
PC探しは「リベンジ編その2」で完了のつもりでしたが・・・もう1台試したくなり追加です。
「趣味とは手段が目的となること」とは、かの長岡鉄男氏(オーディオが熱かった時代のAV評論家)の言葉。ちっちゃいPC集めも趣味ですね。
そういえばHP200LXとかThinkPad220、librettoは30にU100も持ってたなぁ。200LXは手放したことを今でも後悔していたり。あれは良いものです。
前回との違いは機種だけですので、比較し易いよう同じ構成で書きます。
我が車にネットワークオーディオを導入して1年が過ぎました。ラズパイのサーバーとAPUのレンダラー、USB-DACのシステムで安定稼働しています。
今回は遅ればせながら、高音質と評判のPC版lightMPD(lightMPD x86_64版)を試してみました。
lightMPDについては2019年6月のブログ「
ネットワークオーディオ自作(2)」をご覧ください。
【共通】音質のために高速CPUを使う意味
ネットワークオーディオも専用ハードやラズベリーパイのような低消費電力の機器で実現できるようになり、PCでなければ出来ないことは減ってきました。個人的にはいわゆる「PCオーディオ」はもはや主流ではないと思っていました。
ノイズ発生源のようなPCを今さらなぜオーディオに持ち込むのか。使い勝手だけでなく、実は音質面でも理由があります。ここは説明しておく必要があるでしょう。
lightMPDは当初ARM版からスタートしており、現在もラズパイなどシングルボードコンピュータ(SBC)で動作可能です。
音源ファイルのフォーマットをそのままビットパーフェクトにDACへ送出する場合、SBCの比較的控えめなCPUパワーでも十分です。
PC並みの演算能力が必要となるのは、サンプリングレート変換やDSD to PCM変換を行う場合で、FIRフィルターのパラメータ設定によってはSBCでは能力不足となり処理落ち=音切れが発生します。
公式サイトで作者さんがDSDを題材に解説していらっしゃいますが、SBCとしては比較的パワフルなAPUでも間に合わないようなフィルター処理を行うためにx86_64版を開発したとのこと。
DACの中で実行していた処理をソフトウェアで肩代わりする、しかも小さなシリコンでは不可能な複雑な処理に置き換えるというのは、大げさなCPUをオーディオに使う理由として納得できるものです。興味のある方はぜひ読んでみてください。
ビットパーフェクトがベストとは限らない、かもしれませんよ。
まさか4回も言うことになるとは。
【共通】システムプラン
以下はこれまでAPU2で構成していたシステムでの信号の流れです。
ハイレゾ音源はUSB-DAC/DDCのAT-HRD500まではネイティブ伝送とし、同軸デジタルはHRD500の内蔵サンプリングレートコンバーター(SRC)で48kHzに変換、アナログはハイレゾのままプロセッサーに入力していました。
今回はこうなります。同じ機能でそのまま置き換えることもできますが、面白くないので考え方をちょっと変えて導入します。
lightMPDでサンプリングレート変換およびDSD/PCM変換を行います。全て44.1kHzまたは48kHzのPCMとしてUSB出力するよう設定します。
退化してないかって?さぁどうでしょw
最終段のプロセッサーで44.1/48kHz処理になる自分のシステムでは、ハイレゾを持ち込むためCDフォーマットの処理に余計なプロセスが入っていました。44.1kHz専用にしてしまえばすっきりするのですが、今どきハイレゾ音源を聴けないのもちと辛い。システム内にサンプリングレート変換があるなら、そこにはフィルタリング処理があるはずで、ソフトウェア化による音質向上の余地があるのでは?と考えました。
設定ファイルの記述だけで上限を96kHzや192kHzにすることもでき、HELIXやBRAXなどハイレゾ対応プロセッサーに更新しても対応可能です。いや買い替えませんけど。
購入
今回はエモーショナルな動機による購入なので、選定理由はスキップします。
てゆうか理由はこの絵が全てです。
LIVA Q2-4/32-W10(N4100) IOT(ECS、写真左)
本体サイズは縦横わずか7cm。右のAPUやCDケースと比べるとサイズ感がわかると思います。
これは普通に欲しくなります、よね?
台湾ECSによる超小型PCです。Amazonで3万円台前半で購入しました。

さすがにこの大きさで自然空冷は無理だったらしく、内部にファンを搭載しています。ホームオーディオで使うなら前回までのようなファンレス機の方が良いでしょう。
後面のインターフェースは左からHDMI、LAN、DC12V。電源は外径3.0mm/内径1.1mmのセンタープラスというちょっと珍しいサイズ。LANは1系統なので、lightMPDの「最終形態」ともいえるイーサネット分離システムには使えません。

前面には電源スイッチとUSB3.0x1、USB2.0x1。側面にあるmicroSDスロットが唯一の増設手段で、RAMや内蔵SSDの変更はできません。
HWiNFOでCPU情報を取得してみました。
CPUはCeleron N4100。セレロンブランドを名乗っているものの、開発コード「Gemini Lake」はAtomアーキテクチャ(第6世代)に属します。
4コア4スレッド、ベースクロック1.1GHz、ブースト時2.4GHz。メモリーは4GBシングルチャネルでWindows10で使うには最低限です。
CPUやストレージ、OSの違う複数のモデルがあります。デュアルコアのN4000はlightMPDには適さないので注意。N4100搭載の本機には「Windows10 IoT Enterprise LTSC」という組み込み用OSがインストールされていました。
初期セットアップ時のアカウントやパスワードの要求レベルなど、一般用のWindows10と多少の違いはありますが、普通にPCとして使うことができます。ただ安定性を重視した設定となっていて、大型アップデートのような機能追加系の更新は適用されません。
「Windows Updateのたびにアプリの動作に問題が発生して困る」なんて方は、デスクトップOSとしてこういうのを選択するとよいかもしれません。

N4100の性能はAPU2のGX-412TCより高く、でも最新のデスクトップPC向けCPUと比べるようなものでもありません。
GX-412TCがデータベースになかったので、GX-412HCで代用しています。
ちょっと前のネットブックやスティックPCの進化形といったところでしょうか。YouTubeの動画再生程度なら普通にこなせますが、初回のWindows UpdateはMINIXと同程度に重かったです。

圧倒的な低消費電力。個人的にはTDPが100Wを超えるようなモンスターCPUより、こういう静かに頑張るのが好みなんです。
APU2の「次」として、まずまず適当なスペックかと思います。
なおTDPが6Wクラスで4コアのCPUとしては、同じAtomアーキテクチャで上位のPentium Silver N5000があり、このあたりも狙い目となります。
CeleronのJナンバーやPentium Gold、Coreブランドなら演算性能はもっと上がりますが、TDPも一段高くなり今回の条件(後述)である「PC全体で10W以下」が難しくなるため候補から外しています。

こちらはシステム情報。SSDはeMMCの32GBとこれまた最低限(64GBモデルもあります)。イーサネットのコントローラはRealtek製で、lightMPDの動作条件はクリアしていそうです。
さすがに4GB/32GBではWindowsPCとして使うには厳しいですが、今回の用途には十分です。
【共通】インストール
lightMPDのバージョンは 1.2.0b2 を使いました。
ブートローダーのイメージは
公式サイト掲示板のスレッド
「LIVA Z,LattePanda用のlightMPDを公開しました」、
パッケージはスレッド
「x86_64版(旧LIVA Z,LattePanda版)のlightMPDをバージョンアップしました」
にあるのでそれぞれダウンロードします。
ブートローダーのイメージをUSBメモリーに書き込み、パッケージのzipを上書き展開。設定ファイルをテキストエディタで修正して完了です。
手順はAPU2とほとんど変わりませんので、その時の
ブログもご覧ください。
BIOSの「Secure Boot」オプションは本機では無効になっていたので、このままで大丈夫です。USBメモリーから起動できるよう、優先順位を変更しておくことを忘れずに。
【共通】設定
/lightMPD/conf/upnpmode(UPnPのレンダラーとして使用するモード)のファイルを/lightMPDにコピー。
テキストエディタ(
TeraPadなど、文字コードUTF-8・改行コードLFに設定できるもの)で修正します。
/lightMPD/lightmpd.confの設定
ネットワーク関連の設定を自分の環境に合わせて修正します。
[network]
interface=eth0
address=192.168.1.93
gateway=192.168.1.1
netmask=255.255.255.0
nameserver=192.168.1.1
[ntp]
server=ntp.jst.mfeed.ad.jp
ntpd=no
timezone=Asia/Tokyo
/lightMPD/mpd.confの設定
オーディオ処理関連の設定をこちらで行います。
レート変換やDSD/PCM変換をせずビットパーフェクトで再生したい場合は以下の設定は不要です。DSDをDoP形式で出力する方法は
APUの時の設定をご覧ください。
拡張オーディオフォーマットの設定
非DSD音源のサンプリングレート変換規則を指定します。
Xに続く数字がアップコンバートの倍率、Lに続く数字がサンプリングレートの上限(44.1/48kHzに対する倍率)です。
倍率を1倍(アップコンバートしない)に、最高レートを44.1/48kHzに制限することにより、44.1/48kHzは無変換、88.2kHz以上は全てダウンコンバートさせます。
96kHzまで対応可能なシステムであれば"X1L2"(アップコンバートなし)または"X2L2"(アップコンバートあり)、192kHzまでであれば"X1L4"または"X4L4"のように設定します。
# extended audio format
audio_output_format "X1L1:24:2"
DSD to PCM変換を指定。
decoder {
plugin "dsf"
output "pcm"
}
decoder {
plugin "dsdiff"
output "pcm"
}
DSD to PCM変換のパラメータ設定
この設定では、2.8MHz、5.6MHz、11.2MHzのDSD音源に対してdsd2pcmで176.4kHzのPCMに変換、その後SoXリサンプラーで44.1kHzに変換させています。
0.27って何?サンプリングレートの変換比率からは想像できない数値が出てきました。これがフィルターのパラメータです。
ここをチューニングするには
フィルター特性や、
libsoxrに関する理解が必要です。適切か、また最適かどうかはまだわかりません。
dsd2pcm {
###### output : 44100 ######
# dsd2pcm + resampler
# dsd2pcm: 2822400 -> 176400(1/16) -> resampler -> 44100
dsd64 "44100:32:16:SOXR_COEF( 24, 0.27, 0.4, 50, 0, yes)"
# dsd2pcm: 5644800 -> 176400(1/32) -> resampler -> 44100
dsd128 "44100:32:32:SOXR_COEF( 24, 0.27, 0.5, 50, 0, yes)"
# dsd2pcm: 11289600 -> 176400(1/64) -> resampler -> 44100
dsd256 "44100:32:64:SOXR_COEF( 24, 0.27, 0.9, 50, 0, yes)"

システムの全景です。フル機能のUPnP/DLNA/OpenHome対応ネットワークオーディオとしては最小クラスの構成ではないかと。
ラズパイのMinimServerとPCをルーターに接続。PCにUSB-DAC(DACモードにしたDAPで代用)を接続。ルーターにWi-Fi接続したスマホから、UPnPコントロールアプリ(BubbleDS)で再生します。
設定したUSBメモリーをPCに挿入して電源ON。意外にあっさり動いてくれました。一晩連続再生させてみましたが安定しているようです。
消費電力測定
車載にあたって、APUで導入したオーディオ用リニア電源の
UltraCap LPS-1.2 (UpTone Audio)
を使用したいので、その定格(DC12V 1.1A)内の電力で動作できるか確認してみます。
3.0mm/1.1mmと5.5mm/2.1mmとの変換プラグを用意し、電源ラインにワットチェッカーをはさんで計測します。
プリインストールされているWindows10では、起動時のピークで9W台
起動完了後は3W前後に落ち着きました。
ベンチマークアプリ(PCMark 10)を動作させると、ピークでは11W台になることもありました。
lightMPDでflac音源を再生させると6W前後、DSD/PCM変換再生させた時は11W程度となりました。
Windows動作時は大変優秀ですが、lightMPDのDSD再生時はG41V-4やSSDを外したGD41と同程度でHeroBoxには及ばず。本機の場合SSDはオンボードで取り外しできないので、これ以上の大幅な省電力化は難しそうです。
しかし他の機種よりflacとDSDの電力差が大きいのはなんでだろう?
小型であることによる設置の自由度をとるか、前回までのファンレス機の静粛性をとるか。クルマに持ち込んで確認してみたいと思います。
以上、少なくともホーム用途(ACアダプター使用)では問題なくlightMPDを動作させられることがわかりました。
で、リベンジの内容に続きます・・・
結果オーライ。
100V電源のPCと同じで、通常は12Vを供給しても電源スイッチを押すまで起動してくれません。
車載では使いづらいですし、手の届くところにPCを置けるとも限りません。最初のHeroBoxではここをクリアできなかったためリベンジ編となったわけです。
今回もBIOSのAdvancedメニューに設定がありま・・・した。

表記はMINIXと同じで、電源接続で即起動するモードに設定します。サイネージモード、あるいはキオスクモードとも呼ばれています。
ACアダプターを接続するとすぐに起動することを確認できました。
【共通】車載PCの条件とは
車載専用に設計されたPCでは、上に挙げたような自動起動(イグニッション時の瞬断対応を含む)、ACC OFFでのシャットダウンなどができるようになっています。またメーカー製品であれば車内の高温・低温に耐えることは当然です。
今回達成したのはこのうち自動起動のみで、シャットダウンについてはlightMPDの場合は電源ブチ切り可能なので不要です。
シャットダウンが必要なOSを使う場合は、車載PCの他、NUC用に以下のような電源ユニットが販売されています。ただし常時電源ラインを接続するのでバッテリー上がりや車両火災には十分な対策が必要です。
DCDC-NUC (Mini-Box.com)
暑い日が続いていますので、秋に向け家での仕込み作業を続けます。
次回はサーバーを改良するつもりです。
ネットワークオーディオ関係の記事をまとめてみました。よかったらこちらもご覧くださいませ。
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