
単気筒エンジンは振動が大きいと言われますが、振動はなぜ発生するのか?ちゃんと考えてみたいと思います。
クランクシャフト と ピストン。この辺りの部品で考えてみたいと思います。
簡単に考えると、ピストンの重量が「100」だとした時に、クランクシャフトのカウンターウェイトを「100」と設定すると、
こうなったり、
こうなったりして、ピストンとクランクシャフトのカウンターウェイトとが、重量から発生する振動を打ち消してくれる訳ですね。
一見良く出来ているように見えますが、ですがこれは万能には効果を発揮してくれません。。。
カウンターウェイトが水平方向にある時は左右方向に打消しの力が働いてしまうので、ピストンとの釣り合いを取る事が出来ずに逆に振動の発生要因になってしまいます。因みにこの状態の時にはピストンは粗等速移動なので振動の発生源には成っていません。
この様な事からピストンの重量とカウンターウェイトの重量をバランスさせてしまうと、上下方向には振動が無く、左右方向に大きな振動が出るエンジン、と成ってしまいます。
では、どうしましょうか?と言うと。
カウンターウェイトの重量をピストンの半分の50に設定して、残りの50はクランクシャフトの逆回転をするシャフトに、バランスウェイトとして載せます。
この2つのウェイトの力を合成する事でカウンターウェイトが水平方向にある時の振動の発生を打ち消すようなカラクリが成立するんですね。
これがバランサー付きのエンジンに成ります。
実際にエンジンに搭載すると、クランクシャフトとバランサーシャフトとの距離が発生してしまうために振動の中心?軸?がズレてしまうので理屈通りには行かなくなってしまうので、余計な振動が発生してしまいます。
ですがスペースやコストの関係でこの様なバランサー付きエンジンもたくさん存在します。乗ると直ぐに分かります。全体として振動は少ないのですが、エンジン回転が上昇したときに雑味のある振動が発生するエンジンに成っています。(私感です)
キチンと?バランスを考えたエンジンでは、バランスウェイトを分割してクランクシャフトを挟む様に配置します。これで理屈的にしっかりとしたバランサーシャフト付きエンジンと成ります。ここ迄すると高速道路も怖く無い単気筒エンジンが出来上がる様です。
この後者の2つに分割して配置したバランサーシャフトの事を「2軸一次バランサー」と言い、前者の1軸の物を「1軸1次バランサー」と言います。
写真はGB350のバランスウェイトの配置に成ります。さらに実際にはクランク軸と各バランサー軸の距離が異なるので、ウェイトの分割を調整してイイ感じにしているようです。
良く出来ているように見えますが、エンジンのパワーを削ってウェイトを振り回しているので決して効率には優れません。。
では何故現代のエンジンがバランサーを採用するのか?ですが、車体各部品の振動からの破損・緩みを勘案して、バランサーを採用して振動の軽減を行った方が車両全体としては軽量に安価に製造が出来たり、ライダーへの振動の軽減も大きな要素に成ります。
ではバランサーを採用しないSRではどのように振動軽減を行っているのかと言うと、
カウンターウェイトの重量をフルバランスから少し軽く、例えば80に設定する事で、前後方向の振動を20%程削減しています。代わりに上下方向の振動が20%出てしまいます。ここはトレードオフの関係に成ります。
これで前後方向に100の振動が出ていたのを80までに削減する事で、各パーツの振動に対する強度を20%下げて設計する事が出来るようになるので小さい話では無い様です。ではこれを30%40%と大きくしていきたいのですが、、
バイクに乗った人の体重は上下に掛かり、人はそれを感じます。なので、バイクが前後に揺れていてもそれを人は100%で感じる事は有りません。ですが上下方向の振動は体重の掛かる方向と同じなので100%で感じる事が出来ます。そんな事も有って簡単にはその比率を変える事が出来ないんです。
このウェイトの設定のバランスの事は、「オーバーバランス率」と言い、確かSR500では80%程に設定されていたと思います。(SRの本に書いてあったんですが失念してしまいました)
そんなこんなんで、バランサーシャフトを持たないSR400/500のエンジンは、オーバーバランス率を調整する事で振動の出る方向を調整する事で何とかバイクとしてのパッケージを纏めているという事がわかります。
ダンパーシャフト?振動を取るシャフトみたいなのが売ってますが、装着する方向を考えると今回の話と繋がって面白いかもしれませんね。
ボアアップなどカスタムの際はこの様なことも少し配慮すると良いエンジンになるかも知れませんね。ピストンが軽くなるとオーバーバランス率が100%に近づくので上下方向の人が感じる振動が減少します。
そんなこんなんで、ロスの無い、ダイレクトな(笑)駆動力や振動を体験する事が出来るエンジンになっているんですね。
では直列4気筒エンジンではどうなのか?ですが、今回の理屈のカウンターウェイトとピストンのバランスで起こる振動は各気筒でキャンセルされるので
その振動の発生は有りません。
ですが考えて見て下さい。4つのピストンとカウンターウェイトが1万回転を上回る様なスピードで回転しています。頭の中でそれを想像すると単気筒エンジンと違って世話しなくイメージが付きませんよね? なので簡単に理解する切り口となる2つのポイントだけ考えます。フォーカスするのは上死点と下死点でのピストンの動きです。
高速で回る4組のピストンが、(上下)死点にある時には完全停止します。死点は1回転で上下2点あるので、クランク1回転で2回の停止が必ず発生します。それが4気筒で同時に起こります。イメージ付かないほどのせわしない動きのエンジンに、1回転に2度、死のタイミングがある訳です。頭の中で回転している4気筒エンジンを想像して上死点で全てのピストンが止まるイメージを写真に1枚。数回転させてから下死点でも全てのピストンが止まるイメージの写真を1枚。 そんな感じで考えるとイメージが湧くかな?
これはクランク1回転で2度発生する「2次振動」と言われる振動に成ります。(本当はちょっと違うけどね)
4気筒エンジンは滑らかなんて言いますが、クランク1回転で2度、すべてのピストンが同時に停止する、ちょっと変わったエンジンとも言えると思ます。低回転でいとも簡単にエンストする場合のある4気筒エンジの特徴は、こんなピストンが4個同時に停止する所から発生しています。
色々な形式のエンジンがありますが、直列4気筒は2次振動が最大となる配置のエンジンだそうです。この振動を取るためのバランサーはクランク回転の倍の回転数となる「2軸2次バランサー」が採用されます。バイクでは採用は無いのかな?
エンジンって何だか丁度いい感じのが無いな?なんて思いますが、いい奴もいるんです。
もう一度バランサーレスの単気筒エンジンを見てみます。
カウンターウェイトを100に設定すると左右方向に100振動が出るエンジンになりますね。
抽象的に振動を表すとこんな感じに左右の振動を発生するエンジンに成ってます。
仮にカウンターウェイトを「0」に設定するとどうなるでしょうか?
振動の出る方向が変わって、上下方向に100振動が出て、左右方向はトレードオフで0に成るエンジンが出来ます。
抽象的に振動を表すとこんな感じに上下の振動を発生するエンジンに成ります。
この二つのエンジンをそのまま横に並べてもなんのこっちゃなのですが、
軸を同じにして90度回転して重ねると、2つのエンジンの振動同士が振動を打ち消し合うエンジンとする事が出来るんです。
90度毎にバランスを見て見ましょう。
構造を見ると単気筒エンジンのクランクピンにもう一対のピストンを寄生させた構造の、単気筒オーナーには面白く見える?エンジン形式になっていますが、バランサーなど余計な物を使用せず根本的に振動の無いエンジンが作れてますね。簡単に言うとオーバーバランスを100にすると左右の振動が出てしまうので、横向きにもう一つピストン付ければバランスが取れるじゃない。と言う感じ。
しかもピストンが死点によって停止するタイミングは4気筒エンジンの様に同時ではなく、タイミングがずれているので大きな2次振動の発生もありません。(粘るエンジンと言えるのかな?)
DUCATIがL型90度エンジンにこだわる理由。
HONDAの高価格帯エンジンが4気筒V90度エンジンの理由などはこの当たりから来ている物と思います。
あ、当然SV650もですね。
バイクに多く採用されるV型90度2気筒エンジンって、ボロンボロン言わせたいからじゃなくて、このような技術的な側面が大きく、形になっている事がわかります。ここまで技術的側面が形になって現れているエンジンも珍しいかと思います。
私はこの単純で分かり易い理屈を、絵に描く様に実際に形造ったV型90度2気筒エンジンに、機械的なロマンを感じます。
そんなV型2気筒エンジンにも若干ですが理屈を現実に出来ない要素が有って、前後のシリンダーにオフセットが発生してしまうので、振動を打ち消す軸のズレが発生してしまいエンジンをゆするような振動が発生してしまいます。これを偶力振動と言いますが、偶力振動を消す為の「偶力バランサー」を装着しているエンジンも少なくありません。パラツインではマストかな?
さらにその先迄、V型エンジンの理屈・理論の具現化を突き詰めたエンジンには、こんなコンロッドが装着されていて、
前後シリンダーのオフセットを廃して、打ち消し合う振動の軸のズレが発生しない様に配慮されています。
V型エンジンにかける情熱が大きいこのコンロッドは、ハーレーダビッドソンのコンロッドですが、雑味を低減して心地良い振動だけをライダーに提供するように考えられているのかな? 当然日本製のアメリカンにはこの様な技術は盛り込まれていないので、前後シリンダーがオフセットして装着されています。一方ハーレーのシリンダーは前後のシリンダーにオフセットは無く、整列したシリンダーが美しくVの字に並んでいます。
重厚長大のアメリカ車、繊細な技術なんて要らないぜ!! なんて言うアメ車のイメージも有るんですが、実はアメリカ人ってとっても繊細でデリケート、理詰めな一面が有ったりします。
そんな事を感じる事が出来るバイクエンジンの腰下事情です。
V型90度2気筒エンジンの「機能美」がわかりましたでしょうか? 本日の裏タイトル、「V型90度ツインエンジンのススメ」でした。

Ducati 伝統のエンジン。単気筒エンジンを2つ重ねる事で各々が振動を打ち消し合うので、バランサーを使用せずに振動がキャンセルされている。ハイパフォーマンス単気筒×2エンジン。本当の意味でのパラレルエンジンだと思います。

HONDA 800cc 完成されたエンジン。大人と白バイは黙ってV4 。(どうも技術的な理解が成されずに実力に反して不人気?癖無く良過ぎる説。今の白バイも残念)

SUZUKI 1050cc 今の時代に新造? V型に本気。

Moto Guzzi こちら縦置き90度。偶力振動はフィーリングとして楽しむ?縦置きだからこそ。BMWも同じ。

Harley-Davidson Vバンクが90度では無いけれど、コンロッドの造りはV型エンジンの鏡的存在。シリンダーにオフセットが無く、機械としても造形も美しい。私がファンであれば願う事は「変えないでくれ」。SRとも通ずる所がありますね。
どれも見た目には双頭の単気筒エンジンみたいでヘンテコですが(ハーレを除く?)、理屈ではとても理に叶うエンジンとなっています♪
私的には軽自動車のエンジンがV型2気筒になると面白いんじゃないかな? なんて思ったりします。モトグッチのエンジンを少しダウンスケールして、縦置きのまま載せると面白いかな?
少しレトロ調な軽バンの、ボンネットを開けたらVツインが縦に載っている。そんなのがあったら即買いです。
多分、Vツインエンジンに乗っている人でもここまでのメカニズムは知らずに乗っている事が多いと思います。
知ると、Vツインエンジンの載ったマシンに更に愛着が出るかな?双頭の単気筒エンジンと捉えるととても面白い!
そして農耕エンジンの様に飾り気も何も無いSRの単気筒エンジン。何故こんなエンジンがクローズアップされるんでしょうか? この飾り気の無さ、内燃機関のそのものを感じれるのがSRのエンジンの面白いところなのかな?と思います。(決して良いところとは書かない。)
500ccの排気量設定も投入技術とのアンバランスが破茶滅茶で面白い。
400ccの排気量設定もボアスト連関比のバランスが極端で面白い。
このエンジンに90度にもう1気筒追加したイメージをするとロマン以外の何者でもありません…
単気筒の鼓動感はそのままに、嫌な振動が大幅に軽減されて排気量は2倍です。
SRV800(縦置き)。そんなバイクにも乗ってみたいですが、粗モトグッチになっちゃいますね。
SRV800(横置き)。コレはドカティーモンスターになっちゃうかな?
そのままで厄介で愛らしいエンジンと思いますけどね。SR500/400。
クランクケースが異様に小さいのは、2ストエンジンのSC500の腰下をベースに開発されているからだそうです。
エンジンを考える上で、この腰下の振動の話は一番面白味のあるテーマなんじゃ無いかな?なんて思います。
バイクエンジンは色々な配列があって、個性豊かで楽しいですね。
4気筒エンジンの振動はこちら
↓
https://minkara.carview.co.jp/userid/2092714/blog/47891133/
6気筒エンジンの振動はこちら
↓
https://minkara.carview.co.jp/userid/2092714/blog/47904401/