背が高いというハンデを抱えながら、Focusの名前を冠するに値する走りを成立させた車
あのC-MAXは、なぜあんなに曲がったのか?
13年前、私はフォード フォーカスC-MAXに乗り始めました。
2013年11月に緊急乗換えして、それから約11年半。
約1年半前まで、長く付き合った車です。
今でも強く印象に残っているのが、あの車のコーナリングです。
背の高い車なのに、鼻先がグイグイ入る。
コーナーで荷重を掛けていくと、そこそこ頑張ったところでリアが少し動く。
しかも、それはタックインとは違う。
怖いわけでもない。
むしろ、その動きがものすごく気持ちよかった。
サスペンションがガチガチに硬いわけでもない。
なのに、前後輪の接地感がしっかりあって、思ったラインをトレースしていく。
当時の私は、この車がなぜこんな動きをするのか、うまく説明できませんでした。
ただ、
「この車、もしかして凄いんじゃないか?」
と思った。
そして2016年、自分のブログを読み返してみると、私はC-MAXについて、
「フォードの魔法」
と書いていました。
当時は、それ以上の説明ができなかった。
でも、13年経った今なら少し分かるかもしれない。
あの「魔法」には、ちゃんと理由があったのではないか。
Fordの技術者たちは、背の高いMPVでありながら、Focusらしい走りを成立させるために、何を考えていたのか。
今回、あらためて海外の資料まで掘り返して調べてみました。
すると、思っていた以上に面白いことが分かってきました。
そもそもC-MAXは、単純にFocusを背高にして便利にした車ではなかったのです。
そもそも、なぜC-MAXだったのか
私がC-MAXに乗り始めたのは2013年11月。
日本では、かなり地味な存在でした。
街中で見かけることもない。
「フォードのフォーカス」と言えば分かる人でも、「C-MAX」となると知らない人の方が多かったと思います。
見た目も地味。
背が高く、5人乗り。
スライドドアでもない。
日本のミニバン市場から見れば、かなり独特なポジションです。
ところが欧州では、C-MAXには明確な役割がありました。
それは、
「MPVでありながら、運転する楽しさを失わないこと」
でした。
FordはC-MAXを、単なる実用車としてではなく、Focusの走りのイメージをMPVというパッケージに持ち込む車として成立させようとしていたのです。
だからこそ、「Focus C-MAX」という名前になった。
伊達にFocusの名前を冠していたわけではありませんでした。
「背が高くなったFocus」ではなかった
C-MAXはFocusと血縁関係のある車です。
しかし、単純にFocusの車高を上げて室内を広くしただけではありません。
C-MAXでは、車体のサイズそのものが変えられています。
ホイールベースを延長し、トレッドを拡大。
さらに、車重や重心高など、MPVとしてのパッケージングに合わせてサスペンションも専用にチューニングされています。
特に興味深いのが、Fordが採用していたControl Bladeリアサスペンションです。
このサスペンションは、横方向の剛性を確保しながら、縦方向には適度に動かすことで、乗り心地とハンドリングを両立させることを狙ったもの。
つまり、
「ロールさせないために、とにかく硬くする」
という発想ではありません。
必要なところではしっかり支え、必要なところでは動かす。
C-MAXが「硬い車」という印象にならなかったのも、ここに理由があったのかもしれません。
背が高いのに、なぜ鼻先がグイグイ入ったのか
私がC-MAXで一番好きだったのが、フロントの入り方でした。
普通、背の高いFF車をコーナーに入れていけば、重心の高さからロールが大きくなり、フロントが逃げてアンダーステアに向かっていくことを想像します。
ところがC-MAXは違った。
もちろん、何をしても曲がる車ではありません。
そこそこ頑張って荷重を掛けていく必要があります。
でも、そこまで持っていくと、
「まだフロントが入っていく」
という感覚があった。
そして、その先でリアが少し動く。
このリアの動きが、私はとても好きでした。
「パッシブステアなのかな?」と思っていた
当時、私はこのリアの動きを、
「パッシブステアなのかな?」
と思っていました。
今になって資料を調べてみると、これも完全な勘違いではなかったようです。
Control Bladeのリアサスペンションには、ブッシュやリンクのコンプライアンスによって、コーナリング時にリアが受動的に操舵されるような特性があります。
いわゆるパッシブリアステア的な効果です。
もちろん、後輪を積極的にステアリングで操舵する4WSとは違います。
サスペンションが荷重を受けたときに、ほんのわずかにジオメトリーが変化する。
その結果として、車の向きを変えやすくする。
だから私が感じていた、
「タックインではないのに、リアがちょっと出る」
という感覚とも話が繋がってきます。
FF車でありながら、前だけで曲げるのではなく、前後のタイヤを使って車の向きを変えていた。
これがC-MAXの気持ちよさだったのではないかと思います。
そしてステアリングも自然だった
もうひとつ、私が最初から違和感なく感じていたのがステアリングです。
C-MAXのステアリングは電動油圧式。
いわゆるEHPSです。
最初に乗ったとき、
「これ、油圧じゃないの?」
と思ったくらい違和感がありませんでした。
これにも理由がありました。
当時のFordは電動ステアリングの採用を進めていましたが、Focusで評価されていたステアリングフィールを維持することを重視していました。
結果として、C-MAXでは電動油圧式を採用。
単純に「燃費や省エネのために電動化すればいい」という話ではなく、
ドライバーが感じるステアリングフィールまで含めて、Focusらしさを残す。
そこまで考えていたわけです。
「硬いから曲がる」車ではなかった
ここは、今になって改めて面白いと思うところです。
私はC-MAXのサスペンションを、特別硬いと感じたことがありませんでした。
父親が乗っていたアテンザ・ディーゼルの方が、やりすぎと思えるほど硬かった。
C-MAXは、むしろ適度に動く。
車体も、完全にガチガチに固められているという感覚ではない。
それなのに、タイヤが路面を離れない。
ステアリングを切れば鼻先が入る。
さらに荷重を掛けるとリアが少し動く。
これは単純な「硬い・柔らかい」では説明できません。
サスペンションの動きと、ジオメトリー、ブッシュ、車体、タイヤ、ステアリング。
それらをまとめて一台の車として成立させていた。
だからこそ、普通に街中を走っているだけでは分からないのに、少し攻めると急に車の素性が見えてくる。
C-MAXは、そういう車だったのだと思います。
そして藤井オートで、さらに変わった
ただし、私のC-MAXにはもうひとつ大きな出来事がありました。
藤井オートでアライメント調整をしてもらったことです。
藤井親父は、一般的な「数値を規定値に合わせて終わり」というアライメントとは少し違った考え方を持っていました。
車を調整する。
走らせる。
また測定する。
必要なら、もう一度調整する。
藤井親父自身のブログにも、
1回目の調整後は最低1000km走る。ガンガン走る。
そして、その後に2回目、3回目と再調整していくという考え方が書かれています。
場合によっては4回、5回、6回と調整することもある。
私自身もC-MAXで、その変化を体験しました。
そして、ここから私はC-MAXを本格的に攻めるようになりました。
藤井親父から、
「ガンガン乱暴に乗ってね」
と言われたから。
普通なら「大切に乗ってください」と言われそうなところですが、藤井親父は逆でした。
車を走らせて、荷重を掛けて、車を使ってやる。
そして、もう一度整える。
それが藤井親父の考え方だったのでしょう。
2016年の自分が、すでに答えを書いていた
今回、C-MAXについて改めて調べようと思ったきっかけのひとつが、昔の自分のブログでした。
「フォードの魔法」という言葉を、どこかで使った記憶があった。
探してみたら、ありました。
2016年。
私はC-MAXについて、
「フォードの魔法」
と書いていました。
さらに、
「ハイト系5ドアハッチバックとは次元が違うハンドリング」
とも書いていた。
そして、
「減速しなくても曲がれちゃうカモと思わせる前後輪の接地感」
とも。
13年前の自分、ちゃんと感じ取っていたじゃん🤣
当時は、それを技術的に説明することなんてできませんでした。
ただ乗って、
「なんか凄い」
と思った。
それを「フォードの魔法」と表現した。
でも、今回調べてみて思ったんです。
あの「魔法」は、偶然ではなかったのではないか。
魔法の正体は、Fordの「意図」だった
ここは、今回調査して一番興味深かったところです。
「魔法」と「技術者の意図」は、対立するものではありません。
むしろ、
私には魔法に見えたものが、Fordの技術者にとっては意図して作り込んだものだった。
そう考えると、いろいろなことが繋がります。
背が高くなった。
車重も増えた。
居住性も必要になった。
それでもFocusの名前を冠する。
ならば、走りを諦めるわけにはいかない。
だから、ホイールベースを延ばす。
トレッドを広げる。
リアサスペンションを作り込む。
ステアリングフィールを守る。
そして、MPVでありながら運転する楽しさを成立させる。
そうやって出来上がったものを、私たちドライバーが乗ったとき、
「なんでこんなに曲がるんだ?」
となる。
それを私は、13年前に「フォードの魔法」と呼んだ。
今になってみれば、その魔法の中身は、ちゃんと技術だったのです。
では、なぜ日本では知られていなかったのか
ここまで調べて、もうひとつ気になったことがあります。
これだけ走りにこだわった車なのに、
日本ではC-MAXの走りについて語られた記事が、あまりにも少ない。
なぜなのか。
おそらく、C-MAXが悪かったわけではありません。
日本と欧州では、MPVに求めるものが違っていたのだと思います。
欧州では、
「家族のためにMPVが必要。でも、自分で運転する楽しさも欲しい。」
という需要が成立する。
ところが日本では、当時のMPVやミニバンに求められるものは、
* 多人数乗車
* 3列シート
* スライドドア
* 荷物の積みやすさ
* 室内の広さ
* 使い勝手
といった、分かりやすい実用性が中心でした。
その中で、
「5人乗りだけど、走りが凄いMPV」
というC-MAXの価値は、少し分かりにくかった。
しかも見た目が地味です😩
誰も食いつかない。
「これ、実は凄いんですよ」と言っても、
「へぇ……」
で終わってしまう
でも、そこがC-MAXらしいところでもありました。
「便利にしました」だけではなかった
日本の車にも、もちろん素晴らしいMPVはたくさんあります。
だから、
「国産車は便利さだけで、C-MAXは違う」
と単純に言うつもりはありません。
ただ、C-MAXが目指したのは、
便利さを得るために走りを犠牲にするのではなく、MPVとして必要なものを成立させたうえで、Focusらしい走りまで残すこと。
ここです。
C-MAXは、
「便利なFocus」
ではなかった。
むしろ、
「Focusの走りを捨てずに、MPVとして成立させた車」
だった。
背が高いというハンデを抱えながら、それでもFocusの名前を冠するに値する走りを成立させる。
Fordは、そこを本気でやっていたのだと思います。
13年後の答え合わせ
2013年11月。
私は、見た目も地味で、誰も食いつかないC-MAXに乗り始めました。
最初は、
「悪くはないけど、こんなもん?」
と思っていた。
それが3か月後、少し攻めてみたら、
「アレ? これ、もしかして凄いかも」
となった。
その後、藤井オートでアライメントを整えてもらい、さらに走らせるようになった。
そして2016年には、自分でこの車を、
「フォードの魔法」
と呼んでいた。
そこから約11年半。
約1年半前まで、この車に乗っていました。
あれから13年。
今になって海外の資料を掘り返してみると、その「魔法」にはちゃんと理由があった。
Control Bladeリアサスペンション。
パッシブなリアステア特性。
Focusの走りを維持するためのシャシーチューニング。
そしてステアリングフィールまで含めた作り込み。
全部が一本の線で繋がってきました。
もちろん、私のC-MAXが本来の性能をどこまで発揮できていたのかは分かりません。
藤井親父のアライメント調整がどこまで車の素性を引き出したのかも、今となっては正確には分からない。
でも、
Fordが仕込んだものを、藤井親父が目覚めさせてくれた。
そんなふうに考えると、私には一番しっくりきます。
13年前の私は、C-MAXのことを「フォードの魔法」と呼んだ。
今の私は、その魔法の正体が少しだけ分かった気がする。
魔法に見えたのは、それだけFordが本気で車を作っていたからなのかもしれません。
そして、あの地味なC-MAXを選んだ自分。
約11年半乗り続けた今になっても、まだ「なんであの車はあんなに曲がったんだ?」と調べたくなる。
どうやら私はとんでもない掘り出し物を見つけていたようです。
完