６２３＠独游のブログ一覧

＜敗北宣言＞

「わしもまだここ4、5回目やけ、一番車が集まる時間帯には、よう走りきらんのよ」
そんな弟の言葉が追い討ちをかけた。
「でも初めてであれだけ走るんやったら、次はコースも覚えとるやろうけ、かなりいけるんと違う？」
そんな言葉を放つ弟に、
「コース覚えたいけ、横乗せてくれん？」
と尋ねた。
「ええよ」
と、いともあっさり応える。
ハチロクの横に乗り込むと、これまでと同じように、下りながらタイヤのグリップを確認している。

「コース覚えれよ」
そう言うと、ハチロクは折り返し地点を後にし、上り始めた。
けたたましい排気音とエンジンの雄叫びではあるが、ワークスよりやはり加速感に乏しい。

「この車に離されるのか?」
そう感じ始めた頃、後ろを走っていてハチロクとの差が明確になり始める、連続したコーナー区間が近づく。
「ここからはなるべく道幅いっぱいに使って、コーナーの繋ぎは直線的に走ったほうが速いんよ」
そういうと、弟は躊躇うことなくアウト側ガードレールいっぱいまで車を寄せ、自分が体感したことのない強烈なブレーキを当てた。

「ヤバイ」
思わず身を竦めたが、弟の操るハチロクは不思議なほど素直にそのノーズをコーナ出口へ向けた。
続く左右の連続切り替えしコーナーでは、自分の座る助手席側ドアがガードレールに食い込まんばかりの勢いで寄せ、その言葉どおり道幅をいっぱいに使いながら、明らかに高いスピードレンジを保って駆け上っていく。

そのまま一気に頂上の折り返し地点まで駆け上り、休む間なく下りへと向かったが・・・
これはもう完全にビビッてしまった。
「駄目だ。真似できない」
コースを流すこと３往復、「全然違う」という、驚きを隠せなかった。
道幅一杯を使ったラインどり、その存在を忘れたかのような勢いでガードレールに寄せていく車両感覚、その結果もたらされる異常なまでのコーナリングスピード。すべてが初体験であった。

負けた。
一緒にコースを走って生じた、目に見える差以上の、それはまさに「走りそのものの差」を痛感した。
弟との間で初めて実感した「敗北」。
でも悔しさは不思議なほどなく、何故か満たされた気分でその峠を後にした。

＜続＞