親友、と呼べる奴の数は、少ない。どういう奴が親友と呼べるかと言うと、ちょっと難しいのだけど。儂の個人的な定義を立ててみると、一時的にでも、心が繋がりあった男、だろうか。尚且つ、一緒に馬鹿をやったりベロンベロンになるまで何度も飲み明かしたりすることも大事だ。だからと言って、頻繁に会ったり電話をすることもないんだけど、会えば馬鹿をやる。人には話せないことも、そいつにだけは話せる。
そんな、数少ない親友と呼べそうな男(向こうがどう思っているかは知らないが)から電話がかかってきたのは、今月の初め頃だった。多分、2年ぶりくらいの電話だと思う。前に会ったのは、故郷から嫁さんを貰ってこっちに連れてきた時だ。3人で、ベロンベロンになるまで飲んだ。どうやって家に帰ったのかは、覚えていない。
そいつと出会ったのは、13年前だ。儂はまだ自分の進路も決められず、フラフラとしていた頃。夜中のセブンイレブンでバイトをしていた。
12月のやたらめっぽう寒い晩、もう日が変わって暫く経った頃だと思う。「店の外で酔って寝てる人がいますけど」と、客が知らせてくれた。見に行くと、氷点下10℃近い寒空の下、スーツにピーコート1枚という格好で酔いつぶれていたのが、そいつだ。
放っておけば命を落としかねない状況だったが、警察を呼ぶのもなんだし、そもそも警察を呼ぼうという気は不思議と起こらなかった。
暖かいおでんの汁をカップに注いで、持っていった。
「おい、飲め」と声をかけると、「うう・・」と呻きながら顔を上げ、半分ほど飲んだあとまた寝てしまった。揺すっても叩いても起きることは無かったので、外掃除の時に着る店の中綿入りロングコートを上から掛けてやった。
明方になると、照れくさそうな顔をしながら「ありがとうございました」とコートを返しに来た。
そんな事件は、その日だけではなかった(笑
月に何度か、酔いつぶれては店の外で寝てしまう。完全に、当てにされてたのだろう(笑)。兎に角近所に住んでいるようだ。
ひょんなことから、そいつとよく飲みに行くようになった。沖縄からやってきて間もない男だった。沖縄では、酔うと道端で寝てしまう奴が多いらしい。どうやら、その癖が抜け切れなかったようだが、凍死しなくて良かった。
そいつとの一番の思いでは、無謀にも一緒にライブをやったことだ。
沖縄にいる頃、そいつはバンドをやっていた。アコースティックなギターを持っていた。長野でもバンドをやりたいが、仲間が見つからないと言う。
「おい、二人でライブやろうよ」
酔いつぶれ事件から1年と少し経った頃、とんでもないことを言い出した。儂は、楽器は殆どやったことがない。高校生の頃にギターに挑戦したが、挫折した。が、何故かそいつの言葉に乗ってしまった。
どんな楽器なら出来るだろう・・。パーッカションみたいなやつとか(笑
「学生の頃、金が無くて発泡スチロールをパーカッション代わりに使ったことがあったな・・」
翌日、魚屋に行って発泡スチロールを貰って来た。マジックで、「イカ」と書いてあった。
練習すれば出来るだろうと甘く見てしまったのだが、ブルースハープを買った。教本とにらめっこしながら一夜漬けの勉強が始まった。
問題は、練習場所だった。アコースティックとは言え、ギターの音はかなりでかい。お互い、仕事やバイトがあったので、一緒に練習が出来るのは週に2~3度、それも夜中だった。
近くに、儂が通っていた大学があった。そこの体育館に忍び込めば、音を気にせずに練習できることに気が付いた。真冬だったので、とても寒かった。手がかじかんで、ギターを上手く爪弾けなかった。儂も、発泡スチロールを叩く手は痛くなり、口元が固くなってブルースハープを吹くのに苦労した。歌を歌おうにも、ろれつが回らない。
そんな苦労をしながら出演したライブは、大成功だった。常連のバンドが他に数組出演していたが、オーディエンスは儂らの演奏にいちばんノってくれた。
演奏の後、二人でバーボンを啜っていると、オーストラリアから来たという可愛い白人の女の子が近寄ってきて声を掛けてくれた。儂らの演奏をとても喜んでくれていて、また来るからバンド名を教えろと言う。
二人で顔を見合わせて固まってしまった・・。
バンド名を決めてなかった。すると、女の子が「ジ・エスキー」はどうだと言う。「発泡スチロール」という意味らしい。そいつはいい。これでバンド名は決まりだ。
が、それ以後、お互いに忙しくなり、ジ・エスキーはその晩限りの幻のバンドとなってしまった(笑
儂が仙台の会社に入社した後も、長野に時々帰って来てはそいつとよく飲んだ。仙台にいる間も、再び長野に戻ってきた時も、会う回数は極端に減ったが、会えば昔と変わらない態度で一緒に馬鹿を出来た。
「俺、沖縄に帰ることになったよ」
電話の背後から、赤ん坊の声が聞えてきた。ああ、子供、出来たんだな。
「お、そうかぁ。いつ帰るんだ?」
「来週の月曜」
「転勤か?」
「いや。会社はやめたよ。実家の家業の農業を継ぐ。牛飼ったり畑耕したりするんだ」
最後に飲むか、という言葉は、どちらからも出なかった。時間も、無さ過ぎた。もう会えないかもしれないが、それでもいい、と思えた。会うことはなくても、なんとなく、そいつとはどこかで繋がっている・・という気がした。
「そうか。大変だろうけど頑張れよ。向こうに着いたら、連絡をくれ。奥さんによろしくな」
「うん、ありがとう。連絡するよ。そっちも頑張ってな・・」
まあ、本当に連絡をよこすことは、ないだろう(笑
お互い、携帯の番号はもちろん知っているので、接点がまるでなくなるわけではない。忘れた頃に、どちらかが何かの用を思い出して電話をかけることは、あるかも知れない。
男の親友同士なんて、別れ際はこんなもんである(笑
女には、わからんかも知れんね。
Posted at 2005/09/25 22:06:05 | |
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