※少し前から気になっていてぽつぽつ書き溜めていたもの。
カルロス・ゴーンと言えば賛否様々飛び交う人の一人。
事実として「倒産へむけてまっしぐら、日本の銀行ですら半ばサジを投げ、
他企業からの支援が得られなければS&Pは投資格付けをジャンク以下に
引き下げると明言し、当時クライスラーの会長だったボブ・ルッツ曰く
「日産に資金を注ぎ込むのは50億ドルをコンテナに詰め、日産と書いた
ラベルを貼って海に投げ捨てるようなもの」とまで言われる状態だった
日産自動車において、2兆円以上あった有利子負債を(年間の利子
支払いだけでも1000億円)始末して、財務状態を一旦クリアにした」と
いうのは間違いないところ。
様々な書籍を読み、ご本人の自伝も読んだ上で個人的な評価をするならば
「カルロス・ゴーンって経営におけるER(救急救命室)のドクターであって、
健康維持の状態を進めるには向いてないのかも」と感じた。
そう思った理由として、いわゆる日産リバイバル・プラン初期に出した
5車種はともかく、回復させてからの車種にどうしてもコストダウン先行が
見えてしまうこと。さらにカルロス・ゴーンの経歴を見ると、過去赴任した
先は様々なトラブルを抱えその対処はゆっくり考えるヒマはなく、決定と
実行にスピードが必要だった環境ばかりだった点にある。
(ミシュラン・ブラジルに派遣されたときのブラジルはハイパーインフレの
真っ只中で、1日の判断遅れが収益どころか企業の存続を左右する状態、
アメリカに行ったときはユニロイヤル・グッドリッチとの経営統合を担当。
ルイ・シュヴァイツァーのヘッドハンティングでルノーに来たときは
当時10億ドルの損失を出して赤字転落、財務体質の改善をして経営を
立て直し、公団経営から民間企業に移行する必要があった。
日産自動車は先に述べた通り)
カルロス・ゴーンが世の多くの社長と少し経歴の違う点として、
技術やマーケティング出身でなく資材担当出身という点がある。
これに気づかされたのは、鶴田国昭という人の本を読んだときである。
(少し話が逸れるのだが、日本より海外で有名な日本人と言うことで
紹介しておくと……
鶴田氏は川崎重工→日航製でYS-11の海外販売時のプロダクトサポートを
行い、横並び意識の強い日本の会社体質に嫌気がさして退職。アメリカの
ピードモント航空で裸一貫から叩き上げで資材担当副社長まで上った後、
倒産寸前のコンチネンタル航空を数年で黒字転換した手腕を誇る資材のプロ。
ピードモント航空時代に燃料の値下げに応じないシェルやエクソンに対し、
ベネズエラ政府と交渉して燃料をタンカーごと購入、会社の備蓄タンクに
入らない分を日本の商社にさやを乗っけて売りさばくことで揺さぶりをかけ、
最終的に値下げに応じさせたり、ボーイング737を購入する時に他社と
比べて1機数億円ほど値引きさせ、トータル50機を一発で購入したと
いう逸話がある。会社が買収された際に買収した側の担当者が
「ツルタはヴェニスの商人に出てくるシャイロックか」とまで言わせたほど)
鶴田氏は自著の中でこう書いている。「日産自動車では、部品や資材、
設備など総コストの約60%が購買で使われる。(日産リバイバル・プランで)
その20%を削減すると言うのだから、大変なものだ。」。
さらに「資材管理でのコストダウンはそのまま会社の純利益につながる。
売り上げをアップしてもそこから様々な諸経費が引かれ、純然たる
利益はわずかでしかない。資材部署でセーブするコストは、売り上げ増の
数十倍に匹敵し、いかに企業にとっては値千金かがわかるだろう。」と
書いている。
ただし、こうも言っている。「日本ではカルロス・ゴーンによって復活した
日産自動車が注目を集めているが、アメリカの航空業界を長年、
渡り歩いてきた私から言わせれば、情けない話だ。ゴーンの力に頼る以前に、
強いリーダーシップを発揮する人物がいれば、日産自動車の膿は
あそこまで広がることはなかったはずだ。」
コンチネンタル航空も日産自動車も復活劇の際に行ったことは
極めてシンプル。
・ビジネスの原則に立ち返り、ターゲットを明確にして計画を立て、
トップがリーダーシップを取って実行する。
・聖域なしで今までの契約を徹底的に見直す。大量、あるいは
長期の契約をすることで全体でのコストダウンを行う。
・手持ち資産を見直し、余剰なものは徹底的に売却などダイエットを
することで資産にかかるコストを減らす。
(コンチネンタル航空の場合は持っていた飛行機の機種を16機種から
4機種に絞り込んでパイロットや部品を集約。日産自動車の場合は
工場を集約して生産能力を集中した)
ちなみに、コンチネンタル航空も日産自動車も最大の問題点は
資材部署にあったと言っているのは興味深い。
航空業界と自動車業界。業種こそ違えど同じ手法、それもマジック
なんぞではなく、実にシンプルかつありきたりな手法しか使ってないのだが、
これを継続して実行することこそ難しいのねと再確認した次第。