
1970年のソロアルバムの話でイージーナウの事を書いたのでそのつながりで少し飛びますが1992年のアンプラグドの事を書きます。
この頃はすっかりギターの神というより歌も歌えるギタリストという感じになっていました。
息子を衝撃的な事故で亡くし、今度こそ音楽活動を続けられるか心配されましたが(僕はこのニュースをスポーツ新聞で見て驚きました)
それまでも彼に影響を与えた何人もの音楽仲間が若くしてこの世を去って来ましたがそれとも比較できないくらいのショックだったと思います。
しかし彼は彼なりのやり方で乗り越えました。当時、一切の思考を停止してテトリスに没頭したというような記事をを読んだ記憶があります。
また、彼をなんとか慰めようと何人もの女性が寄り添うように歩いていたのが何度も目撃されていたらしいですが(歌手のシェールなど)彼はそれについて、ただ僕は美しい女性と一緒にいたかっただけだと答えたようです。いかにも思慮深く感情を剥き出しにしない彼流の深い答え方だと思いました。しかしそうやってじっと堪えていたのかと思うと胸にこみあげてくるものがあります。
これにまつわる話は他にもいろいろありますが後に音楽によって救われたとも言っていました。ともかく彼の長年のファンのひとりとして安堵したのは間違いありません。
…そういう事があってからのロックミュージシャンにアコースティックをやらせようというMTVアンプラグドの企画は彼に新しい転機を与える事にもなりました。
ここでのクラプトンはギターのテクニックを駆使するというより古いブルースの曲を再現するという趣旨の方が深かったと思います。
その中で彼が作った「オールドラブ」は特に味わい深い一曲です。
オリジナルではエレクトリックギターですがこのアコースティックバージョンは絶品です。
ゆっくりしたテンポで淡々としたプレイは速弾きなどの技巧は使っていませんがゆらゆら歌に寄り添って弾くギターが掠れた音を出し感情を表しながら高まっていく過程はグッとくるものがあります。
終盤で唸るように押し殺した声をだしながらギターをタメて弾く様子はこの曲のクライマックスでライブ中のハイライトでしょう。
声量も決してゆたかではなく歌唱力があるタイプではない…が丁寧に繊細に歌うので思わず引き込まれてしまうヴォーカルと正確なピッチで超絶技巧で弾くギタリストとは真逆の侘び寂びの極地のようなギターの融合です。
これ以上行くとヘタだと感じてしまうギリギリのラインを保っているようにも感じます。敢えて崖っぷちを渡っているのを見てるようなハラハラして一瞬も聞き逃せない緊張感が続きます。
いかに弾くかじゃなくていかに弾かないかに懸けているような感じです。
かつて彼は間違った種類の音楽で金を儲けようと思ったことは一度もないと言ってますがまさにそれを証明したパフォーマンスだと思います。
これはテレビ番組の収録でスタジオで演っているので、彼の表情とか指づかいなどもクッキリ映っています 。ファンならもちろん観ていると思いますがそうでない人にも是非観て欲しい名演です。
追記)クリームの初期の1966年だと思いますが、アメリカのテレビ番組「マレーザKショー」という番組に出演したものが奇跡的にキレイな映像で残っています。そこでは若いエリックのボーカルによる「エニィワンフォーテニス」というフォーク調の曲を演っています。
今でいうミュージック・ビデオのようなもので何故か3人がポリスの格好でテニスラケットを振って蝶々を追っかけるという妙な演技のような事をして(やらされて)います。時々笑い屋の声まで入ってまるで日本のバラエティー番組で途中でツナギで出てくる新人アイドルグループのような雑な扱いです。
その口パク演奏中でエリックの表情は終始不機嫌そうです。
せっかく意気揚々とやって来たアメリカでこんな事をやらされて…という感じです。こんなところにも誰よりも真剣に自分の音楽を追求していたエリックらしい態度が表れている気がします。
昔のテレビ番組でよくあったようなおちゃらけた感じのものです。
スタッフがクリームの事をよく知らないで作った感じです。多分一発屋のポップスグループぐらいにしか思われていなかったのでしょう。
それはともかくとして、クリームのこんな映像が残っていた事自体は驚異的なことです。動機はどうであれこの番組のおかげで超貴重なクリームのスタジオ映像が観れるのですから皮肉なものです。
Posted at 2022/02/07 03:49:09 | |
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