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2015年05月06日

『獣の奏者』四部作を読んでみて

『獣の奏者』四部作を読んでみて 割と早く読み終わりました。
『獣の奏者』探究編 完結編

これで『獣の奏者』全四部作を読破できました。

「破戒」と「知識の継承」の物語と思いました。
そして、「悲劇」だとも。


エリンは、目の前に立ち塞がる様々な戒律の全てを破戒し、はるか過去に起きた「大惨事」を自らの手で引き起こしてしまった。結局は過去と同じ過ちを繰り返してしまった。
でも彼女を責める気持ちにはなれなかった。
ココがこの作品のキモ。作者の狙った事じゃないだろうか。

物語の世界は、様々な戒律が職業ごと・階級ごとに定められ、人の知識欲がコントロールされた世界。この世界にエリンは、緑の目の外見と人並み以上の洞察力と探究心を、母親の血筋(霧の民)から受け継いで生まれてきました。霧の民とは、遥か過去に起きた「大惨劇」の当事者の末裔。過去の記録を伝承しながら再び大惨事が起きない(起こさない)ように、多くの戒律で自らを縛り世を捨てて生きる「戒めを守る」一族。
エリンの母親は、一族の戒律を破り一族以外の男と結ばれ(霧の民)を去った。
そして「魔がさした子」としてエリンが生まれた。
父親が死に、母親とも死に別れた幼いエリンは、運命的な出会いにより養父の元で育てられる。戒めのない環境の中でその才能を開花させながら成長したエリンは、やがて王獣を操る「操者ノ技」を編み出す。
この技こそが「大惨事」を引き起こす禁忌の技とも知らずに。

原作者の上橋菜穂子氏は、オーストラリア先住民アボリジニを研究されている文化人類学者でもあるとプロフィールに書かれていました。学者としての考えと、作家としての考えが、見事に融合されている事が『獣の奏者』の深みの最大の理由だと思います。
エリンの行ってきた「破戒」の行動原理は「探究心」でした。
人々が自由に知識欲を表わせず様々な戒律に縛られた社会構造。戒律の元となる知識の伝承も一部の為政者一族が伝承してきたのみ。いまではその伝承さえも途切れてしまい、ただ戒律だけが残りそれに疑問を感じる事すら非とする世界の中で、無垢な少女時代のエリンは社会に疑問と反発を感じながら真っ直ぐに探究と研究を進め「操者ノ技」を編み出す。
古い風習を打ち破っていくかの如く突っ走るエリンの姿は、まさに学者の持つ知識欲のサガを少女エリンに体現させた作者ならではの真骨頂です。読んでいて心地よく、ワクワクする爽快感を感じます。
やがてエリンは、自らの研究の行き着く先に「大惨事」が待っている事を知ります。
でも彼女は研究を止めることはしなかった。突き進む道を選択しました。
傍目からみれば「マッドサイエンティスト」のソレに近い行動選択をした事になりますが、その選択の行動原理は別なモノでした。
(霧の民)の血筋を引く母親とエリンを縛っていた多くの戒律は「大惨事」を繰り返さない為の軛であった事をエリンは知ります。と同時に、母親は(霧の民)追放されながらも戒律を守り通し、最後は戒めを守るために死を選んだ事を知りました。
幼いエリンの目の前で戒律を守り死を選んだ母親。
「戒律がお母さんを奪った。おかあさんは私との生を捨て、戒律との死を選んだ。」
この母親へのトラウマこそがエリンの人生の根底を流れ、物語全体を覆う見えないテーマだとも思いました。作家としてのストーリーテラー力の真骨頂です。
聖なる無敵の獣・王獣を人が操る。
エリンによる数々の破戒の果てに甦った「操者ノ技」は、為政者たちにとって伝説の最強兵器の復活以外の何ものでもありませんでした。王獣軍こそが王家の神格化を高め他国からの侵略を防ぐ最大の抑止力となる。そう信じて疑わない為政者によりエリンは否応なく国家に組み込まれていく。「野生の者は野生に還したい」と願う想いと裏腹に、王獣を手懐け繁殖させることを求められるエリン。やがて王獣と対をなす獣・闘蛇もまた、人の手により兵器として歪に繁殖させられてゆく。
人の手による王獣軍と闘蛇軍の増強の先に「大惨事」が訪れる事を知りながら、エリンはひとつの決断をする。

「大惨事がどのような事象なのか判らないけど、それを乗り越えて行こう。多くの人が事実を知る機会を得て多くの人が考える機会を得られれば、のちの世の誰かの大切な発見のきっかけになる。おかあさんは戒めに従ったけど、わたしは別な道を切り開く。大惨事を乗り越えわたしと私の家族の未来を見つけだす」


この作品は独特な余韻を引きずります。
自分に限っての事ではなく、たぶん多くの読者に共通する余韻だと思います。
その原因のひとつが、エリンのこころの救済を作者が行わないまま物語を終わらせている事だと思います。物語中に何度か母親の血族(霧の民)がエリンの元へ訪れ、戒めを守り探究をやめるように諭します、エリンの進む先に大きな災いが待っている事も。しかしエリンは自らの信念を基に突き進んで行きます。最後に自分の中に流れる血の半分を共有する母方血族が(エリンの息子を介して)エリンへ投げかけた言葉が重い。

「我らはもはやお前の母親を見限った。いまの王獣と闘蛇の数であれば、死者は数千人という規模であろう。それとて恐ろしい惨事だが、かつて起こった惨事に比べれば救いがある。むしろ、ここでお前の母親が自らの罪の報いとして死ぬのであれば、王獣を使える者はいなくなる。これは不幸中の幸いだと我が民は思い、この事に関わるのをいっさいやめたのだ。・・・だが、わたしは、救えるものなら…その数千の死者を救いたい」

この言葉を覆す言葉を作者は描きませんでした。
その代り作者は、その後の四日間を淡々とした文章で綴り、すべての顛末を語る事で物語に幕を引きました。

その淡々とした文面の中に読者が自由に行間を読めるように。

とても多岐にわたり様々な事を考えさせられ、そのどれもが明確な答えを持ち得ない問題であり、すべてを読者に委ねてきます。
エリンの内面の複雑な葛藤は、現代の科学の進歩と倫理観のせめぎ合いにも置き換えられ、自然の摂理に反した王獣や闘蛇の人工繁殖は行き過ぎた遺伝子工学への警鐘ともとれます。
他国より強大な軍事力を有することが侵略の抑止力となり強い外交力を生むという作中の為政者の考えも、とてもタイムリーな問題です。
特には、人のコントロール下に置いたと思われた王獣と闘蛇という強大なチカラが、ひとたび暴走を起こしたらもう誰にも止められない。このモチーフは作品発表後「3.11フクイチ」として現実化してしまいました。
けど、エリンにより人々は、事実を知る機会を得て戒律の意味を知り、多くの人が考える機会を得られました。
エリンの語るもうひとつの重要な台詞がありました。

「人は知れば考える。多くの人がいて、それぞれがそれぞれの思いで考え続ける。ひとりが死んでも、別な人が新たな道を探していく。人という生き物の群れはそうやって長い年月を生きてきた。知らねば道は探せない」

文化人類学者で作家である原作者の声そのもののように思いました。
未来への希望を生み出す悲劇の物語でした。

思いつくまま駄文を書き殴りましたが、読んで損のない空想歴史大河物語です。
未読の方、強くオススメします。







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Posted at 2015/05/06 14:18:37

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