
キツかったなぁ。日本人にはホントに辛いドキュメンタリーです。
原題は『TOUS COBAYES? 』 すべてモルモット?
原題の方が判り易いと思います。
2012年フランス製作の「遺伝子組換え作物の人体的影響」と「原発問題」を告発したドキュメンタリー。
自分の、殆どない科学的知識で考えて「そこまで遺伝子組み換え作物」は危険なのか?」って疑問がありました。
遺伝子を組み換えた食べ物を摂取して人体に影響がでるって、どうしても理解できませんでした。
たとえば大豆とかだったら、その主成分のタンパク質自体に異常が現れていれば誰にでも判るし、それを食料や肥料にしようとはしません。
その主成分には変化がなく更に根幹の遺伝子情報を操作した作物が、どうして摂取した者に影響を与えるのだろう?
摂取され消化されエネルギーに変換された物質の遺伝子情報だけが、摂取した者の遺伝子情報に影響を与えるの?だとしたら、この世に生を受けてから死ぬまでの間、摂取し続ける食べ物の遺伝子に影響され続けてる訳なの?
ちょっと理解出来ないお話です。
わたしは決して遺伝子組み換え作物が100%クリーンなテクノロジーだとは思っていませんが、直接的に人体に影響を及ぼすようなモノだとは思ってませんでした。
そんな疑問を抱えて鑑賞してみました。
ちょっと、タネも仕掛けもあるモノなんですね、遺伝子組み換え作物は。。
遺伝子組換え作物と農薬がセットのモノでした。両者は一心同体。
世界中に流通している遺伝子組み換え作物の組み換えた遺伝子情報とは「農薬(除草剤)でも枯れない」という遺伝子操作を行った作物でした。
農薬じゃんじゃん撒いて雑草を枯らして作物だけ計画量を収穫できますよって。
大きな問題は残留農薬。
遺伝子組み換え作物が世界中で栽培されるようになり、農薬消費も増加の一途を辿ってるって。
遺伝子組換え作物の種子を製造販売している会社と、農薬を製造販売している会社は同じ。
アメリカの食糧メジャー。
アメリカの食糧戦略は今では当たり前に語られる現実。
敵国の食糧生産をコントロールすれば戦争しなくても相手国を隷属できるって戦略。
では遺伝子組み換え作物がどのように世界戦略の道具になり得るのかって云うと、
特許技術製品なんだって遺伝子組換え作物(種子)は。
種子を買って栽培し、種取りして翌年栽培すれば再びライセンス料を請求されるそうです。
こうして永久的にライセンス料を請求され続け、同時に農薬も買い続ける。
なんとも合理的なビジネスモデルです。
話しを人体への影響に戻しましょう。
この遺伝子組換え作物の安全性の検証は、今までは3か月間のラット実験しかなかったそうです。
この3ヵ月間の実験結果をもって世界各国は安全性を認めたのだとか。
このドキュメンタリーは世界で初めてラットの平均寿命に相当する2年間の期間にわたり遺伝子組換え作物を与え続けた動物実験を追ってます。
200匹以上のラットを様々な条件での20グループに分け、2年間にわたる動物実験。
動物実験を実施する事自体の善悪を研究者自らが問う場面がありましたが、画面の中で研究者はハッキリ言ってました。
「動物実験自体にモラル的な事があるかもしれないが、この実験を行わなければ世界中の人々がモルモットになるしかないのです」
実験の結果は作品の中で詳しく説明されていますが、どのグループでも多くのラットに腫瘍が発生しました。どの場合にも実験開始から4か月目くらいから発生したそうです。
ちょうど世界の国々が安全を認めた3か月間のデータの後から事態が変わってくるみたい。
特に自分が注目したのは、残留農薬条件を外し純粋に遺伝子組換え作物(トウモロコシ)を与えたグループにも腫瘍が発生したと云う事でした。
この、純粋に遺伝子組換え作物条件のみのグループにも腫瘍が発生したって事はとても重大な事だと個人的に思いますが、この作品ではこの検証はありませんでした。
なぜなら、この作品の制作過程で「3.11」が起きたからです。
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このドキュメンタリーは構成上、重大な欠陥を抱えてます。
製作過程で発生した福島原発事故の放射能問題を急きょ作品の中に取り込んだ結果、まとまりを欠いた構成になってます。
しかし、私を含めた日本人にとっては、ふたつの主題「遺伝子組換え作物」と「原発問題」を結びつける想像力を、どこの国の人々よりも持ち得ていると思います。ある意味残念な結果ですが。
原発事故後、急きょ福島に入ったスタッフ達の画面を通じて訴える言葉が重かった。
「なぜあなたは防護服をきていないんだ」
「(小学校の前で)なぜ子供たちを避難させない。この高線量の場所で」
画面の中から観客に向かって訴えてくるような真剣な言葉に、返す言葉が見つかりませんでした。
しいて言えば「国が安全基準を引き上げたからです」ですかね・・・・
原発問題では、放射能汚染に対しての日本の中の物差しと、世界基準の大きな乖離を痛感させられます。
「原発なんて怪物を人がどうにかしようなんて無理だったんだ。怪物怒らせてしまっても鎮める方法をしらないんだから」と言った飯館村のオジサンの言葉が印象的でした。
映画の最後は、福島で有機農業・酪農を営んでいて原発事故後に放射能汚染を悲しみ自ら命を絶った農家の遺族へのインタビューで終わりました。
遺された老妻が語った
「放射能は福島だけの問題じゃなく、日本だけでもない世界中の問題だ。海も空も繋がってるんだから」 とても重い言葉で作品は終わりました。
空しいような涙が止まりませんでした。
いまこの作品は渋谷のミニシアターだけで上映されてます。
この後全国のミニシアター系へと上映の輪が広がっていくと思いますが、お近くにきたら観ておくことを強く勧めたい1本です。