業務用にメルセデスを所有している鉄道会社は何社かあります。
重役用のサルーンではありません。メルセデスの誇る究極のモンスターマシン、UNIMOG(ウニモグ)です。
なんとも可愛らしい名称ではありますが、正式には「多目的動力装置」で、そのドイツ語標記(UNIversal MOtor Gerate)のイニシャルが「UNIMOG」になります。
軍用にも用いられる卓越したオフロード性能を誇りますが、それだけでは民間企業は採用しません。
「多目的動力装置」の名のとおり、走行用エンジンからはタイヤだけでなく、もうひとつ動力軸が出ていて、ロータリー除雪機や耕運機を作動させることができます。
中日本高速の関連会社がメンテナンス用に保有していましたから、東名高速などで見掛けた方がいらっしゃるかもしれません。トンネル壁面清掃用の巨大回転モップを振りかざして極低速で走行する姿は圧巻です。
実はこの「極低速」というのが極めて難しい。2~3速でインター間数十キロを連続走行、しかも同じエンジンで巨大な回転モップを作動させながらという作業をこなせるのは、世界でもウニモグしかないそうです。ちなみに東名高速のウニモグは、更に洗浄水を満載したタンク車を牽引しながら(タンク車も動力がついてはいるが、総括制御も同調も難しいためトレーラー状態)上記作業を進めていきます。並みのトラックでは、2速で数十キロも走ったら無負荷でもエンジンが焼き付いてしまう危険があります。
もうひとつの特色がトランスミッション。前進も後進も8段設定されています。前進8段はともかく、後進8段は何ら意味がないように見えるかもしれませんが、これが鉄道会社が採用する理由なんです。
ウニモグに限らず、道路と軌道両方を走行できる車輌を「軌陸車」と呼びます。国産2tダンプのリース車輌や、4トン車を改造した高所作業車なども存在します。
これらの車輌は、軌道走行用の車輪が付いた車軸を、タイヤの下に咬ませてレールに載ります。その状態で前進しようと思えば、、、、、もうお分かりですね。ギヤはバックに入れないと前進できません。
イメージがつかみ辛い方は、玉乗りするピエロを思い浮かべてもらうと分かりやすいかも知れません。玉が前転するためにはピエロは玉の上で後ずさりする必要があります。
現場内小移動程度であれば、後進1段の国産車でも問題ないでしょう。しかし施工延長が長い場合(新幹線トンネル補修工事では、トンネル自体が数kmにもなる)や施工現場が遠い場合(在来線では現場近くの踏切から線路敷内に進入できるが、新幹線に踏切は、、、、ない)は、限られた時間内で確実に着手・施工・撤収しなければならない特殊事情を考慮すれば、「後進8段」は必須の装備となってきます。
もう一つ軸を噛ませれば、通常のトランスミッションでも速やかな前進が可能ですが、構造が複雑になるのに加え、同じ軌道上を後退して戻る際には問題が生じます。ウニモグでしたら、後退も「前進ギア」に入れるだけで同じスピードで戻れます。
概ね、どの鉄道会社も軌道・電気設備や土木構造物のメンテナンス用に購入していますが、京王のウニモグはちょっと毛色が異なります。多摩にあるメンテナンス工場内で、動力を切られた電車を横持ち移動させるための「機関車」として使用されているんです。
一般的に電車って、重いものでは1台40t以上、軽いものでも10t以上はあります。鉄車輪の抵抗は小さいので平坦な直線であれば人力で移動させることもできますが(88年の東中野駅電車追突事故では、破損した電車を中野の車輌基地まで人力で移動・撤去した)、数台同時に移動させる場合は人の手ではどうしようもありません。よしんば人力で動かせたとしても、ブレーキが機能しない電車を止めることは至難の業です。そこで、効率的かつ安全に移動させる道具として、ウニモグが採用されています。
京王のウニモグは、軌陸車としての機能はもちろん、荷台には巨大な空気タンクを積んでいますので、電車のブレーキ管に繋いで電車のブレーキも利用するのかな?と想像しています。
ドイツはじめヨーロッパでは、貨車の入換作業用の機関車として用いられている例は多いようですが、日本ではほぼここだけ?かと思われます。