
§日付けのある Car コラム
§『アクション・ジャーナル』selection
VWゴルフというクルマに、西ドイツの普通の人々が求めて、そして必要とする性能と条件が詰まっているとすれば、トヨタのカローラ/スプリンターには、ニッポンの「大衆」の夢と希望と、そしてニッポン人なりの合理主義が充満している。マイナーチェンジを果たした同シリーズは、さらに、そのような「ニッポン」への傾斜を強め、深く、また着実に、「大衆」への浸透をめざすこととなった。
もちろん、現行カローラというのは十分以上のヒット作なのだが、それにとどまることなく、しっかり補強をしたというか、さまざまなグレードアップが施された。エンジン、足、内装、質感……それに加えての「高級感」の盛りつけも忘れられていない次第で、ま、「十全」なんていう言葉を思い出すような、そういうマイナーチェンジであります。
凄いと思うのは、全モデルのエンジンが変更されたこと。「ハイメカ・ツインカム」と呼ばれる例の実用ツインカム・エンジンを、今回、すべてインジェクション化(EFI)したのである。カローラにとっての“普通”は、ついに“DOHC+EFI”ということになったのだ。
最量販車である1500版は、キャブからEFIになったのに伴い、トルクを上げるとともに、その最大トルクの発生回転数を下げる。こういうシブい変更をしており、オートマチックとの整合性をさらに配慮。そしてATといえば、なぜ、普通のカローラをすべてインジェクション化した理由のひとつに、AT問題(発進時の“暴走”?トラブル)というのがやはりあるという。
その問題をクリアするため、ブレーキを踏んだままでユーザーに始動してもらうには、やはり、キャブよりEFIの方が作り手としては容易。(アクセルを踏まずに始動するにはインジェクション=EFIの方が確実)その際、EFIが高価であるという問題は、カローラに載せるんだという「数」で解決できる……と、こういう凄さもあります。言い換えると、「カローラでやる」と決定すると、もう、かなりのことができてしまう。コストという最もシビアなテーマも超えることができる。こういう事実もまた、今回のチェンジで示されたことになりますね。
この1500版は、やはり、あらゆる意味で、カローラの象徴である。ニッポンのオーディナリー・ピープルは、1500ccという税制の枠にこだわるという合理精神を見せる反面、AT車に乗り、チープ・シックはやっぱり嫌いで、質感なるものにもこだわり、外装における“光りもの”への愛着も抜きがたいという傾向を持つ。(……と、トヨタは読む)
カローラを作っているのは、いったい誰か? このテーマの探究は重要である。
(1989/07/04)
○89年末単行本化の際に、書き手自身が付けた注釈
カローラ/スプリンター(89年5月~ )
◆マルチ・バルブ、具体的には4バルブだが、この種のエンジンを一般向け実用車にも使おうという流れをリードしたのはトヨタである。そのバルブを動かすための2本のカムシャフトがあって、つまり、ツインカム(DOHC)であるわけだが、これに対してジャーナリズムの一部から、「回らないツインカム」という評が浴びせられたのは興味深かった。それほどに、ツインカム=高回転=スポーツ性という“刷り込み”がなされているのだなあと、むしろ感心。「実用エンジン」なんですよ、これ……。
○2015年のための注釈的メモ
ツインカムやDOHC、また燃料噴射(インジェクション)は、60~70年代では“夢のクルマ”の記号だった。そのシリーズでひとつだけ、最もスポーツ的な仕様だけに積まれるエンジン! 各社とも基本的にそういう設定で、それは最高仕様でもあったから、同時に高価。つまり、平民には買えない。それがツインカムやDOHCだった……のだが、このカローラは、普通の仕様が全部ツインカム。これは、その種のメカニズムへの憧憬を抱えた80年代のクルマ好きにとっては、起きるはずがないことが起こったというくらいの事件でもあった。
そして、ツインカムにせよ4バルブにせよ、それが“いいモノ”であるなら、いずれは大衆化させる。平民でも手に入れられるようにする。これは日本自動車史で草創期からずっと行なわれてきた大テーマ。その中での最大の成果は、ひょっとしたら、80年代に行なわれた実用エンジンの「4バルブ化」だったのではないか。
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80年代こんなコラムを | 日記
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2015/02/02 20:57:53