旧高松市立中央球場(現高松市中央公園)
昭和の名選手は「新球団」に喜んでくれるだろうか
2014年07月03日

2014(平成26)年5月のこと、時の安倍政権を支える与党自民党および内閣に設置された政策会議・日本経済再生本部が決定・発表した「成長戦略第2次提言案」の内容に、スポーツファンは色めきたった。
政策提言の一つとして、現在セントラルリーグ6球団/パシフィックリーグ6球団の合計12球団に4球団を追加し、16球団へ増やす…なる項目が挙げられていたからだ。
この政策提案自体は、プロ野球コミッショナーやリーグ加盟各球団に対しヒアリングや意見交換をした様子もなく、恐らくは野球ファンの議員もしくは政府高官・政党役員が「ダメ元」で提出した素案が、「オモシロイぢゃないの」と望外の高評価を受けて「成長戦略第2次提言案」に載ってしまった……のではないかと想像する。
野球ファンの間でこの手の「新球団構想」が持ち上がる度に、フランチャイズとして有力視されるのが四国の中心都市・香川県高松市である。
香川県はプロ・アマ問わず多数の有能な選手を輩出しているが、香川県を本拠とするプロ野球球団は独立リーグ・四国アイランドリーグ加盟の「香川オリーブガイナーズ」が唯一。日本人トッププロやメジャーリーガーがプレーするセントラル/パシフィック両リーグ加盟球団のフランチャイズが置かれたことは、四国4県全体を見回してもない。
新球団が高松で旗揚げした暁には、最も喜ぶであろう2人が旧高松中央球場跡(現高松中央公園)に佇んでいる。
三原脩と水原茂。言わずと知れた東京六大学野球~黎明期のプロ野球で大活躍した名選手だ。
戦後も監督として率いたチーム同士が度々名勝負を演じ、互いにライバル心を剥き出しにしての真剣勝負を挑んでいた。
三原脩(1911-1984)は旧制高松中~早稲田大~巨人と進み、戦後は古巣巨人・西鉄などの監督を歴任。
水原茂(1909-1983)は旧制高松商~慶應大~巨人と進み、三原と同じく戦後は巨人・中日などで監督を務めた。
三原・水原ともに早・慶のスター選手として絶大な人気を誇っただけではない。特に水原は東京六大学野球リーグの原点にして黄金カードたる「華の早慶(慶早)戦」1933(昭和8)年秋季3回戦(この年は1シーズン制。ちなみに優勝は立教大)において、早稲田大応援席から水原に向けリンゴが投げつけられ、それを更に水原が軽快なフィールディングでスタンドへ投げ返したのをきっかけに、選手・応援の学生入り混じって神宮球場内および銀座での大乱闘騒ぎへと発展した「水原リンゴ事件」としてリーグ史に名が残され、後世のファンにも語り草となっている。
この事件後、応援の過激化および試合妨害を阻止する目的で、早慶(慶早)戦に限りベンチ・応援席が早稲田大=一塁側/慶應大=三塁側に固定化、21世紀の現在に至る。
学生気質の変化も影響しているが、早・慶が闘争本能の赴くまま激突し逮捕者が出るような騒ぎは聞かれなくなり、早・慶の応援団・チアが互いの応援席を訪問して「陣中見舞い」をするなどスマートな応援スタイルが定着した反面、早慶(慶早)戦を含む東京六大学野球の観客動員は減少傾向が続いている。
プロ野球にしても、地上波放送の野球中継が番組リストかから消え、父親がビールを飲みながら居間で一喜一憂するなんて光景は、もはや絶滅してしまっただろうか。
冒頭の「成長戦略第2次提言案」に話を戻すと、スポーツに関連する娯楽が野球・相撲・ボクシングぐらいしかなかった時代であれば、もしかしたら16球団でも経営が成り立ったかもしれない。
しかし現代はサッカー、テニス、ゴルフ、2020年東京オリンピックの前年にワールドカップが国内開催されるラグビーや、オリンピック公式競技に採用されている各種目などなど、日本人のスポーツに関する愉しみ方が多様化している。
野球にしても、よりパワフルでスピーディーなアメリカ・大リーグの試合の様子を、日本語の解説でテレビ観戦できるようになった。
今から日本プロ野球の観客動員を大幅に反転増加させ、追加4球団を含め16球団全てを採算ベース乗せるのはほぼ絶望的と言っていいほどに難しいだろう。
もし本格的に経済政策として「プロ野球16球団」を実現させるのであれば、以下のプロセスを要す。
子どものころから野球をプレーする楽しさと、プロ選手の美技を目の当たりにする悦びを教え込むこと。そのためには、家族連れで観戦しやすいゲーム開始時間設定や入場料金の割引制度を導入してほしい。
学生野球においては、学校としての実績を挙げんが為に前途有望な選手を酷使し、潰してしまうようなことは断じて許されない。上部団体が厳格な指導ガイドラインを制定し、選手の過度な疲労や怪我を防いでプロや社会人野球への重要な橋渡し役を果たすべきだ。
少数の天才的な選手が眩く輝くのではなく、多種多彩な才能を持った選手が努力を重ねて多数活躍するようになれば、裾野も広がり東京六大学野球はじめ学生野球の観客動員もジリ貧傾向を脱することだろう。
そして何より政治は、プロ野球を観戦するに足る時間的金銭的精神的余裕を、世の大人たちに与えるべきだ、
雇用制度を破壊し労働環境を不安定化させ、賃金を生活保護水準以下にまで切り下げ将来不安を膨らませておきながら、首相はじめ与党政治家が「プロ野球を観戦して景気向上♪」などと宣うのは、極めて程度の低いジョークとしか聞き取れない。
今はまだ、三原・水原両氏も心配しながら天の高みから「新球団構想」の行方を注視していることだろう。
本当に「高松新球団」発足を喜んでもらえる日は来るのか。経済政策の一環としてぶち上げた以上、政府・与党の舵取りに些かの失敗も許されない。
住所: 香川県高松市番町1-11 ※電話番号は高松市公園緑地課
電話 : 087-839-2494
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