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イイね!
2016年01月11日

映画「卒業」の赤いアルファ・スパイダー

先般、映画の「卒業」を(DVDで)見た。1960年代に製作されたこの映画だが、実を言うと、これが初見だった。もちろん、サイモンとガーファンクルは聴いていたし(ただし、レコードを買ったことはなかった)キャサリン・ロスも嫌いではなかったが、この映画はあまりにも「同時代」だったというか、当時のメジャー作で有名すぎたというか。とにかく、横目では気にしていたのだろうが映画を見ることはないまま、ほぼ半世紀が過ぎてしまった。

……あ、公開時にTVで、あの「エレーン!」「ベーン!」というシーンがあまりにも流れすぎて、それで、見なかったのか? 効果的にPRしすぎると、逆に映画館に行かなくなるヤツもいる。そんな余計なことを、映画会社各位にここで言いたい(笑)。

さて、そんな事情で、この映画を年令を重ねてから見るハメになったわけだが、その目線でいうなら、シーンもストーリーも、すべてが「ほろ苦い」というしかない。そして一方では、これは「コメディ」なのかという感じもヒシヒシとする。

でも、「青春」って(あえてこの言葉を使うが)当事者にとってはいろいろと切羽詰まった「どうにもならない」ものであっても、遠くから見れば、大したことではないもの。そして、笑ってやり過ごせば、それで済むようなことも多い。でも、それが見えてくるのは、やっぱり年を重ねた後のこと。ただ、そういうことがわかって、そして、それがきちんと描かれているということでは、やはりこれは優れた“青春映画”なのだろう。

そして、「赤のアルファロメオ」である。それもスパイダー、つまりオープンカー。主人公ベン(ダスティン・ホフマン)は、大学の卒業記念に両親からこれを買ってもらったという設定。でも、せっかく卒業したのに、彼は自分の将来を決めない。……というか、何も決めたくない。彼が何となく思っているのは、両親とその周りの人たちが属している「エスタブリッシュメント」には組み込まれたくないということかもしれない。

……そうか、こういう「ベン」みたいな青年が、あの『ウッドストック』には集まったのではないか。あまりにも人が集まりすぎて、結果的には無料(フリー)になってしまった、この伝説のロック・コンサート(1968年)は、原っぱに40万人もいた割りには、観客はみんな、かなりお行儀がよかったといわれている。そして、この記録映画を見て驚くのは、画面に映し出される人々(観客)が、ほぼ「白人」だけということ。このイベントには、そうした“統一”が何となくあったようだ。

さて、そんな未来に向けて「立ち止まった」ままのベンのところに、やっぱり「既存」からはちょっと外れてしまった年長のミセス・ロビンソンが近づいてくる。若者は、成熟した女性による誘惑を、当然ながら拒めない。しかし、その夫人の娘であるエレーンは、実はベンの意中の女性だった……という、けっこうドロドロな設定なのがこの映画だった。

……なるほどね! そして、そんな母との関係があったにもかかわらず、まったくメゲずに、その娘エレーンを追うというベン青年を、映画は基本的に肯定して描く。だが、「エスタブリッシュメント」側の締めつけも強力であり、エレーンは親の決めた相手と結婚させられそうになる。

その式場へ、赤のアルファロメオを駆って向かうのがベン。しかし準備が悪く、あるいは途中で的確に対応しなかったために(ガソリンスタンドには寄っていたのに)アルファ・スパイダーはガス欠でストップしてしまう。やむなく、そこから自分の足で走り、教会の二階から、あの叫びを行なう。「エレーン!」……

ここで花嫁が「もう遅いのよ」という様子をまったく見せずに、来てくれたのね、ベーン!……と呼応するのが、やっぱり“60年代”的。そして、そのへんにあった「十字架」を振り回してベンが追っ手に対応し、さらにはその宗教の象徴をカギ代わりに使ってドアを封印してしまう。これまた“60年代アメリカン・ニューシネマ”の真骨頂か。

そして二人は、一人は真っ白なウェディングドレスのまま、路線バスに逃げ込んで後部座席に収まる。しかし、乗客たちからは奇異の目で見られ、二人は思わず、複雑な表情になる……というのが、この映画のラストである。この「バスの中」とは、これから先に彼らが生きていくであろう「場」の象徴であり、そこでの彼らが順風満帆であるはずがないというのは、ひとつの解釈。

ただ一方で、観客としては、ここで「クルマ」のことを思い出す。もし、赤のアルファ・スパイダーがガス欠せずに、教会の前で待っていたら? ベンとエレーンはそれに飛び乗って、歓喜の叫びを上げただろう。そして、二人を乗せて疾走する赤いオープンカー!……なんていうシーンで終わったら、この映画の印象は相当違ったものになる。

しかし、赤のアルファロメオと、彼らはハグレてしまった。彼らはスパイダーを捨てた、もしくは、スパイダー(親のプレゼント)に捨てられた。そこまでの意味が盛られていたかどうかは定かではないが、彼らが単に最後に「バスに乗った」だけではなく、その前段階として、アルファとの“別れ”があった。こういう流れで見てみると、この映画のエンディングの興趣はさらに深くなるのではないか。そして同時に、この映画における「アルファロメオ・スパイダー」は、そのくらいに雄弁な存在だったとも思う。
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Posted at 2016/01/11 15:57:27

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