
Roon ARCのレビュー2回目、実践編となります。Android版がちょっと気に入らず、今回はiOS版で続行します。
自宅のライブラリが何TBあろうと、何百km離れていようと、回線さえあれば全ての曲を音質劣化なく楽しめてしまうという、プライベートストリーミングの終着点と呼びたくなるアプリがRoon ARCです。
クルマで使う姿を想像してみれば、「持ち出すアルバムを選ぶ」作業が必要なくなるのが大きい。
自宅でライブラリに追加した瞬間から外で聴けるのも魅力的で、これは試したくなります。
しかししかし。
前回Android版のRoon ARCを使った実験では、スマホ単体(イヤホン端子やBluetooth)では問題なく再生できたものの、USBオーディオ機器を使って音を出してもビットパーフェクト再生にはなりませんでした。
AndroidでUSBオーディオ再生する場合、機種やアプリにもよりますが多くはOSの制限によりサンプリングレート48kHzとなり、ハイレゾ音源はダウンコンバート、CD音源は44.1kHzから48kHzへ変換されます。またOSのミキサーを経由することによる音質劣化も発生します。
ハイレゾが欲しいわけじゃなく(自分のカーオーディオではどうせダウンコンバートする)、24bit/48kHzが悪いわけでもありませんが、CD音源をデータ改変なく再生できないのは、高音質を謳うRoonとしてはだめだろ・・・とテンションダウン。
バージョンアップで改善されるのはいつか。実はこの問題はARCが出る前、Roonリモートでも指摘されており、もうしばらく時間がかかるとみてiOS版にスイッチしました。
余談ですが、UAPP(USB Audio Player PRO)やHF Player、Hiby Musicなどのアプリでは、OSを経由しない独自のUSBドライバーにより上記の制限を回避しています。
(参考:
Android端末でUSBオーディオする方法まとめ)
(2022/12/1追記)
ARCは速いペースでバージョンアップを続けており、リリースノートによると最新の1.0.5ではついにAndroid版でもUSBへのビットパーフェクト再生がサポートされました。
予想より早かったですね。Roon Labs.エライ!
まずはiOS版ARCのポテンシャルの確認から。
一般的なRoon ARCの使い方としては、スマホにイヤホンをつないだり、BluetoothやCarPlay(2023/2 Android Autoにも対応)で楽しむといったところでしょうが、当ブログとしてはもう少し高音質を狙います。
ARCはこれまでのRoonリモートを公衆ネットワーク経由で使えるようにしたものと考えればよく、Roonサーバー(コア)のようにネットワーク内の他のRoonデバイスに音を送る機能は現在ありません。
したがって、スマホにUSBオーディオ機器を接続するのが最も高音質な再生方法でしょう。
iPhoneでUSBオーディオする場合は、これを使用します。
(ポタアンなどでスマホと直結できる機種の場合は不要です。)
Lightning - USB 3カメラアダプタ (Apple)
名前に「カメラ」とありますが実体はセルフパワーの1ポートUSBハブです。USB(A端子)側にUSB機器、Lightning側に電源を接続します。iPhoneへの充電とUSBへのバスパワー供給をしながら使え車載にも便利です。
なおAndroidの場合は「Type-C」で「PD対応」なハブを使います。
(こちらもType-Cで直結可能なポタアンなら不要です。)
U2HC-T431PBK USBハブ Type-C USB-A 2.0×3ポート USB PD 60W対応 Type-C×1ポート ケーブル30cm マグネット付 ブラック (ELECOM)
ただし実際に充電しながら使えるかはスマホ次第で、仕様として公開されていない場合も多く自己責任で試すしかありません。Xperia 10 IIIでは大丈夫でした。
USB-DAC代わりのDAPを接続して確かめました。左はUSB充電器。
ここでトラブル発生。正しくUSB接続すると画像のようにDAPがDACモードになるはずが、最初は認識されませんでした。数十秒おきに一瞬だけ表示されるエラーメッセージを頑張ってスクショしたのがこれ。

電源の容量や接続順序にシビアなようです。認識したので次へ。
前回ご紹介したように、Wi-Fi接続時とセルラー(回線)接続時それぞれ音質モードを選べます。
ARCの現在のバージョンでは音質を4段階に設定できます。これはAndroidもiOSも同じ。
各モードについては、
公式のFAQに説明があります。
「Original Format」:オリジナルフォーマット
受信側が対応する限り、音源のフォーマットそのままで配信。未対応のフォーマットはダウンコンバート。
「CD Quality」:CD品質
最高
16bit/48kHzまたは
16bit/44.1kHz FLAC。AACなどの場合はそのまま配信。
「Balanced」:バランス
256kbps Opus
「Bandwidth Optimized」:帯域優先
96kbps Opus
OpusはYouTubeなどで使われているロッシー(非可逆)圧縮です。
Android版にはなかったDSDの出力設定があり、対応DACならネイティブ再生が可能です。DoPはデータ中に特定の識別コード(マーカー)を入れる必要があるので、これができることは意図するデータを出力できる、つまりPCM音源もビットパーフェクト再生できることの目安になります。
dCSなんて超ハイエンドメーカー用の設定が出てくるあたりRoonらしいというか。
「Original Format」設定で24bit/96kHzのハイレゾ音源を再生。Roonでお馴染みのシグナルパス表示です。

ロスレス伝送できています。UAPPなどと同様、OSのオーディオエンジンの制約を回避できているようです。よしよし。
自分の使っているプロセッサーアンプはハイレゾ対応ではないので、「CD Quality」設定で再生してみます。この設定だとサンプリング周波数は最高48kHzとなり、デジコアにはちょうど良い具合です。

シグナルパス表示によると、レート変換とFLACエンコードまでをサーバー側で行い、スマホはFLACのデコードから先を担当しているようです。変換は64ビット浮動小数点で高精度に演算し、スマホと回線の負荷は抑えるよう工夫されています。また192kHzは48kHz、DSDは44.1kHzといった具合に整数分の一に変換されました。
PCの強力な演算能力を使ってオーディオ処理を行い、ネットワークで配信する。モバイルオーディオの枠を超えた取り組みで興味深いですね。
なおRoonではDSPと称してパラメトリックEQなどもコアが実行しますが、今のところARCは未対応です。
(2023/6/14追記)
最新バージョンではARCでもDSP機能(新たにMUSEと名乗るようです)が使えるようになりました。
ARCではスマホ側で処理が行われるようですが、紹介ページにあるこの動画の通り、パラメトリックEQを始めサンプリングレート変換などARC以前のRoonでコアが担っていたのと同様の強力かつ詳細なコントロールが可能になっています。動画を見て「いやバランスとか…」と思うなかれ、変換アルゴリズム選択など実は紹介されていない部分の方が面白く体験おススメ。
残念というか当然というか「CD Quality」ではビット深度は16bitとなります。
CD音源は16bit/44.1kHzの無変換で出力してくれたので良いとして、本来自分の環境でもロスレス再生できるはずの24bit/48kHz(ハイレゾには割とある)はビット数が削られます。「Original Format」にすれば今度は96kHz以上の音源が聴けず、うーん。
(2022/11/3追記)
最新バージョンの「CD Quality」設定では、24bit/44.1kHzおよび24bit/48kHzの音源については24bitのままロスレス再生するようになりました。これは嬉しい。通信データは1.5倍になりますが、Roonでそんなことを気にするのも、ね。
88.2kHz以上およびDSDの場合は変わらず16bitに変換されています。
ハイレゾ対応のプロセッサーとDDCを組み合わせて「Original Format」を使う場合、DDCとプロセッサーの対応周波数が合っていないと再生できない音源が出来てしまいます。例えば96kHz対応のプロセッサーに192kHz対応のDDCだと192kHz以上の音源が聴けません。DDCを使わずUSBで直結できる機種ならよし、でなければAT-HRD500のようなSRC(サンプリングレートコンバーター)をかますか、DACでアナログ入力するか。このあたりがカーオーディオでの使いこなしのポイントになりそうです。
5つめの音質モード「カスタム」として最高周波数やビット深度を設定できるようにならないかな。
(2023/6/15追記)
上で追記したDSP機能「MUSE」で、デバイス毎に使用可能周波数を設定できるようになりました。

192kHzまで入力できるこれなら面倒がなさそうで、いいなぁ・・・
(2023/1追記)現在はHELIXにも(内部処理は96kHzとかでも)192kHzで入力可能な機種があります。
さて、
ここまでは良かったんだ…
テンション復活。こんな構成でクルマに持ち込んでみました。
Android派なもので、ついUSBと書いてしまいました・・・もちろんスマホ側はLightningです。
が、DDCのAudiophilleoを認識してくれず、スマホのスピーカーから音が出てきました。
今日はここで時間切れ。進展があったら、また更新したいと思います。
(2022/10/22追記)
解決しました。
USBオーディオ用のバスパワーを別供給としたところ、動作するようになりました。カメラアダプターの給電能力は、バスパワーの機器を駆動するには少し弱いのかもしれません。
USBやLAN用のオーディオアイテムを多数販売するJS PC Audioさんの外部給電USBケーブルを使いました。セルフパワーのUSBハブとかiDefenderでも良いと思います。

仮設置状態です。スマホやDAPでUSBオーディオするとこうなりがちなケーブルの取り回しは何とかしたいところ。

横にあるBluetoothリモコンも使えました。スマホの画面を見ることなく、視線を前方に向けたまま手探りで曲送りでき安全です。
5Gなんてつながらない田舎道を一日走り回ってみたところ、途切れたり停止することなく快調に再生を続けてくれました。アルバムアートの表示がワンテンポ遅れるくらいで音の方は曲間の待ち時間も気にならず、本当に自宅のコンテンツを再生しているのか?と疑うくらいスムーズで驚きました。「CD Quality」設定でCD音源はロスレス再生ですが、少なくともそのレベルの音は軽く出ています。
問題はこれ。

お試しで購入したeSIMのデータ量をたった一日で使い切り、気が付けばデータシェアした主契約の容量を侵食していました。このプランは最大20GBまでありますが、Roon ARCをCD品質で楽しむには不足かもしれません。
データ量については、これはもう計算通りにしかなりません。「CD Quality」で2時間も再生すれば1GBほど。「Original Format」ならファイルサイズそのままですから、どうなるか予測可能です。
ロッシー圧縮でデータ量を抑える設定も可能とはいえ、それならApple Music (iTunes Match) でもいいわけで。自宅の音源そのままの音質で取り出せるとあって使わずにはいられない。
こんなサービスが現実となった今、データ量無制限の時代が待ち遠しい・・・そういえばもうありましたね。
果たしてドコモさんはこんなデータ量でも速度制限なく使わせてくれるのか。また2.4GHzのWi-Fiを経由しても実用になるか。持っている方はぜひレポートお待ちしています。
(2022/11/13追記)
画像の車載ルーターDCT-WR100Dを導入、普通に再生できました。ハードウェアなのか回線なのか速度はそれほど速くありませんが、幸い「CD Quality」設定では問題なさそうです。
整備手帳上げました。
データ量を気にせずに済む環境になったので、しばらくARCをメインのオーディオソースとして使ってみようと思います。
さらにそういえば。つい最近
5.2GHz帯の車載Wi-Fiが日本でも制度化されました。
2.4GHz帯よりも高速な5GHz帯のWi-Fiはこれまで屋外利用(自動車も屋外扱いです)に制限があり、W52のチャンネルは
実質的に使用不可、W53は使用禁止、W56はレーダーとの干渉防止機能(DFS)のため接続が切れることがあり・・・と、どうにも使いにくかったのが解消されそうです。
おそらくその後、6GHz帯のWi-Fi 6Eも控えています。
パズルのピースが埋まってゆくようで、楽しみになってきました。
(2022/10/19追記)
Astell&KernのDAP、SP3000がRoon ARCに対応しました。DAPではAndroid搭載機でもOSをバイパスして高音質なオーディオ出力を可能にしており、こんな選択肢もできました。ただし後からインストールしたアプリの音声出力までその仕組みが有効なのか、またUSB出力が使えるかなど「対応」のレベルは不明です。

(2022/12/8追記)ShanlingのM7も対応。
(2022/12/12追記)ShanlingのM3 Ultra、M6 Ultraも対応。
(2023/1/2追記)HibyのRS8も対応(してました)。
(2022/10/23追記)
やる気になって主力音源級の扱いに昇格させました。

始動直後はUSBチャージャーの5Vで動作開始し、1分後にリニア電源が立ち上がったら切り離すよう構成しました。USBアイソレーターも投入。
(2022/10/29追記)
FLACによる高音質なストリーミングサービス、
Qobuzの日本進出が発表されました。e-onkyoと組んだので邦楽も期待できそうです。
RoonはTIDALやQobuzに対応しており、これらのアカウントを持っていれば自分のライブラリと統合的に使うことができます。どちらも日本ではサービスインしておらず利用は難しかったのですが、ついに来るか!という感じです。どうか海外と同じRoon対応となりますように。
(2022/12/17追記)
しばらく使ったので不具合の記録など。
・稀に曲送りに失敗し、30秒ぐるぐるの後「Poor connection」とエラーを出すことがあります。こうなるとそのまま操作を繰り返してもたいていダメで「Playback Internal Error」とか「Something went wrong」なんて情けないエラーに進行したりします。アプリを再起動すると何事もなかったかのように復旧するので回線とは別の問題のような気もします。
・冒頭で追記した通り、Android版でもUSBへのビットパーフェクト出力ができるようになりましたが、自分の機器では今のところ「Audio Device Error」となって再生できません。USB出力においてiOS版とAndroid版は完全に同じというわけではないようです。
(2023/3/31)iOS版ARCはAirPlayが使えるので、AirPlay対応機器を接続する方法でも高音質が得られそうです。ただし現在のAirPlayは(CarPlayも)ハイレゾに対応しておらず、この点ではUSBオーディオにメリットがあります。
この後のブログで試しています。
ラズパイとUSBオーディオで作る高音質(?)AirPlayレシーバー
(2023/6/5)作成したAirPlayレシーバーの性能を検証しました。
AirPlayの実力を確かめてみる(私がApple嫌いなわけ)
(2013/8/12)モバイル回線でロスレスストリーミングは実用に足るのか?長期間使ってみた感想をまとめました。
Roon ARCに思う
(2024/10/30追記)
Qobuzが待望のサービス開始。海外版と同様にRoonとの連携も実現しており、RoonやRoon ARCの画面のままサブスク音源も聴けるのは大変便利です。ようやくRoonの魅力が全開になった感じですね。
Qobuz、来!
CarPlayでUSBオーディオ