するが少し声にビブラートが掛かっている
「良かった…………」
二人は胸を撫で下ろた。
「アンタ、学校に愛猫連れて来るくらいのネコ好きだもんね?」
「本田さんはネコは好きじゃないの?」
「ネコが嫌いなヤツとは友達になれる気がしないよ!うちの整備工場に働くAZUさんの飼ってるネコがすっごい可愛いのよ‼︎」
「あっ、もしかして鈴木さんがご飯をあげてた野良ちゃんでAZ-1に乗ってる強面の整備士の人が飼ってくれたネコじゃない?」
NANAはあえて千野の事を「鈴木」さんと呼んだ。
「千野のヤツ、ペラペラと喋りやがって!」

「写真、見せて貰ったよ。ふふっ、可愛かったわ、ウチのバラキエルの次に」
「あはははははははは〜。アンタも相当な親バカだな!」
美都はNANAとずっとこの峠で笑っていたいと思っていた。
「この子、家のバラキエルにちょっと似てる」
美都は猫を抱いているNANAを見ながら「何でこんな気持ちの良いヤツ、私は嫌っていたんだろ?」と感じていた。
自分の気持ちなんてもしかしたら一番解らないものなのかもしれない。

美都は「文化も風習も国境を越えない」と思ってたが、「友情」だけは国境を越えるような予感に充ちていた。

「たっだいま〜。うん、まあ楽しかったよ。でもビートに乗りたくて仕方なかった……」

「修学旅行や文化祭や体育祭なんかはさ、学生の時は面倒くさいもんなんだけど、歳を取って振り返ると懐かしい良い思い出になるもんなんだ。ずっとそのイベントの中に居続けられたらと思うくらいさ」と高校時代に素人コピーパンクロックバンドをやっていた美都の父親は当時の気分が浮かんび嬉しそうに娘に語っている。
「文化祭でギターをブッ壊すパフォーマンスの為にお金がないから一生懸命に安いベニア板で模造ギターを作ったもんだ……」

(管理社会や汚い大人達に小さな抵抗をしていた17歳の美都の父親)
「修学旅行も文化祭も楽しいよ。でも私は今、ビートと走るのが一番楽しいの」
と、一蹴され父親のノスタルジーなどは全く伝わらなかった。
青春のど真ん中にいる人間は青春がいかに素晴らしいものだ語られても理解出来ないし又理解しようともしない。
歳を重ねて青春を懐かしく思い出す時は自分にとって都合良く記憶を改竄された「幻想としての青春」でしかあり得ない。
人間は永遠に現実の青春には出会えないのかもしれないが、それでも確かに輝いている青春は存在する。
「お前が修学旅行でいない間、余ってたパーツをビートに付けておいたよ。気に入らなかったら言ってくれ、また外すから……。でも、多分俺は物凄く不愉快な顔をすると思うけどな……」

「おっ、早速乗ってみよ!サンキュー、お父ちゃん‼︎」と脇目も振らずにビートの駐車場に向かう。
「バカ親父」から「お父さん」に呼びかたが変わって最近は「お父ちゃん」で落ち着いた。
思春期はいつもセンシティブなのだ。
横からニヤニヤ笑いながら女整備士の松田AZUが「優しいお父ちゃんだね〜」と仕事の手を止めて揶揄いにやってくる。

「美都には家の事を全部やって貰ってるしな。クルマバカのオレが出来ることってこの位のものだろ?」
「きっと気にいりますよ。昨日の試乗してみたらすげえ良かった……」
「お前、いつの間に!?」

「だっせえチューニングしてんじゃないかと思って!………あれならS660とタメ張れるかも。良いッスよ、アレ!」

何日間か愛車に触れる事が出来なかった美都は無意識にいつもの峠に脚が向く。
「何、この音?エンジンに火を入れた時から違う……。何なの?この速さ??この加速、もしかしてお父ちゃん、ターボ入れた?」

「速いだけじゃない………全ての挙動をカラダのド真ん中で受け止める感じ……。まるであたしの手足が伸びて脚の指先でブレーキディスクを摘んだり、手で路面のうねりを触って確かめているみたい。自分がちょっとミスったらクルマの挙動がダイレクトにはね返ってくる。素っ裸でドライブしてる感覚……、ちょっと敏感過ぎるけどスッゴイ楽しい‼︎」とワインディングを楽しく攻めているとタイトコーナーを駆け抜けた瞬間、前にベタベタに低いクルマがいた。

「ケータハム160!」

「ヤツだ!帰国子女の転校生‼︎」

「香鈴・NANA‼︎!」
香鈴NANAは笑っていた。

「待っていたわ、本田さん………。初めて出会った時から私は感じていた。アナタとワタシはまるで鏡を挟んだ実体と虚像のようによく似ている」

「この峠に来れば必ずアナタに会えると思ってたわ」
日本に来て毎日のようにこの峠にNANAは来ている……、雨の日以外は。
美都はケータハムの真後ろにつけて走ると
NANAは当然のようにペースを上げる。
テールとノーズを突き合わせたバトルが暗黙の了解のうちに始まった。

「コイツ、速い……。何だ、この感じ?千野と楽しく走っている時とは違う昂揚感、ヒリヒリするような刺激、生命が燃えているような充足感…。何であんなイヤなヤツがわたしを熱くさせるんだ?香鈴NANA……地元で走り込んでる女をナメんなよ!」
美都は完全に戦闘モードのスイッチが入る。

タイヤのスキール音が耳を突き、タコメーターはレブに当たり、

サスはフルバンプして悲鳴をあげてるが、二人とも知ったことではない。
何がそうさせるのか解らないが、ただそこにいるヤツより速く走りたいというプリミティブな欲望に取り憑かれている。

「速い!NAのビートがそんなに速いワケない‼︎ワタシの過給機とは違う音が微かに聞こえる………。そっか!ボルトオンターボ‼︎ ワタシのケータハムのエンジンはノーマルで84馬力出てるのよ。イギリス魂、安く見ないで欲しいわ!」

美都の耳にも普段峠を走っている時には聞こえない音が届く。
「………?何、これ?何か聞こえる……。風切り音とスキール音とエキゾーストノートの他に何か……………………」

全ての感覚が違和感を察知する時、夕焼けで峠道のセンターラインの流れが紅く揺れている。

「……………………………………………、ハミング?あの女、限界走行中に歌ってやがるのか??……………………この曲、聴いた事ある………。何だっけ?歌声の優しいアメリカの兄妹の歌…………」

「あの女、ふざけやがってええええ!」
美都はコックピットで獣のように叫んだ。

黄金色の髪をなびかせているライン川の魔女ローレライが魔歌を口ずさんでいるかの如き香鈴NANAだが、決してふざけているのではない。
人によって「ゾーン」の入り方は違う。
「ローズ・ゴースト」こと恵州むつみの頭の中は通常状態ではパガニーニの「モーゼ幻想曲」が流れているが、「ゾーン」に入ると無音になり集中力が増す。
しかし香鈴NANAの場合は逆なだけだ。
ゾーンに入ると無意識のうちに頭の中でカーペンターズの「(They Long to Be) Close to You」が流れ出す。
本人は自分がハミングしている事すら全く自覚していない。

160とビートの後輪は横方向に暴れだそうとし、ねじ伏せるようなドライビングに必然的になるが、アクセルを戻した時が敗北する瞬間を認める時だ。
お互いに一歩も引く事は出来ない。
峠で走ることに勝ち負けなんかはないのだが、そんな事に燃え上がるのが青春なのだ。

一人で峠に来ていた鈴木千野が休憩していると、もの凄いスピードでケータハム160とホンダ・ビートがコーナーを駆け抜けていく。
「あの二人、眼を三角にして走ってる……。二人とも負けず嫌いでよく似ているのに何であんなに美都はNANAの事を嫌ってるのかしら?」

二人はそんな千野の気持ちなど全く知るはずもなく、千野が峠にいたことすら気づいていない。
二台の軽四に乗る女子高生が己がレゾンデートルを掛け全神経を研ぎすましてブラインドコーナーに飛び込んだ時のアプローチでビートがケータハム160の前に出る…。

「イケる!この立ち上がりでフルスロットルで行けば香鈴NANAを離せる‼︎」
が、その時美都の眼の前にネコが飛び出してきた!

「ヤバいっ!」
二人の声がほぼ同時に発せられ、二台はパニックブレーキ状態でのステアリング操作余儀無くさせられ、あとは「クルマに行く方向は聞いてくれ」状態になりコントロールを失った。

タイヤのスキール音が峠に絶叫のように響き渡った。
奇跡的に二台は何処にも接触することなく道路の上でハーフスピンして止まることが出来たようだ。
「ネコは!?」
二人はクルマを飛び降りてネコの安否を確認する。

「アソコにいる……」と全神経がプッツリ切れたNANAが説明するが少し声にビブラートが掛かっている
「良かった…………」
二人は胸を撫で下ろた。
「アンタ、学校に愛猫連れて来るくらいのネコ好きだもんね?」
「本田さんはネコは好きじゃないの?」
「ネコが嫌いなヤツとは友達になれる気がしないよ!うちの整備工場に働くAZUさんの飼ってるネコがすっごい可愛いのよ‼︎」
「あっ、もしかして鈴木さんがご飯をあげてた野良ちゃんでAZ-1に乗ってる強面の整備士の人が飼ってくれたネコじゃない?」
NANAはあえて千野の事を「鈴木」さんと呼んだ。
「千野のヤツ、ペラペラと喋りやがって!」

「写真、見せて貰ったよ。ふふっ、可愛かったわ、ウチのバラキエルの次に」
「あはははははははは〜。アンタも相当な親バカだな!」
美都はNANAとずっとこの峠で笑っていたいと思っていた。
「この子、家のバラキエルにちょっと似てる」
美都は猫を抱いているNANAを見ながら「何でこんな気持ちの良いヤツ、私は嫌っていたんだろ?」と感じていた。
自分の気持ちなんてもしかしたら一番解らないものなのかもしれない。

美都は「文化も風習も国境を越えない」と思ってたが、「友情」だけは国境を越えるような予感に充ちていた。
Posted at 2017/04/17 19:08:15
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