
今までの エンジンのパワーアップを考える。を通して、エンジンの効率改善には兎にも角にも燃焼スピードの改善が必要な事が分かったかと思います。その方法として「燃焼室内の乱流」があるけれど、根本的なチューニングは大工事になってしまうので燃調による燃焼スピードの改善が使いやすいという事。低負荷や高負荷など運転状況に応じた最適な点火タイミングで点火を行うには、TPSを採用した3D点火マップの必要性とノッキング限界までの進角が重要だという事が分かったかと思います。
ココで点火の要素が多く出てきたので、今回は点火の強化について書き出してみたいと思います。
点火の強化と聞くと経験的に、アイドリングが安定したとか少し変わったとか、エンジンの振動が減ったとか増えたとか、マフラーの音が弾けるようになったとか。体感する事も有りますが、具体的に点火とはどういう事なのでしょうか。下のグラフで見てみたいと思います。


出典
https://glanze.sakura.ne.jp/propagate.html
このグラフは0点を点火タイミングとして、縦軸は燃焼室全体までの火炎伝播を100%としてとり、横軸は時間となっています。
点火してからおおよそ10%までの燃え広がりが遅い部分、グラフ緑色の部分は「火炎角形成期間」と言って、燃え広がる前のプラグの端子周辺で火炎が育つ期間となっていて、宇宙創成で言う所のビッグバンみたいな感じかな?(ちょっと違うけど)。 この時期はプラグからの火花で混合気が着火されたり、混合気の乱流に火が流されて吹き消えたり、そんなミクロな世界での着火から火炎核が形成される期間となっていて、その後は火炎核から火炎伝播が始まり燃焼室全体へ燃え広がり、少し余談だけど最後の5%は燃焼室壁に近くて熱を奪われてしまうので着火に至らない部分もあるよ。という事になっています。
火炎核形成期間で確実かつ早期に火炎核を形成させるのに貢献して、その後の火炎伝播を安定的に得る事が出来るようになるのが「点火の強化」という事になっているようです。毎爆発同じタイミングで火炎伝播を発生させる事が出来ればノッキングの発生にバラツキが無くなって点火タイミングもギリギリまで進め易く成ったり、偶発的なノッキングも無く成ったり。火炎核が早期に形成されれば点火タイミングを早めたのと同じ効果も得られるかと思います。
プラグの形状が同じであれば、強いスパークが長く続く方が、弱く短いよりは良い訳なのですが、これは点火方式などなどにより変化してしまいます。
SRの点火方式には大きく分けて、Fi 世代の「トランジスタ点火」と、キャブ時代の「CDI点火」に分類する事が出来ます。CDI点火はその中でAC-CDI と DC-CDI とに更に分類が出来ます。
どれが良いのか?という話になるのですが、トランジスタ点火が一回のスパークの内に供給出来る電力が多く設定出来るので、トランジスタ点火が良いです。
AC-CDI点火の構造は、発電コイルの中に点火回路専用のコイルを持っていて、そこで1回転で3回フラマグによって発電が行われます。これがバッテリーが無くても点火できる理由でもあります。

その電力はおおよそ400v程度と高電圧で発電するので、エキサイターコイルは12v系の太くて粗い巻き方に比べて、極細い線を極力多く巻いた形状をしているのが特徴です。簡単にいうと12v系のコイルの33倍巻き数があるって事になると思います。
エキサイターコイルで発電した電力はCDI内のフイルムコンデンサーに蓄えられますが、発電した電力を大きなコンデンサーに蓄えると電圧が下がってしまう為、コンデンサーの容量はごく小さなものを採用して高圧で蓄えます。例えで説明するとエキサイターコイルの発電で得られる決まった量の電気を空気として、コンデンサーを風船に例えます。大きな風船に空気を蓄えると膨らみ切らずに取り出す時にダラダラと低圧で出てきますが、小さな風船に蓄えればブシュッっと一瞬で取り出す事が可能です。この勢いをスパークの発生に利用します。これはエキサイターコイルの大きさに合わせたコンデンサーが採用されると言い換える事が出来ます。エキサイターコイルは他のコイルに比べて大型になるのでスペース的にもより大きなものは採用しにくいのかも知れませんし、チューニングも難しいですね。94年以前のコイルはエキサイターが一つだったかな?うろ覚えですが容量がそれ以降と違うかもしれません。

スパークの発生にはコンデンサーの電力を点火コイルの一次側にショートさせる形で結線して、”ピチッ”とそれだけでも火花が出る様な感じで一瞬の内に電力を供給します。それを更に2次コイルで電圧を増幅させて点火プラグのスパークとなります。
なのでCDIの発生する火花は、バチンと一発強い火花が出る構造になっていて、それはガソリンを被ったプラグでもスパークさせる程に強力な火花となるそうです。それが原付を含めて2stのエンジンや始動が厄介なSRに採用されている理由になっているかと思いますが、弱点はスパークの持続時間が極めて短い事。コンデンサーの放電がエネルギー源になるのでエネルギーの総量が限られているのとその放電のさせ方から放電時間がとても短くなります。
CDI方式の点火装置を強化するのは、フラマグのマグネットの強化やエキサイターコイルの巻き数を増やす等の発電能力の向上と、そに合わせた大型のコンデンサーに変更するなどヤリヨウはありますが、実際は困難ですね。 なので一瞬しか無い強力な放電を生かすために、プラグギャップの拡大という手法を取るのが簡単で効果的だと思います。折角の一瞬の高電圧なのに他の点火方式とプラグギャップを同じにしていたら勿体無いと思いませんか? SRで使用されるようなプラグのギャップは出荷状態でニッケルプラグが0.9mm、DENSOのイリジウムプラグが1.1mmに設定されています。点火を強化した4輪のエンジンではこれを1.5mmまで拡大して使用する事が有るそうです。SR500のエンジンで実際にイリジウムプラグを使用して試してみましたが、1.4mm位まではエンジンが元気になる様な効果が体感出来ました。有り余る瞬間のエネルギーを ギャップを拡大して有効に点火エネルギーとして使う。そんな感じです。
1.5mmは逆にパワーダウンしてしまいました。CDIの能力を超えてしまう様です。
CDIに合わせるコイルはSRの純正品には、初期型~用の閉磁式と、1993~2000と2001~2006年までの開磁式の2方式があります。どちらの方が良いのか問題があるかと思いますが、閉磁式の方がトランジスタ式をオマージュする様な長い点火を意識した方式だと言えます。
■閉磁式

閉磁式は閉じた磁気回路があるので磁気的な効率が良いのですが、磁気回路が飽和してしまうとそれ以上の磁力が無効化してしまう弱点があり無駄が発生します。CDIの特性で放電が瞬時に行われるのでコイルには瞬時に大きな磁力が発生してしまい、磁気回路が飽和してボトルネックになってしまう恐れがあります。それを避けるために1次コイルの巻き数が多くなっているのが閉磁コイルの特徴で長めの放電の源にもなっていますが、発生する火花は弱くなってしまいます。CDIからの電力を巻き数の多い1次コイルでジワッと受けて、発生した磁気を閉磁回路で効率よく2次側コイルに送り、これまた巻き数の多い2次コイルで電圧を増幅してスパークします。磁気的には効率が良さそうですがコイルの巻き数が多く電気抵抗が高くなってしまうので電気的な効率は低下してしまうのと、狭いスペースにコイルを多く巻くのでコイル線の被覆の不良が発生しやすく不調(コイルの短絡)や故障(断線)の一因にも成っているようです。CDIの出始めに採用されていた事もあり、それまで一般に使用されていたポイント式でのスパークを出来るだけ模した働きをするように考えられている様です。物量を多く使い高効率を狙った優等生コイルと言えるかと思います。(CDIの火花は弱いと言われるのはこの方式が元ネタと思われます。弱くなるべく長い放電狙い。)
■開磁式

開磁式は磁気回路が気中に形成されるので効率は少し下がりますが、一瞬の大電流から発する大きな磁力でも、気中にそれに合った大きさで磁気回路が形成されるので飽和すること無く2次コイルへとエネルギーが伝達されます。なので1次コイルの抵抗値(巻き数)は極端に少なく一気に高い磁力を発生させるような特性になっています。CDIの瞬間的な放電とは相性が良い回路という事が出来ると思います。(あまり詳しく無いので話半分でお願いします。)(CDIが高回転向きだとか火花が強いと言われるのは、高回転でも点火タイミングで瞬時に全てのエネルギーを放電出来るためで、この方式のコイルが起源になっているかと思います。)
私観ですが「閉磁式の方がかっこよく見えるので性能が良さそう。チューニングパーツっぽい」と思います。ですが、CDIからの供給電力自体が小さくTOTALの点火エネルギーとしてはどちでも同じなので、どちらでも変わらないと言うのが答えかも知れません。
プラグギャップを拡大する使い方には開磁式の方が向いているかな。
DC-CDIの違いは、エキサイターコイルを持たず、バッテリーの12vをCDI内のDC/DCコンバーターで400V程に昇圧してCDIのコンデンサーを充電します。回転の安定しない始動時でも安定してコンデンサーを充電出来るので、始動性などが期待出来ると思います。その他はAC-CDIとあまり変わらないのかな?。
トランジスタ点火は、ポイント点火の機械接点を磁気センサやトランジスタでの電流の断続に置き換えて信頼性の向上や高回転での正確性など高性能化を図った方式ですが、理論はポイント式と同じになります。機械接点での電気の断続をトランジスタに置き換えたのでトランジスタ式と呼ばれます。
その点火の方法は、点火をする前から1次コイルに12Vを通電しておいてコイルに”磁力”としてエネルギーを蓄えておきます。言い方を変えると電磁石が磁気を発している状態にします。 点火の際にはプラス端子を開放してコイルへの通電を遮断します。そうすとコイルの磁力は急激に失われるので “急激な磁力の変化”がコイルに生じます。コイルのプラス端子は開放状態ですがコイルには磁力の変化に応じて電力が発生するので行き場を失った電力はコイルを高電圧にする働きをします。1次コイルが高電圧になると2次コイルには増幅された電圧が発生するのでスパークに至ります。磁力から電力の変換にはある程度の時間が必要なのでCDIの様に過剰な一瞬の電力の高まりは発生は無く少し長く高電圧が生まれます。なので”長い” 放電が可能になります。コイルに貯める磁力は点火に使用するに十分に強力に設定している筈なので、”強く長い放電” が可能になります。
強化を行うとすれば1次コイルの線径を太くして電流を多く流せるようにして、溜め込む磁力のピークを高める事。余り電流が多くなってしまうとイグナイター内の電流を断続するトランジスタ素子を焼いてしまうので注意が必要です。強力なコイルを使用する場合にイグナイターもセットで交換するのはその様な理由からです。イグナイター内で12vを16v位に昇圧してコイルに供給するのもコイルに貯める磁力を高める働きになります。
コイルに磁力を溜めるには結構な時間が必要な為、昨今の高回転エンジンでは1次コイルに十分な磁力を発生させるためにクランク1回転の時間では足りなくなってしまいました。なのでコイルに電流を流す時間を2回転分まで伸ばせるように1気筒当たり1つのコイルが装着されるようになりました。高回転まで使用しないエンジンには2気筒分のコイルを1つに纏めて1回転に1回スパークを行う同爆コイルが使用出来たので2気筒でも1つのコイルで対応が可能でした。(この辺りの話からもCDIは高回転向きと言われた。CDIは回転スピードに関係なくエキサイターコイルで1回転に3回必ず充電されるためかつ放電も瞬時に行えるため。でも高回転化に最適化したトランジスタ式が一番最強。最近の4輪チューニング(旧車)ではCDI方式に戻っている様ですが、1回の点火で複数回のスパークを行うマルチスパーク? 見たいなコンデンサーを沢山積んで1回の点火でマシンガンの様にスパークを行う物が有るようです。そういう表現だとCDIはマグナム、トランジスタ式は散弾銃かな?)
あとは見落としがちな点ですが、スパークプラグには抵抗が入っていてノイズ対策をしている事はよく聞く話だと思いますが、プラグキャップにも抵抗が入っているのはご存じでしょうか?。
AC-CDIを採用する2000年までのモデルには L型のキャップが採用されていて、プラグ内の抵抗値と同じく5kΩの抵抗が入っています。2個も抵抗が要るのかな?なんて思いますが、必要なので入っているのでしょう。ま、これは良いとして、
DC-CDIを採用する2001年~のモデルにはr型のキャップに変更になりました。これはFiになってもFinalまで変更はありませんでした。r型のキャップには10kΩの抵抗が採用されています。DC/DCコンバーターやFiなどの採用でノイズに厳しくなったのかな?
このr型のキャップを元々L型が付いている私のSR500に付けるとパワーダウンしました。10kΩの抵抗は点火に影響が大きいようです。更に抵抗無しキャップに交換した所エンジンが元気に成る感じが体感出来ました。このことから2001年以降のr型キャップをL型又は抵抗無しのキャップに交換すれば、過剰な抵抗を排除できると思います。もともとプラグの抵抗と共に2つも入っている謎抵抗なので、そんな無くても大丈夫じゃないかな??なんて思います。
ここまででCDI式とトランジスタ式で電力の供給方式について違いがある事が分かったかと思います。アフターマーケットのレーシングコイル的商品に、CDIとトランジスタ式のどちらにも使用可能みたいな謳い文句の商品も有ったり無かったりしますが、しっかりと点火の理屈が理解出来ていれば自ずとどの様な商品を選択すれば良いのか?分かってくるかと思います。イグナイターを交換するなどの大工事をしないのであれば純正品で十分かな?。ノイズ防止の抵抗値だけ確認してパワーを無駄にしない事ですね。
四の五の言いましたが、十分な点火パワーが有れば下の写真の様な形状のプラグの使用は、火炎核形成~火炎伝播を考えれば効果が高い事が想像できますね。簡易4プラグみたいな感じかな。Fiのトランジスタ点火の車両であればキャップの抵抗をうんぬんするとかで対応できるのではないかな?(無責任)。CDIはエネルギー量が小さいので向かないと思います。
極端なプロジェクトタイプって言うのも特徴みたいですね。

出典
https://plaza.rakuten.co.jp/mement0724/diary/201901150000
もう一つのタイプは火炎核形成として見ると形状的に不利で、突き出しが大きいので燃焼ガスからの受熱が大きくなるので碍子の割れやプレイグの発生の点で不利そうですね。
長くなってしまったので最後に参考になる動画の紹介です。
出っ張っているプラグは燃焼の面では非常に有利だけれど、燃焼温度が上がってくると熱にさらされて不具合が起きるので引っ込めて対応するが燃焼の面では不利になる。SRの場合は燃焼効率が悪く燃焼温度もそんなには上がらないので、イリジウムなど熱に強い金属で出っ張らせて積極的に点火していく方向が良い。そんな感じで見てもらえればと思いました。
動画内でノーマルプラグと言っているのは突き出しの大きいイリジウムプラグになります。
セミレーシングプラグはチューニングパーツメーカーの販売している突き出しの小さい物と、オートバイ用品とは少し違うイメージです。
個人的にはSRにはイリジウムプラグが良いと思います。ノーマルのニッケルプラグではイマイチ調子が上がらない気がします。というか最近の極端に細軸のイリジウムプラグは効果が体感できるくらいに調子が良いです。私の使用しているDENSOの IW20やVW20がプロジェクトタイプの電極むき出しタイプだからなのかも知れません。プラグの選択で燃焼室への露出が変わる?ってのも大事なプラグ選びのポイントですね。プラグのガスケットを外して薄いものに交換して突き出しを増やす。そんな簡単で意義の大きいチューニングも考えられますね
ー追記ー
BPRタイプのプラグは皆プロジェクトタイプの様です。なのでイリジウムプラグが調子良いのは他に要因がある様です。
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結論。
「点火装置の前にプラグについてももっと考えよう!www」
昔のプラチナプラグは余り効果が体感出来なかったのと知識が無かったので最近まで「ニッケルプラグの宗派」に属していましたが、SRに乗る様になってDENSOのイリジウムで効果が体感出来ることから、
「イリジウム教」に改宗しました。
次回は吸排気かな?w