
久しぶりに3Dプリンターの設定を見直したので覚え書きです。
8bitCPUを採用している様な、あまり高速に動かない様なプリンターで、バグを引き起こしたり、印刷の失敗が少ない様に印刷するコンセプトです。
上記はmarlinファームウェアの設定値です。robinなのでテキストファイルで設定が可能です。
・XY軸はMARLINのSTDと同じ。
・Z軸は出来るだけ高速化。垂れ防止。E軸の高速化と合わせてワイプは使わない方向。
・E軸は出来るだけ高速化。垂れ防止。Z軸の高速化と合わせてワイプは使わない方向。ジャークは低い方が高解像度だけどボーデンなのでそのまま。変更しても理屈ほどの影響は無い。
〔プリンター→ 機体の限界〕
・G-CODEへの出力設定を忘れない様に。
・XY軸はMarlinのSTDな値。Z軸とE軸は大幅に高速化。垂れ防止。
・射出時の最大加速度のみ低めに設定。ジャークを低下させずにコーナー部の印刷品質を維持する方向性。オールマイティー性も向上。
〔プリンター→ エクストルーダー1〕
・引き込みは十分に長く& 高速に設定。復帰はブロフ防止の為に遅め。
・レイヤーチェンジ時の引き込みはボーデンなので必要。
・ワイプをOFF。 垂れが少なく成るとワイプが印刷品質を落とすので。
・ノズル太さは少し細く設定。慣例的。
〔プリント設定→ 速度〕
印刷速度は基本的に自動。
〔プリント設定→ モード||アドバンス〕
射出幅も自動に設定。
<速度>
こんな感じの設定にすると、プルサスライサーでは概ね40mm/s程の印刷速度になる様です。 (本来的にはmvsの値で制御される筈ですが、)
(このスピードは明示的には設定は出来ないのですが概ね、プリント設定→ 速度→ オートスピード→ 最大プリント速度 の設定項の 1/2の速度となる様です。)
<速度>
輪切りにして内部の印刷速度を確認すると ”赤” の印刷速度が相対的に速い部位と、”緑” の遅い部位が確認できる。これは「射出幅」と「フローレート」を確認すると理屈が見える。
<射出幅>
印刷中の樹脂の押し出しの幅は必ずしも均一では無い。 壁の厚さを均一に保つために傾斜のある部位は太く印刷する必要が有る。
射出幅が細い部位では印刷速度は速く、射出幅が太い部位では速度が遅くなっている。
<フローレート(体積押し出し量)>
フローレートで見ると射出の太さに合わせて速度を可変させる事によってフローレートを一定に保っているのが分かる。
3Dプリンターの印刷制御は基本的に、ノズルからの樹脂の吐出速度を一定速として、XY軸の移動速度を調整してソフトクリームの様に印刷するコンセプトだと理解すると良い。
E軸の樹脂の押し出し速度に加減速が発生すると、制御と実際の押し出し速度に乖離が発生してしまうので、出来るだけ一定速としたいという事。
可変レイヤーを使用している時も同様で、薄いレイヤーでは印刷速度が速く、厚いレイヤーでは印刷速度を低下させてフローレートを維持している。印刷表面のフローレートが整うと可変レイヤーでも表面の印刷品質が均質と成ってくるので、一定のフローレートは印刷品質にとって重要なのが分かる。
ここ迄は理屈をベースにしたセッティング。
以下は機器での実際の印刷を加味する。
<実際のスピード>
機体の動作の限界、加速度とジャークを加味した印刷速度のシュミレーション。加速度は仮に基本的な「1000」として設定。
形状の入り組んだインフィルの角部分はジャークの値まで減速されるので概ね10mm/sまで必ず減速する。
40mm/sで印刷→ コーナー手前で加速度の値で減速→ ジャークの値で方向転換→ 加速度の値で再度加速→ 40mm/sで印刷 を繰り返す。
<実際のスピード>
加速度を「350」へ変更。
形状の入り組んだインフィルでは 40mm/sまで加速が出来ず 30mm/s程度の速度しか出なくなったのが見て取れる。 シームの部位も加減速による色のグラデーションが付く。実際低価格のプリンターではこの程度に速度変化を緩慢にしなければ角部分の印刷が綺麗に出来ない。
<実際のスピード>
実際にこの設定で印刷するとオーバーハングになる部位は印刷が荒れ易く、失敗や綺麗な印刷が出来ない事が発生する。
印刷難易度の上昇するオーバーハングになる部位では印刷速度を下げて、印刷難易度を低下させる事で対応する。
〔プリント設定→ 速度〕
〔ダイナミックオーバーハングスピード〕に ☑ を入れる。
<実際のスピード>
設定に沿ってオーバーハングの印刷速度を低下させて印刷品質が向上する。
重ねて樹脂の冷却ファンの速度をコントロールして、オーバーハング部での冷却を強くする事で垂などを抑制する。
〔フィラメント→ クーリング〕
〔ダイナミックファンスピード〕を有効化に ☑
<ファンスピード>
印刷の荒れ易いオーバーハング部の冷却を強化して印刷を安定させる事が出来る。
印刷難易度の高くなる箇所にシームが重なると印刷を失敗させる大きな要素となるので、こういう場所にはシームを重ねない様にする。
シームは印刷難易度の高く成る個所を避けるように設定しておくのが基本。
3D印刷には難易度が高い「ブリッジ印刷」があるが、プルサスライサーでは設定の各項目で競合する設定が有り、設定画面も上手く纏っていない。
基本的には、 フィラメント→ クーリング→ FAN設定→ ブリッジファン速度 で設定するファンによる冷却が働く
次に、 プリント設定→ レイヤーと外周→ 高品質→ ブリッジ境界線の検出 ☑ で有効となる 「ブリッジ流量」と「ブリッジ速度」が適用になる。
「ブリッジ流量」の設定は プリント設定→ アドバンスド→ 移動→ ブリッジ部吐出率 で設定する。
「ブリッジ速度」の設定は印刷速度の設定の中にある項目となる。
「ダイナミックオーバーハングスピード」と「ダイナミックファンスピード」と設定項目が重複しているので、どちらが優先されるのかは確認が必要。
・フローレートを安定させる
・やみくもな印刷速度の加減速は避ける
・クーリングをしっかりとコントロールする。
・印刷難易度の高い部位は印刷速度を下げる。
今までの3Dプリンターの生い立ちに沿った印刷の設定を追っかけてみました。
細かい事を書くと本来は加速度で加減速を調整するのではなく、圧力均一化の圧力イコライザーを使用して印刷速度をスロープするのが良いのですが、今日時点でバグの為か機能を利用する事が出来ません。
圧力均一化の圧力イコライザーの項目の
圧力イコライザーの参考ページはこちら に成ります。
〔最大体積押出し速度〕は機能しているので、インフィルなど高速化して診察時間を節約したい場合には印刷速度を150mm/sで固定して、体積流量の上限値で印刷速度の上限が掛かるようにするのが良いと思います。最大容積速度の目安は材料別の一覧が
こちらのページ に有りますので参考に。
slick3r 改め PrusaSlicerはとても理に適った開発がされているので、理解がし易く使い易いのですが、インターフェースが直感的では無いのでなかなか体系的に理解する事が難しいので分かり易く書き出してみました。
最近主流に成りつつある Klipper制御の3Dプリンターでは、高速印刷に合わせた新しいコンセプトの設定方法が必要なのかな?
旧来の3Dプリント技術は印刷品質の向上に対して印刷速度の低下で品質を担保する消極的なアプローチが取られて居ました。
最近主流になりつつあるKlipper制御系ではプリンター振動のF/B制御や高速マイコンの使用を前提として物理法則を高精度かつ高速に演算して印刷品質の向上を限界まで目指す、速度を落とさない積極的なアプローチが取られる様になり印刷速度の向上も目覚ましいそうです。
現在の3Dプリンター界は制御系の移行の真っ最中と言った感じですが 旧来のMARLIN制御で主流だった PRUSAから、Klipper制御への移行に合わせて Bambu Lab社が主流を取って代わる移行途中に見えます。
併せてスライサーソフトは Bambu Lab社の Bambu Studio が人気の様ですが、そこから開発をフォークした Orcaスライサーが広く人気の様で今の所の到達点のようです。
最新のOrcaスライサーの生い立ちを辿ると、
Slick3r→ Slic3rPrusaEdition→ PrusaSlicer→ SuperSlicer→ BambuStudio→ OrcaSlicer と分裂?継承?フォーク?を重ねて開発されているので最先端の OrcaSlicerでも印刷エンジンは現在のPrusaSlicerの物が採用されています。なので今回の設定で使用した PrusaSlicerの印刷のコンセプトを理解するのも無駄にはならないかな?と思います。