片原町駅

四国讃岐平野を縦横に走る高松琴平電鉄。
東京や名古屋からやってきた電車を再生し、混結運用しているさまは模型的なファンタジーを感じるほど。
古い電車好きには外せない鉄道だ。
琴電は2011年、開業100周年を迎えた歴史ある鉄道会社で、廃止された路線を含め、概ね明治~大正時代に開業した路線・駅ばかり。そんな中で高松城の南、高松三越や香川県立ミュージアム、高松市美術館にも程近い街中にある「片原町(かたはらまち)」駅は、隣の終点「高松築港」駅と並び、戦後の1948年に琴電のジャンクション「瓦町駅」から路線が延伸した際に開業した比較的新しい駅である。
もともと高松駅方面には「市内線」があったのだが、戦時中の空襲で潰え、代替アクセスルートとして高松城の堀を一部埋め立てて開通させたのがこの区間だった。
駅の南側にある踏切は、高松が誇る日本一のアーケード街の一角、片原町商店街に挟まれ、線路敷の上だけ空が見える。
駅を出てから、ほぼ雨に濡れることなく買い物ができるのは便利で快適だが、昨今はシャッターを閉めたままの商店も多く、開いている店も夜は比較的早い時間に店仕舞いしてしまうため、少々もの寂しい。
駅の北側は、すぐに西へ向かう90度カーブとなる。
そのカーブの途中にある「本町踏切」は、瀬戸大橋通りとフェリー通りが交わる変形五差路の真ん中を、対角線状に横切る感じになっている。遮断機の配置がユニークで、しかも半ば併用軌道のような長い踏切は鉄道ファンにとって見応えのある光景だが、自動車にとっては朝夕の渋滞の原因になっているだけでなく、危険極まりない交差点。
実はこの交差点には信号が無い。交差点の形状があまりに変わっているため信号機の制御が難しいのに加え、踏切遮断機とシンクロさせなければならず、信号機の設置が未だに実現していない。
本町踏切を過ぎ直線区間に入ると、右手に高松城が見え、お堀端を走る。ダブルクロッシングを過ぎ、堀に沿って再び北へ90度カーブを切ると、まもなく終点・高松築港駅に着く。
カーブが終わりかける頃、車窓左側に目をやると、一瞬JR高松駅が望める。この空間は、JR高松駅から徒歩で5分ほど離れている高松築港駅を廃止し、JR高松駅に隣接して新駅を設置し乗り入れるために確保されたもの。
全体計画は、瓦町駅~片原町駅~新しい琴電の高松駅までを全て高架化し、先に紹介した本町踏切を含め一挙に踏切28箇所を廃止して自動車交通の改善も図るという壮大なものだったが、事業主体である香川県の財政悪化、そして何より琴電自体が経営破綻してしまった(現在は民事再生が完了)ため、計画は2010年に放棄され、すでに用地買収費用などとして投入された47億円とともに幻と消え去った。
よって再開発される前提で仮設の駅舎となっている高松築港駅や、危険な本町踏切は、現在でも残されたままとなっている。
行政としては、JR高松駅~高松築港駅間の歩道に屋根を設置したり、公共交通機関の利便性を向上させて高松市内に可能な限りクルマを入れないようにするなどして、高架化およびJR高松駅乗入れ断念で失った便益を補おうと努力している。
画像のように、道路と同じレベルからホームや電車を覗ける光景は、高架化で消え去るはずだった。ICカード「Iruca」導入で改札口にカードリーダーが設置されるなど、若干デティールが変化したが、基本的に同じ光景を現在でも見ることができる。
高架化で良くなる面も多いが、古い駅は改札口から電車までが近かったり、昇り降りが少なかったりといった利点がある。
近代化された琴電を見てみたかった一方で、古い路線・駅舎が残されたことにホッとしてもいる、所詮は余所者の私である。
住所: 香川県高松市鶴屋町7-5
関連リンク
タグ
関連コンテンツ( 高松琴平電鉄 の関連コンテンツ )
関連情報