2014年01月31日
越えられない“踏切” part1
越えられない“踏切”
~ アメリカ映画『恋に落ちて』の“深層”を妄想する
アメリカ映画であるのに、ヒロインが乗るクルマがホンダ・シビック。その小柄のボディが、ヒロインの想いとともにクライマックス・シーンで突っ走る。日本のクルマがアメリカ映画で、それも主役側の重要なギアとして登場。そんな記念すべき作品でもあると、この映画については記憶していた。日本での公開は1985年ということで、その際に映画館で観たと思う。
さて、DVD(レンタル)という便利なツールで、2013年の冬、この映画を見直した。たまたまクリスマス・シーズンと重なったのは、単なる偶然。あらためて観ると、クルマと物語との関係が非常に“密”で、クルマが常にドラマの内容と進行に影響を与えている映画でもあった。たとえば発端にしても、ほかならぬクルマの“事情”が主人公の行動を決している。
ニューヨークのマンハッタンと郊外の住宅地域を結ぶ通勤鉄道。映画はこれを重要な小道具とし、その「トレインM」に登場人物が乗ることで物語が始まる。この列車に主人公が乗った原因と理由は、朝にクルマが使えなかったこと。トレインに乗り込んだモリー(演ずるはメリル・ストリープ)は、座席に収まると、すぐに新聞を広げた。そして次の駅で、同じ車両にフランク(ロバート・デ・ニーロ)が乗り、モリーの一列後ろに座った。マンハッタンに到着後、駅構内の公衆電話で、二人はそれぞれ連絡を入れる。
フランクは「たぶんオルタネーターだ。だから、ガレージに置いてきた」と妻に言っている。モリーは、医師であるらしい夫とは直に話せなかったものの、電話の相手に「(クルマが)スタートしなかったの。だから電車で来たわ」と語る。なるほど、フランクがやや慌てた感じでタクシーで駅に乗りつけたのは、そういう事情であったか。
この時に二人が着いたのは、クリスマス直前のマンハッタンだった。フランクとモリーは家族のための買い物をして、さらに書店に向かい、パートナーにプレゼントする本を買い求める。そして、レジを済ませたあたりで二人はぶつかり、互いの持ち物を床にバラ撒いてしまう。拾い集めるために協力する二人は、言葉は交わしつつも相手の顔を露骨に見ることはしない。そして、この程度のコンタクトで自己紹介をすることもなく、季節の挨拶としての「メリー・クリスマス!」を言い合って、二人は雑踏に消える。ただ、こんな風であったのに、相手の顔を記憶していたことは後にわかるのだが。
そんなニューヨーク郊外在住者であるフランクは、ダッジのエンブレムが付いた中間サイズ、白っぽい4ドアセダンに乗る。すでに子どもが二人いるこの家庭には、もう一台、奥様が運転するステーション・ワゴンがあって、こっちはフルサイズだ。
一方、会社勤めではないモリーが乗るのは、ホンダ・シビックの3ドア・ハッチバック。日本の広告展開では“ワンダー・シビック”と呼ばれていた機種で、自宅にモリーが帰ってきたという場面で、いきなり(演芸用語での)ピン状態で登場する。車体色はシルバー・メタか。アルミではなくスチールのホイールというのが、アメリカの“日常車”らしい雰囲気。そして、このシビックがマニュアル・シフト(MT)車だということが後にわかる。
この映画が製作されたのは1984年という。映画の中の時代設定も、同様に80年代のアメリカだとして、イラン政変による、いわゆる第二次石油ショックが起きたのが1979年。この時にアメリカでは、燃料を食う大きなクルマが一気に売れなくなり、コンパクトで燃費がいい外国からの輸入車、具体的には日本車の人気が沸騰して、市場ではプレミアムが付いたとされる。
そんな日本車人気に政治が介入し、日本政府は(メーカーではない)アメリカへの自動車輸出台数を制限する政策を採った。それが1981年で、それならと日本のメーカーは、米国での現地生産という新たな“ウェイ”を探ることになる。その動きの最先端にいたのがホンダで、彼らは1982年にオハイオ州に工場を建て、アメリカでの生産を開始した。ホンダの現地生産は、まずは(高価な)アコードから始まったので、この映画に登場するシビックは、おそらく日本からの輸入車として現地を走っていたものと思う。
(つづく)
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Posted at
2014/01/31 00:48:45
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