
日本の鉄道では鉄道省時代の昭和初期から無線に関する試験を続けており、国鉄となってからは昭和25年には入換用機関車に無線機を設置していました。しかしその後もしばらくの間、走行中の列車乗務員と地上側の駅や指令との間で直接通信する手段は無く、必要な時は次のように取り扱っていました。
○運転指令所から列車へ:指令から通過駅へ信号を停止現示(赤信号)にするように指示し、列車を停止させて必要事項を伝達する
○列車から各部署へ:通信筒(通信文を砂袋付きの封筒に入れたもの)を駅通過時に落とし、鉄道電話等による関係箇所への連絡を依頼する
○駅間での異常発生時:線路と平行して通信線路(ケーブル)を敷設し、一定間隔で電話機を接続する端子を設置しておき、連絡が必要な場合は乗務員が可搬型電話機を携行して最寄りの端子に接続して電話する
列車走行中においても直接の通信を可能とする無線システムは、昭和35年に登場した特急こだまで実用化され、その後少しずつ増加します。
○昭和35年 151系(特急こだま)運用開始
400MHz帯、2回線、東京~大阪間のほぼ全線で通話可能。基地局を14ヵ所設け、列車乗務員と地上係員が業務用通信を行った。地上側では電電公社回線にも接続され、列車公衆電話として東京・名古屋・大阪地区と通話可能であった。この取り扱いは昭和39年の東海道新幹線開業時に休止。
○昭和37年 北海道内特急列車用無線(船車連絡用無線、通称青函無線)設置
150MHz帯。当初移動側はキハ80系(キロ80形)に携帯無線機を設置、森駅と長万部駅に基地局を設置し、車掌が青函連絡船への連絡関連情報を取り扱う。
昭和40年以降はキロ80形及び暫定的に特急に充当されたキロ27形に車載型無線機を設置、また函館、札幌及び室蘭(測量山、通信圏は森~苫小牧間)に基地局を設置し、下記の自動車電話と同様に交換手を介して接続。
その後電電公社(当時)の災害無線電話(恐らく災害応急復旧用無線電話・400MHz帯)に移行し、随時区間を拡大して函館~苫小牧間と上野幌~札幌~岩見沢間で運用。乗務員無線(現行Cタイプ無線)導入まで使用。
○昭和38年? 横軽協調運転用無線導入
400MHz帯。主機~補機間で通信するための無線。旧線(アプト式)時代に用いていた150kHz帯誘導無線(IR方式)を空間波無線方式(SR方式)に更新したもの。運転席上にAタイプ初期と同様の細身のアンテナを設置。
その後、トンネル内でも安定した回線を確保するため、昭和53年に伝送方式を漏洩同軸ケーブル方式(LCX方式)に変更し、側面に鉄板形のアンテナを設置。平成元年には皆さんお馴染みの?長いアンテナ(通称C'アンテナ)を追加。
○昭和39年 東海道新幹線開業
400MHz帯、8回線多重無線、東京~新大阪間。当初は運転指令用のみに2回線を使用、翌年に6回線を増設し、特急こだまと同様に業務用通信や公衆電話に使用。
○昭和41年 常磐線列車無線設置
150MHz帯複信式(送信・受信が別の2周波数を使用)、上野~取手間。通話用のみならず、三河島事故を教訓とした防護警報発報機能を持つ。現行B/Cタイプ無線導入まで使用していた模様。
○昭和45年 乗務員無線導入
400MHz帯。運転士~車掌間並びに通告を行う駅長との間で通信するための無線。現行Cタイプはこれをベースとしている。
○昭和56年 Aタイプ無線導入
300MHz帯複信式。山手線、京浜東北・根岸線のATC化と同時に導入。東日本管内では平成19年~21年にデジタル化。
○昭和57年 東北・上越新幹線開業
LCX方式を採用し全区間で安定した回線を確保、平成14年には音声通話を含めデジタル化。
(東海道新幹線は平成元年に従来システムからLCXに置換、平成21年にデジタル化)
○昭和61年 Bタイプ無線導入
300MHz帯半複信式(指令側は同時送受信できるものの乗務員側は普通の無線と同様に送信受信いずれか可能)、Aタイプの簡略版。東日本管内では平成19年~21年にデジタル化。
○昭和61年 Cタイプ無線導入
400MHz帯。乗務員無線をベースに、沿線に基地局を設け電話回線経由で指令に接続、乗務員と指令がほぼ常時通話できる体制が全国的に整った。
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とここまで色々書いてきましたが本当に調べたかったのはこれ、通称国鉄ハイウェイバスの無線についてです。ここまでの内容はこれを調べているうちに出てきたおまけ(笑)
○(登場時期不明)自動車無線
150MHz帯複信式。元々は保線区、信号通信区や鉄道公安部門(現在の各都道府県警察本部鉄道警察隊の前身)が移動先の自動車から連絡するための無線で、24時間運用の交換手が鉄道電話網に接続して自区と通話することができました。昭和48年通信白書(現在は総務省の情報通信白書)に「災害用無線 送電線保守用無線・・150MHz帯(移動系)」の記述があり、この時点では使用していたことが確認できます。
東名高速線開業の際には、当時全国を結んでいた国鉄専用マイクロ回線の中継局に併設する形で東名高速道路沿線に基地局を設置し、走行中のバスと自動車営業所の間で業務連絡を行ってました。バスの屋根にはブーメラン型のアンテナを設置。国鉄規格(JRS)制定品であり、通常移動体通信で用いられる垂直偏波のみではなく水平偏波も使用するためにこのような形状に。
長い間偏波を使い分ける理由を考えあぐねていましたが、基地局送信は設置が容易なため移動局のアンテナで通常用いられる垂直偏波を、そして移動局送信は固定局間の回線で地表波減衰を考慮して多用される水平偏波を採用したのではないかと思います。
トップの画像は当時の広鉄局(広島中央鉄道公安室)作成のパンフレットから。右上側に少しだけ見えるのがそのアンテナです。
現在首都圏ではこのシステム自体使用されていない模様ですが、youtubeを見たところJR西日本では今もなおライトバン型保線車に同じアンテナを搭載しているようです。
追加・訂正情報などがありましたら、お教えいただけると有難いですm(_ _)m
※2013年3月 横軽無線の記述を修正、以前の追記を本文に組み入れ。
※2020年3月 自動車無線の偏波につき追記。
※2023年6月 青函無線の記述を修正
※2023年9月 青函無線の記述を再度修正
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鉄道 | 日記
Posted at
2011/12/16 19:13:55