遅れてきたシトロエン・ファンの私は、シトロエンの記事が載った雑誌のバックナンバーをちょこちょこと買っては読んでおります。
先日、現行C5が日本に導入された時の記事が載っているCAR MAGAZINE2008年11月号は、C5のみならずシトロエンの特集号なのですが、それを読み返していたらエグザンティアの記事が掲載されていました。今までこの記事は読まずに飛ばしていたのですが、先日慢性シトロ炎さんのSXに乗って以来エグザンティアに対する興味が高まっていることもあり、読んでみようと執筆者の名前を見ると、なんと沢村慎太朗氏です。沢村慎太朗氏の著作はにわかにマイブームでもあり、じっくり読みました。
その記事はエグザンティアにとどまらず、シトロエン一般を知る上でも示唆に富む記事でしたが、その中で一つ、目から鱗が落ちるような記述がありました。
それはエグザンティアのシートに関することで、シトロエンのシートは厚みのあるウレタンのシートクッションをストロークさせて沈ませることで柔らかい乗り心地と優れた身体のサポートを実現してきたのが伝統であったが、プジョーとの共用でその伝統がうすれつつある、という記述の後に、”座面裏に電動メカニズムを仕込むV-SXのそれは、手動式のSXに比べて明確に厚みが削られており・・・・”という部分。
これを読んでC5やC6のシートのことでなんとなくもやもやしていた疑問が一気に氷解しました。
先日札幌でcitroさんのC5を私のC5を乗り比べた際、citroさんのエクスクルーシブの電動フルレザー・シートと、私のセダクションベースの布革コンビの手動調整シートで、前者は座り心地も固めで沈み込み少なくしかもヒップポイントがやや高く感じられたのに対し、後者は座り心地が柔らかめで沈み込みも大きくヒップポイントが低めに感じられました。これはcitroさんと私の共通の感想でした。
<エクスクルーシブの電動フルレザーシート>
<セダクション・スタイル・リミテッドの手動革布コンビシート、通常のセダクションは同じ形状でフルファブリック>
上記の写真を見比べても、特に座面部分の土手の深さの違いや、座面の後傾の強さの違いが分かります。
実はこれ、C6でも同じようなことを確認しています。日本仕様のC6は総て電動フルレザー・シートなのですが、とあるイヴェントで座らせていただいた欧州仕様C6 2.2HDiの手動ファブリックシートは、日本仕様のそれより柔らかく沈みこむ座り心地が強く印象に残っていたのです。
私は今までそれらは”パンっと張った厚みのある本革”と”伸縮性のあるファブリック”という表皮の伸縮性からくる違いだと思いつつも、それならなんで柔らかい革を使わないのかなんとなくひっかかっていました。
しかし沢村氏の上記の記述を見て、一気に納得。革と布の伸縮性の違いだけでなく、電動(含むシートヒーター)のメカニズムをシート内部に仕込むと座面や背面が大きく沈むようなクッションの厚みを確保することが困難になるという物理的な理由があるのだと、そう考えれば実に納得が行きます。
しかし、それで更に疑問となったのは、安いファブリックシートを上級グレードと同じ沈み込まないクッションで作って、電動メカニズムが無い部分は空洞(または何か詰め物)をしておけばコストがより安くなるのに何故そうしないのだろうか?ということ。C5のシートは、電動の有無、シート表皮の違いだけでなく、土手の深さも含めてわざわざ全然違うシートを作っているのです。
ここから先は完全な想像ですが、シトロエンは本当は廉価グレードの手動ファブリックシートの座り心地やシート・ポジションを理想としているのではないか?しかし、現代の上級マーケットでは、電動シートは重要な商品要件でそれを無視することは出来ない。作ろうと思えば柔らかいレザーで手動レザーシートも作れるでしょうけれど、商品性を考えると電動は必須であると。その為にシート座面をやや高く相対的に左右の土手は浅くして電動メカニズムを仕込む必要があったということ。しかし作り手の理想としては電動メカニズムさえ不要であれば、より沈み込みの大きくソフトなシートが理想であることは捨てきれずにわざわざコストをかけて二つの全く違うシートを仕立てたのではないか?
なんだか自分のクルマの正当性をこじつけているようでもありますが、こう考えればもやもやが解消されるのです。
しかし、見方を変えれば、そんなコストがかかることをやっているから会社が儲からなくなってしまうとも言えそうです。
沢村慎太朗氏の記述は、他の自動車ジャーナリストがほとんど書いてくれないシトロエンの特徴を、実にきちんとわかりやすく説明しているものがいくつもあり、大変勉強になります。このシートのこと以外にも、他の書き手のシトロエン評を読んでも理解できなかったことで、なるほどそういうことか、と分かることが沢山あります。それらについてもまた改めてご紹介したいと思います。
Posted at 2015/07/12 04:29:05 | |
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