神楽は伝統芸能として全国に存在しています。
島根でも石見神楽、出雲神楽、隠岐神楽と、古くから伝わっているものがあります。

最近はちょっと様子が違ってますけど、島根ではちょっと前まではどのお宅でもたいてい恐ろしい鬼の面が飾ってあるのが普通でした。あれ、怖いんですよね笑(私の実家にもあります)
子どもの頃には祖父に連れられてよく見に行かされた記憶があり、当時はあまり興味がなくて大人が楽しむものという感じでした。

確かに太鼓がドンドンうるさいし、子どもが見ても本当の意味で神楽を理解できないんじゃないかと思います。
勧善懲悪、正義の味方が悪者を倒すお話でしょ? ウザー、みたいな。
ちゃんと見れば、そうじゃないことがわかってくるんですけどね。

今日ご紹介する神楽は北広島地域の芸北神楽です。
どうもこの芸北神楽は、島根の石見神楽が北広島へ伝わって盛んになったと言われています。
なのですが、いつの間にかこちらの芸北神楽の方が人気が集まるようになり、有名になっていきました。
私が子どもの頃から見てきた神楽はこの芸北神楽なんだと、大人になってからわかりました。
神楽が上演される場所は、広島県安芸高田市美土里町の「神楽門前湯治村」というところ。
ここは昔ながらの湯治村が再現された建物が軒を連ねています。



天然温泉や宿泊施設もあり、ゆっくり過ごせるちょっとしたテーマパークとなっています。



今回観に来たのは、写真仲間に誘われていっしょに来たわけですが、いやはや大変でした。
神楽ドーム特別公演というまさにスペシャリーなイベントでして、開演は11時だというのに寒い早朝から場所取りに並ばなければいけなかったんですよ。



私たちも県外から来ていますが、他にも九州とか岡山とか、遠くは神奈川から来ている人たちがいて、長蛇の列ができていました。オーマイガッ、すごい人気なのね (*_*;)!
下の通り、開演時には小さなドームが観客でぎっしり。


この特別公演で舞を披露するのは、去年行われた「ひろしま神楽グランプリ」で旧舞の部と新舞の部でそれぞれ優勝した二つの神楽団です。

演目は旧舞が「大江山」「鍾馗(しょうき)」。
新舞が「悪狐」「紅葉狩」。
どれも人気の演目です。
「鍾馗」以外の演目はどれも当時の朝廷の命を受けて、武勇の誉れ高い武士「源頼光」や「平維茂」らが世を乱す大悪人を退治に行くというお話です。


あるときは美女に姿を変え、またあるときは老女に化け、鬼たちは自分たちを滅ぼしにくるだろう武士たちを待ち受け、策略を尽くして絶体絶命の危機に追い詰めようとします。
しかし正体を見破られると形勢が押し戻され、そこから悪と正の最後の死闘が始まります


悪者を退治に行くというのだから、成敗するほうの武士たちはさぞイケてるヒーローなんだろうと思われがちですが、実は一番盛り上げてる主役、花形は悪人の鬼たちなんですね。
悪役に花がある。神楽を見るうえで、ここが大事なポイントです。

武士たちを油断させるため、はじめは美しい女性として現れる鬼。
そして酒と色香で武士たち惑わせることに成功した鬼たちは、ゆっくりと美女から鬼へ正体を現し始めます。
動きが、人間から獣のそれへと変化していくクライマックス。
これが見所です。
舞台で舞いながら、同じ演者が美女から反獣へと一瞬にして変わるシーン。


本当に瞬時に面をつけるので、見逃さないようにしないといけません。
虫も殺さぬ顔をした姫やはたまた年老いた女性を演じながら、およそ人とはかけ離れたような怪しく迫力ある鬼を表現しなくてはいけないので、鬼を演ずる演者にはかなりの演技力と表現力と運動能力を兼ね備えたポテンシャルが要求されます。
完全無償でこういうことをやっている神楽団の皆様には、本当に頭が下がる思いです。
そして、最後にはしっかり正体を現して、最も盛り上がる仁義なき攻防戦へ。



結局は悪者の鬼は退治されてしまうけれども、なぜだか物悲しい気持ちが残ります。
悪者扱いされている鬼。本当に悪者かといえばそうではなく、状況は違えど彼らにも堅い正義と信念があって、それを守るために立ち向かっているのです。
正義と正義がぶつかるから、争いになるのです。

勝てば官軍の論理ではないけど、朝廷に敵対する豪族たちは全て逆賊とみなされ、やるかやられるか、敗北者は自動的に大罪人として名を刻まれてしまう残酷な歴史があります。日本書紀なんて、ひどいものです。


もともとは自然や神に感謝するために行われていた祭事、神楽。
神話や伝説を元にしたストーリーを歌や舞によって神に捧げてきたものですが、歴史の真実を受け止めつつ、かつそれを忘れないために、滅んでいった者たちへのオマージュとして祭事の中に組み込んできたのかなと勝手に思ったりします。
それにしても、石見神楽もそうですが、芸北神楽の舞はテンポが早すぎて(しかも遠いの!)、カメラにおさめるのに一苦労 (=o=;)
だいたい私は望遠レンズ一つも持っていないのです。(それでよく撮る気になったね)



小さくて動きの素早い被写体を狙って、カメラを構えながら片目をずっと閉じているのはつらいし (x_x)
何とかアップに耐えられる写真を選んで、思いっきりクロップしています💦
ひどい写真ばかりで面目ございません。
とても寒い1日でした。
こんな出来の悪い写真ブログを最後まで読んでくださった方に感謝。ありがとう!

撮影機材
Nikon D610
Ai MICRO-NIKKOR 55mm f2.8s
AF-S NIKKOR 35mm f/1.8G ED