
SRのミッションには年式に応じて?組み込み寸法に応じて?シムが0.5mmと0.3mmの2サイズが使われている様ですが、現在部品が購入出来るのは0.5mmのものだけとなっています。(0.3mmを注文しても0.5mmに部番変更になって違うものを買わされるイツモのパターンになってしまいます。確認の手順があると言えども複数部品を注文する時などはイチイチ確認するのも手間なので、たまに罠にハマってしまいます。冒頭からの愚痴でした。)
今回のオーバーホールではミッションはAssyで中古の物に交換してしまうのですが、運が悪い事にオーバーホールしているエンジンに入っていたシムが0.3mmで、用意した中古のミッションには0.5mmのシムが入っていました。
5万キロ走行済みの0.3mmのシムは剛性不足なのか?変形が大きく、ベアリングに当たって機能する部分が一番薄く0.25mm程度の厚さになり厚い所は0.5mmになってしまっています。ここのシム調整はギア抜けに影響があるそうなので影響が大きい様です。実際私のミッションもギア抜けの現象が発生していましたのでこれが原因の一端だったかもしれません。
裏側もひどい当たりです。
という事でオーバーホールをするのにあたり、シムは今手に入る0.5mmの物を入れるのが良いのか?それで大丈夫なのか? それともモノタロウでサイズを指定してシムを作成するサービスを利用して、0.3mmの物を使うのが良いのか? 考えてみたいと思います。
普通こう言うのはサービスマニュアルを確認すれば良いのですが、SRのマニュアルが不出来で数値も間違っていれば図示の絵も間違っていて、全く使い物になりません。しかも3GW4のマニュアルのみ記載があり、その他の年式では内容が省かれています。
では現状を確認していきます。
このシムが入るシャフトはメインアクスルですが、場所を絵に描くとこんな感じで、赤で示したのがシムに成ります。
軸の回転方向はベアリングでスルスル回転しますが、その軸の横方向のガタ?をシムで調整しているのかな?
シムの強い当たりを見てもそんな感じが見て取れる気がします。
写真は0.5mmのシムですが、こちらは変形は無いものの擦れるような当たりは強く出ています。
ここで疑問が生まれます。
「メインアクスルの左右方向に掛かる力は具体的には何処の部品が受け止めているのか?」
と、
「クリアランスはどの位が最適なのか?」です。
再度絵を見て考えてみると左側はワッシャーが入っているのでそこで擦れつつストッパーに成っているのかな?
右側はシムが挟まれていますがメインアクスルに作り付けられているギアは動かないので、それがストッパーに成っているように見受けられます。
実際の部品を見てみます。
先ずは左側。
軸にワッシャーを入れて、そこに本来はクランクケースに嵌め込んであるベアリングが入ります。
部品を嵌めてみました。
高速回転する軸が、ワッシャーを介して回転しないベアリングのアウターに当たります。少し違和感が有りますね。
その他は軸の左右の動きを拘束する機能は無いようです。
次は右側を見てみます。
ベアリングに近いギアは軸に造り付けなので、左右に動かないのでガツンとシムを介してベアリングのインナーに当たる構造です。インナーは軸と供回りになるのでギアと軸とシムに回転差は無い構造です。当然ですがベアリングは本来はクランクケースに嵌め込んであります。
ここで見落としていましたが、右側のベアリングの更に右側にはクラッチが付きます。そのクラッチの締めつけは軸の末端で締結されるので、ギア・シム・ベアリング・クラッチ関連 まで、軸の末端からナットの締めつけで締結される構造でした。
クラッチハブナットでベアリングまでのパーツが固定されて、クランクケースにはベアリングで固定される構造でした。
この構造を見るとシムとベアリングは完全に挟まれて締結されているので、当たりが強く出るのには疑問があります。
ですが、挟んで留める部品の多さを見ると何となく納得も出来るかも知れません。
一つのナットでこれだけ多くのパーツをメインアクスルに締結しているので、ベアリングのインナーとシャフトを止める力が足りていない状況のようです。構造的にラジアル方向(軸に荷重が掛かる方向)の締結が弱いと言えます。
ベアリングは軸に対して圧入では無くクリアランスを持って挿入するタイプなので、締結が弱いとそのガタ分は動いてシムを擦る事になります。
0.3mmのシムが潰れて変形するのは、挟まれる力と振動に耐えられていないと言う事なので、部品としての剛性不足。欠陥品って事になっちゃうかな?。なので対策品の0.5mmになったのでしょう。
そう書くと極端な理解をされてしまいそうなので、5万キロの途中までにオイルポンプの交換の時などにクラッチを分解しているので締め直したりはしていますが、取り敢えず5万キロ迄は走れていましたのでそんな極端な弱点では無いと書いておきます。
こういう構造なので仕方ないのですが、振動等により軸とベアリングのインナーが摺動してしまうとシムが摩耗するので、それを少しでも緩和する為にはクラッチを締結するナットを締め付ける時に、トルクをマニュアルよりも高めに設定するのが
「吉」の様です。3GW4のマニュアルでは6kg・mとありますが、1JNのマニュアルには5~7kg・mとの記載があるので、7kgが妥当な所かな?こういう時はプリセット式のトルクレンチを使わずに弓式のトルクレンチを利用して、締め付けの具合を確認しながら締めるのがイイかも知れません。
~蛇足~
最近4輪の方では一部で「対話式トルクレンチ」と言われ何かと話題に成ってますね。ボルトの伸びる感じが指針の感覚で分かるのと、指示値が長い期間狂わないのが良い所と思います。これでホイールのアクスルシャフトを締め付けると、15kg・m位を境にボルトが負けてくるのが良く分かります。特に剛性が必要なところは締め付けられる所までは締め付けた方が有利ですからね。対話式トルクレンチにはそんな楽しみ方もあります。高トルクと姿勢次第では針を読み難いのは弱点です。
~蛇足終わり~
メインアクスルに掛かる左右の方向の力は右側のベアリングで固定している事が分かりましたが、ではどの位のガタ?でシャフトを固定しているのか? 実際に計ってみました。
カラーを作成してアクスルシャフトをベアリングに固定してダイヤルゲージの0合わせ。
手でシャフトを持ち上げると、20μmのガタがありました。
このベアリングは1.5万キロ走行の中古ベアリングですが、アキシアル方向(今回で言う縦方向)は20μm、ラジアル方向(今回で言う横方向) は25μmのガタでした。
5万キロ走行のベアリングも同じように計測しましたが、アキシアル方向は0μm、ラジアル方向は30μmのガタでした。思うにアウターが薄いのでボールを抱え込む様に変形してきているのだと思います。ラジアル方向のガタはどの程度が痛みなのか分かりませんので、新品交換した後に再度計測して結果を追記したいと思います。
いずれにせよ軸のアキシアル方向の拘束はかなりタイトでした。
・軸のアキシアル方向のズレはベアリングで支持されている。
・支持の精度は0~20μm程。
まで分かってきました。後は0.3mm → 0.5mm のシムへの変更がどの位のインパクトなのか? が分かれば判断が付きそうです。
0.5mmのシムが入っているクランクケースは0.3mmのシムを使っているクランクケースより0.2mm幅広に加工されている可能性もありますから確認が必要ですよね。
では実測。
計測は上記の様にカラーでベアリングを拘束をしない状態のシャフトのガタで測る事にします。
シャフトは手元にシム違いの物が2本有りますが、有効長は20μmの違いと誤差程度しか変わらないのでシャフトの仕様は一緒です。
結果はご覧の通りです。クランクケースを2種、シムを2種、織り交ぜて考えましたが、水色で塗り潰した計測結果を参考に大体600~700μmのクリアランスが妥当な所の様です。
今回の計測ではシム厚さ違いのクランクケースの加工幅に、明らかに200μmの差があると言える計測結果にはなりませんでした。同じとも言えない微妙な結果になってしまいました。
0.3mmシムが入っていたクランクケースに0.5mmのシムを入れた際のシャフトのガタの実測値が480μmなので、あと100μあれば安心出来たのですが、でも700μmの所の100μmなので影響はそんなでも無いのかな? とも考えられそうです。当然シムの厚さが変わればミッションのギアの噛み合わせもそれだけズレる事に成るし、シフトフォークもズレる事に成るので影響が無いとは絶対に言えません。
私が考えるに、ここのシムは構造的にクリアランスの調整というよりはギア位置の設定という意味合いの方が強いんじゃ無いかと思います。
そんな感じなので、まぁ楽天的に言えば、
0.5mmの厚いシムを入れてもケースの反対側は500μm~のクリアランスがあるので、当たって軸に負担が掛かる様な事は起こりえない。影響はギアが0.2mmズレるだけ。
とも言えます。
シムの厚さだけ色々なパーツのアライメントがズレるだけです。
少し話が大きくなってしまいますが、エンジンに熱が入った際のクリアランスと言うかギアの噛み合わせについても考えてみます。
シムの入るメインアクスルは右側のベアリングにクラッチのナットで固定されていましたが、スプロケットの付くドライブアクスルも同じ様な機構でスプロケットの固定ナットでベアリングと締結される構造になっていました。
それぞれのシャフトが右と左のベアリングで支持されているので、クランクケースに熱が入りケースが膨張するとベアリング間の距離が長くなるのでギアの噛み合わせも変わります。絵を見ながら考えるとイメージし易いと思います。温まるとギアが、とか冷えるとギアが、とかそう言うのも考えられますね。
少し蛇足?ですが、気が付いたのでシムの厚さを神経質に考えなくても良い材料として提示しておきます。
ギア抜けトラブルに至る原因は、そもそもベアリング付近の負担が高いのと、ラジアル方向の拘束が弱い構造になっていて、
負担が高く軸が動いて仕舞う→振動でシムが摩耗してしまう → 摩耗するとナットの締結力が低下する → 更にシムに振動が発生して摩耗が進む → 軸ブレが酷くなる → ギア抜けに至る?
見たいなメカニズムなのかも知れません。
結論。
・シムの厚さを 0.3mmから 0.5mmへ変更すると、ギアの噛み合わせとシフトフォークの位置に影響があるけれど、操作感に対する影響代は不明。
・エンジンのOH時以外でもクラッチの整備でナットが見える状態があれば、強めのトルクで増し締めしておくのがシムを摩耗させずに済む?摩耗を遅らせる?整備手法となる。
今回は細かい事は気にせずに0.3mm→0.5mmに変更して、どの様な変化が起こるか観察する事にします。結果が出次第追記します。
極論。
0.3mmと0.5mmはYAMAHAが変更しても大丈夫。って事で部番変更で部品が出て来る訳だから大丈夫じゃね? クラッチの締結のナットだけ強めに締めておけば大丈夫じゃね?? って所かなぁ。
DIYで腰下整備をする際に誰しもが悩むポイントだと思ったので、素人なりに解決しようと頑張ったんですけど、スパッと答えを参考に出来る結果にはならなかったですね。。。
でも考えられる事は考えたので、この中途半端な感じも含めて答えなのカモ?縦割りクランクケースの限界カモ?知れないです。あと足りないのは経験かな?
更に細かい事を考えれば、シム厚さで影響が出るのはシフトの上下の有効ストローク長かな。上げる操作はショートストロークでクイック。下げる操作はロングストローク。何速だけとか、逆も然りで。
シム厚さによるシャフトの左右方向の移動でこんなアンバランスが発生したり調整出来るかも知れません。 これも考えればわかる事ですが今回はこの位にして起きます。。
とことん 「SR」。