東武東上線第180号踏切
求められる「リスクアセスメント」の徹底
2014年08月02日

日本人初100m走9秒台達成が期待される桐生祥秀選手が汗を流し、東都大学野球の雄たる野球部が本拠を置く、東洋大学のキャンパスが埼玉県川越市の西部、鶴ヶ島市との境に近い場所にある。
江戸時代から地域経済の中心地として栄えた川越~鶴ヶ島・坂戸・越生を結ぶ県道114号線と、桐生選手始め東洋大学の学生たちも通学で利用する東武東上線とが交差し、東洋大学の校舎およびグラウンドからも望める踏切で2014(平成26)年6月、突如スパークが生じクレーン装置付きのトラックが立ち往生してしまった。
揚げた状態のままだったクレーンのアームが、電車の電源である高圧電流で満たされた架線と接触したのだ。
電車が接近し警報が鳴動する最中、荷台部分から火の手が上がりトラックは全焼。幸いドライヴァーは感電も火傷も負うことなく無事脱出、電車との衝突も避けられ、表向き人的な被害は生じなかったが、架線が大きく破損し電車の運行が4時間半も停止する。発生時刻は夕方のラッシュアワー直前で、東京都心~埼玉県を貫く沿線は、広範囲で大混乱に陥った。
人的被害が生じなかった……というのは正確ではない。
この事故のおかげで私と妻の帰宅は2時間半以上遅れ、雨の中6kmもの道程を1時間も歩かされたため、翌日は酷い筋肉痛に。同じように疲弊し憤慨した沿線利用者は多かろう。
事故を起こしたクレーン装置付きトラックは運送業はもちろんのこと、私が禄を得ている建設業界でも多用される車輌。もしや……と思い車体の標記に目を凝らしてみると、やはり所有者は鉄骨建築を得意とする川越市内の専門工事業者だった。
引っ掛かったクレーン装置を通じて、雨で濡れた荷台の積載物にも高圧電流が及び、機械に用いる燃料油脂?型枠などの可燃物?が発火・炎上したのだろう。
実はこの業者、2014(平成26)年春先の大雪では社屋が雪の重みで全壊している。その後片付けも漸く終わり、一息つく間もなく今回の事態に直面。社屋の再建コストに加えて、列車の運行を長時間止めた責任に対する賠償が積み上げられるのは確実で、社長は天を仰ぎ頭を抱えた違いない。
剣豪としても知られる肥後平戸藩主・松浦清(まつらきよし/1760-1841)の言葉を引用し「負けに不思議の負けなし」と述べたプロ野球監督がいたが、建設業界の事故も「不思議の事故なし」と言える。
春先の大雪に因る事故とて、積雪がもたらす荷重の影響が理解できていれば何らかの対処ができたはず。鉄骨工事の専門業者なれば、なおさら設計・施工の実務に通じており、建物に及ぶリスクを評価し自社社屋を守るだけでなく、顧客にも注意喚起の連絡を入れるくらいの対処があって然るべきだった。
それをむざむざ潰してしまい、事業継続に支障をきたすばかりか、「我が社で施工した鉄骨構造物は大雪でぺしゃんこになってしまいます」と、大声で逆宣伝してしまったようなものだ。
これでは今回の事故を起こさなくても、先行きが怪しくなっていたかもしれない。
建設業界で禄を食む者の一人として、リスクアセスメント(事業継続や公衆の安全を脅かす危険性評価)の徹底を通じて事故の撲滅が達成されるよう、願ってやまない。
住所: 埼玉県川越市大字吉田字堂山70-3
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