
今回は前回の続き、2550÷回転数=吸気管長 の謎に迫ってみたいと思います。
WEBを見ていると 2550÷回転数 で求めた吸気管長にセットした結果、エンジンのフィーリングが良くなったなどと言う記述を目にします。
どんな理屈でフィーリングが良くなったのか?までを書いた記事がWEB上に無い様なので、今回はこれにTRYしてみたいと思います。
エンジンの吸気管で起こる事を考えつつ、管の共鳴で起こる事柄を理解したいと思います。
片方を閉ざした塩ビ管でも、吸気バルブが閉じた吸気管でも良いのですが、片側が閉ざされた管の事を「閉管」と呼びます。閉管の底を叩くと、「ブルルーーン」と共鳴が起こり音が出ますよね。
共鳴が続くという事は、何度も音波が行ったり来たりしている事を表しています。
上の絵は右側が閉ざされた管を表しています。管の左側は解放です。
これを仮に 閉端 と 開放端 と呼ぶ事にします。
閉端で反射が起こるのはイメージ通りなので問題ありませんが、開放端でも普通に反射が発生します。なので何度も反射が発生して共鳴音が発生するんですね。
開放端では大気と衝突して跳ね返されると表現するそうです。
閉管の反射には特異な性質があり、閉端で反射する際に衝撃波の正負の反転が起こります。正の衝撃波は負に、負の衝撃波は正に変換が起こります。
開放端では反転が起こらないので正の衝撃波は正のまま、負は負のまま反射します。
吸気系での脈動は、吸気バルブが閉まり混合気が吸気バルブ裏に衝突して衝撃波を発する事を端を発しますので、先ず 閉端 で衝撃波が発生するのと同時に反転反射が起こり、負の衝撃波が開放端を目指す所からの始まりになります。(自論・推論です。)そこから 反射 → 反転反射 → 反射 と3回の反射を経て、正の衝撃波がインテークバルブを目掛けて走る事に成ります。
この 正 の衝撃波を吸入する事で過給効果が働くと言う算段に成っています。
気柱の振動に関しては
こちらのページ か参考になります。
ではここからは実際の計算を行います。 公式は
2550 ÷ 回転数 = 最適吸気管長
これで吸気管長が求まります。
今回は5200rpm の吸気管長を求めます。
2550 ÷ 5200 =
49cm
管長を算出する方法ですが、衝撃波の速度は 音速 と同じなので 340m/s を使います。
これを 分の単位に変換するのに 60 を掛けると 20400 となります。
これを カムの回転数 5200 ÷ 2 = 2600 で割ると、20400 ÷ 2600 = 7.85 m と出ます。
これはカムシャフトが1回転するうちに衝撃波が進行する距離であり前述の理屈から衝撃波は管内を2往復 4ストロークするので、管長はそれを4で割り 7.85 ÷ 4 = 1.96m と求まります。
1.96m と 49cmではまだ差が有りますが、 1.96mで脈動の計算は合っています。乗用車などではこの長さのままダクトが設計されていると思われます。

https://usedcarnews.jp/archives/113588
この様な長いダクトはオートバイには到底配置できないので、オートバイは?と言うかこの式を作った人の意図としては、少しテクニックを使って管長を短く設定します。
先ず吸気管の長さを計算で求まる長さの1/4に設定します。
そうすると目的の衝撃波が来るタイミングが1/4の時間となって早くに到達してしまいます。
ですが反響は1回で止まる訳では無いので
4回反響させると元の管長と同じタイミングで衝撃波を受ける事が出来ます。
上記の事から、
1.96m ÷ 4 =
49cm
求まりましたね。計算式と理屈はこんな感じになっていました。
ココで求まる管長とは吸気バルブからダクトの入り口までの距離なので、ファンネル長さでは無いのでお間違いの無い様に。
↑理屈から数式を起こして、式を整理すると 2550 ÷ 回転数 となります。
どぉでしょうか? 2550÷回転数 の理屈がよく分かったんじゃないかな?。w
今回はインテークバルブが閉まった吸気系を「閉管」として捉えて、気柱の振動の原理に沿って計算を行い吸気管長の設定の原理を解き明かしましたが、他の脈動効果を説明する多くのページでは「開管」と「閉管」の物理原則が入り混じって取り入れられて、計算結果までは示されて無い物が多く見受けられました。私も大いに悩みましたが物理原則から調べ上げて理屈に沿って計算と確認を行う事で正確な理論と計算結果を導き出せたのではないかと思います。
なのですが、実際の正確な共鳴回転数の計算には更に吸気管の容積を加味した計算が必要になるので少し難しいですし正確に求まる保証がある訳でもありません。なので吸気管の長さの設定は2550÷回転数の結果を元にプラスマイナスした吸気管を作成して実験的にbestを求める事になると思います。
と、ここまではしっかりとした理屈が有るお話でしたが、ここからは私の憶測のお話になります。
ーーーちゃんとしたお話はココまでーーー
ーーー憶測のお話始まりーーーー
実際問題ですが、1.96mにしろ49cmにしろ少し長くて使いにくいですね。しかもノーマルのバイクのどこを見てもこの様なその長さのダクトは存在していません。SRの場合7000rpmに同調するとしても36cmですから。
反響の回数を増やせばもっと短い管でも理屈上でのタイミングは同期しますが、管を短くして固有振動数を上げて反響の回数を増やすやり方は使用する基本の周波数が高くなるので、1つの衝撃波の長さが短くなってしまう弱点も含んでいます。
必要な衝撃波の長さは少なくてもインテークバルブが開いているクランク角度250度以上の長さのですが、実際には3回目の反響を使用するのが限度の計算結果になります。4回目の反響を利用する 2550÷4の計算結果では、180°くらいの波長の衝撃波しか得られない計算になったと思います。のなでなべく反響の回数は減らしたい所です。
見方を変えて、1.96mの閉管で起こる脈動を周波数で表現すると 340 ÷ 1.96×4 = 43.3 Hz と求まります。反響の2回目3回目と一覧にするとこんな感じになります。
43、87、130 Hz くらいにダクトを共鳴できれば5200rpm で脈動での過給が効くと言い換える事が出来るのですが、
これ。
3.7Lのボックス容量に、30×23×205mm のダクトが3本。ヘルムホルツの共振数を計算すると、86Hz と求まります。
ビンゴ!
2回目の脈動を利用する周波数とぴったり同じになりました。
ノーマルエアクリーナーボックスの設計はこういう事を意識している?様です。
SR500のノーマルキャブ車ではエンジンの各寸法を計算して出力特性を追っていくと4800~5200rpm付近に苦手な回転数が現れます(追々ブログで説明しの予定?)。 その領域にトルクをプラスする為にこの位の周波数で同調するように作られているのだと(私的に)思います。脈動を利用する過給効果はタイミングがシビアなのでピンポイントで働きやすいので、このような使い方をするのだと思います。
(ボックス容積に吸気管の500ccの容量を足すと4.2Lのボックスとしても考える事が出来ます。その場合の同調回転は4800rpmになります。今回は分かり易くするために5200rpmにフォーカスしましたが、実際には5000rpm付近で同調するように設計されているようです。話を拡大すると他の周波数でも同調するので、2600rpmや1300rpmでも同調していると思われます。逆のマイナス波長を吸ってしまうネガティブな同調も発生している筈なんですけどね)
いやー、エンジンって本当〜に面白いですね。
因みにこの作用は前回のブログで言うツインターボで言う吸気工程前半で起こる、脈動を利用する過給作用になります。
もう一つのターボの 慣性作用で起こる過給作用には別の計算式を適用する必要が有ります。
3400÷回転数
なのですが、吸気終盤で起こる慣性過給は衝撃波では無くて実際の空気の移動が伴うので、衝撃波の計算からヘルムホルツの法則で管長を修正する必要が有るとの事。
その式は少し難しいのでEXCELで計算シートを作り同調回転数を求めてみました。
上記のシートに、ポートからダクトまでの太さと長さを入力すれば同調回転数が求まる様にしました。シートの式はwebに掲載されている理屈をベースにして、更に正確に算出が出来る様に私なりにアレンジした式を使用しています。
試しに SR500 のノーマルの値をやや正確にざっくりと入力しましたが 最高出力回転の 6500rpmで同調しているようです。当然の結果と言えばそうなのですが、当然の結果が出る計算シートも凄いでしょ?。w
ノーマル吸気系はここのダクト部分で慣性過給をデザインしているんですね。エアクリとキャブを繋いでいるだけの部品だと思っていましたが、吸気系の要となる長さになっていました。
SR500の吸気系の設計はこの様な意図で設計がなされているようです。
・ボックスの共鳴から発生する 脈動での過給効果。
・混合気の慣性力を利用した慣性での過給効果。
どちらも狙いの回転数で同調させる事が出来ているんですね。
正に「ツインターボ」が働いています。
言葉ではのっぺりしてしまい分かり難いですが、慣性過給が大味に大きな出力を出すセカンダリーターボで、脈動効果がピンポイントで働くプライマリーターボ、みたいな関係です。
主に4輪用エンジンで可変吸気マニホールドみたいな物がありますが、殆どは慣性過給をコントロールする物となっています。それだけ効果が大きいと言う事だと思います。
結論。
この様な理由から、「ノーマルは良く出来ている」と確認が出来ました。
一転、問題なのは SR400。 排気量が変化すると吸気系の同調回転数が変化してしまいます。
ストロークの欄を400の値に変更したところ同調回転数が7000rpmを超えてしまいました。これはシリンダー容積の関係でホルムヘルツの共鳴周波数に変化が起こる為です。シリンダー容積をスピーカーボックスとして、吸気ポートをバスレフのダクトとして見立てると理解しやすいと思います。
シリンダー容積も吸気の共鳴に関わりがあるなんて、なかなか気が付きませんね。
吸気系をそのままに排気量を減少させると、吸気系が相対的に高回転型(音響で言うと低音が出ない)になってしまいます。
この辺りの理論もシッカリと計算シートに含まれています。
これではエンジンの運転中に同調する回転に届くことが有りません。400 と 500 で共通の部品を使用しているので仕方ないと言えるのかも知れませんが、オーナーとしては何とかしたい所ですね。
キャブ車のSR400の最高出力回転数が7000rpmの理由は分かりましたか?
回転リミッターが掛かる回転数の上にパワーバンドが隠されているんですね。7000rpmはパワーバンドの入り口って言う所です。
なのでエアクリとキャブを繋ぐダクトを22cm位に延長してインテークバルブからの総長を41cmくらいにすると6500prm で同調するようにチューニングする事が出来ます。(2型の吸気系の太さ形状で計算しています。)
SR400のエンジンって高回転側は回るんだけれど個性的にパンチが薄目っていうのは、こういう所も寄与してるっぽいですね。
(他にも本質的な原因があります)
2型SR400で6500rpmを目標に慣性吸気効果を同調させる為には、ダクトを2.5~3本つなぐくらいの長さが必要になります。。 写真の状態でエンジンポート面から313mmなのでちょうど吸気系が41cmになる感じです。
実際に装着しようと思うとエアフィルターを突き破ってしまうと思うので、もう少しダクトを細くして短くするのが装着しやすいと思います。
500ccで設計されたダクトなので400ccでは排気量に対してダクトがちょっち太いんですね。なので極端に長く取らないと上手い事行かなく成ってしまいます。
長過ぎるダクトは容積が大きくなって排気量の容積を超えてしまうので、共鳴の点では不利に働いてしまうかな?適度な太さって言うのがある筈です。
排気量が違う場合に同じ回転で同調させるには、ダクトを細くするか長くする変更をしなければなりません。
エンジン回転の6000rpmを音響のHzで表現すると100Hz。吸気系はその半分の50Hzなので、そんな重低音をイメージして比較して見て下さい。
500は腹で鳴く感じですが、400はダクトで鳴らす感じですね。
SR500の場合はダクト1本で最適設計ですが、SR400に関してはダクトは伸ばせ伸ばせです。
SR400Fiのダクトが(細)長くて最高出力回転数が6500rpmに変更になった理由はもうお分かりですね。
意外ですがこの Fi の細長いダクトで最高出力回転数の6500rpmを造り出しています。3500rpmのトルクはエアクリボックスの脈動で作っている物と思います。なので低回転の低下をいとわない場合は、大気側のダクトを外したり蓋を開けてしまった方が6500rpm近辺のトルクが稼げるので、高回転チューンとしての蓋開けはとても理に適った行為ですね。
と言うか、Fi用の大気側の吸入ダクトは 、丸穴に換算すると40mm相当の開口面積しかないので、最大出力的には大分絞られています。計算では43mmのダクトが必要なので撤去してしまった方がTOTAL的にフィーリングは良くなる筈です。
(エンジン側のダクトは短くしたり太くしてしまうと、、何が起こるかはご想像の通りです。)
おまけ
ゴムダクトを一本用意して、中に内径44.5mmのVUパイプをキャブの近くからダクトの出口付近まで挿入して連結すると、ちょうど6500rpmで同調するサイズに成ります。
(2型での計算です。ちゃんとVUパイプが入れられるかは未確認です。内径44mm位のパイプならば何でもOKです。一つのダクトをちょん切って途中をパイプにして延長するやり方もあり。直キャブの時に使い易いやり方ですね。)
ダクトを細くするのは気が引ける所もありますが、ノーマルのダクトが48mmありますが、計算では 400cc×7000rpmでは43mmが適当です。400ccの43mmと500ccの48mmがちょうど等価になりますのでノーマルは500ccを前提に設定されているようです。ダクト径を求める式は使い古された古くからの式を使っていますが、SRの設計も古いので計算と実物がドンピシャでハマります。
こうする事でノーマルを超えるノーマル、いわゆるチューンドと言えるんじゃないかな?
闇雲に径や長さを変更してもBESTな同調に合わせるのは無理ゲーなので、余りアレンジしないのが吉。
変化を楽しむのは全く否定する所ではありません。
ノーマルのダクトが高回転過ぎるって、漠然に持つイメージと違いますね。
因みに作用角の広いカムに交換した場合にも共鳴回転数が上昇します。ハイカムを入れると高回転化するイメージはこの辺りから来ているのかも知れません。(他にも本質的な原因があります)
カムを純正ハイカムの252°に変更してみました。
慣性過給作用の回転数は排気量やカムの作用角や当然吸気管の太さと長さに影響されるので、狙いの回転数に同調させるのは手探りでは不可能に近いかも知れません。。
そこで、
私的SR専門 Blue-sky Garage 「TECHNITUNED β」
~吸気系同調回転数の計算サービス 始めました。w ~
各種 調整用ダクトパーツを取り揃えてお待ちしております。 なんてね。
エンジンをオーバーホールするにあたり次のエンジンのスペックを考えていたら、分からない事やおぼろげにしか理解していない事が多い事に気付き、勉強しながら結局は簡単にエンジンの性能をシュミレーションする計算シートが出来上がりました。
今回の吸気系の同調回転を算出するシートは、そのシュミレーションの一部を紹介しました。
その他パワーバンドとなる回転範囲や最高出力回転の回転数。その際に必要になるキャブレターの口径やバルブのリフト量などが算出できます。
それらの組み合わせや大小のさじ加減で発生する出力特性などは、グラフから読み取る事が出来ます。
先日このシートの全てを説明したブログを掲載したのですが、業界のタブーなのかな?と心配になってしまい取り下げてしまいました。(少数の方には読んでいただけた様ですが、、)
もしかするとこの吸気系の同調回転の話も一旦理解してしまうと簡単な話なので、表沙汰にしてしまうのはタブーに触れる事なのかも知れないですね
ーーー追記ーーー
VU40の塩ビパイプを突っ込んでみた所、シンデレラ的なフィット感でした。
ですがエアクリボックスの少し奥にダクトを伸ばすとフィルターに当たってしまうので、ダクトはあまり伸ばせないみたいです。