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2016年02月06日

映画「カサブランカ」の“偏向”と右ハンドル その2

映画「カサブランカ」の“偏向”と右ハンドル その2 さて、登場人物のネーミングからも窺えるが、この映画はある視点を据えてしまうと、途端にわかりやすくなる。この映画がプロパガンダとして、つまり特定の主義・思想の政治的な宣伝として作られたということは、公式には作り手側は認めていないらしいが、そうであったとしても、第二次大戦での連合国側に立って、その立場と正義と(来たるべき)勝利のために作られたことは明白。そして、そういう映画として見れば、いろいろなことが一気に“腑に落ちる”というもの。

まず、この映画では、敵と味方は峻別される。敵は枢軸国側のドイツとイタリア、味方はフランスとイギリスである。そして、アメリカが映画の語り手であり、主人公リックの国籍もアメリカだ。(リックがドイツ将校から国籍=ナニ人であるかを問われて、ドイツ人の質問には答えたくないリックが「俺は酒呑み人だ」と答えるシーンがある)

その連合国 vs 枢軸国という図式から、カサブランカの闇市の親玉はイタリア人(フェラーリ)であり、そのブラックマーケットで、通行証を売っては小遣い稼ぎをしているのもイタリア人(ウガーテ)ということ。そういえば冒頭で、飛行機から降りてきたシュトラッサー少佐に挨拶し、しかし、ほとんど無視されたイタリア人将校もいた。ともかく、この映画は、敵国のイタリア人には徹底して“いい役回り”は与えず、揶揄の対象にもしている。

そして、揶揄を超えて敵視しているのがドイツとドイツ人だ。カフェの主人リック(ハンフリー・ボガート)は、ドイツの小切手は破るし、身なりのいいドイツ人らしき人物が店の奥のカジノに入ることも拒否する。そして極めつけが、あの有名な、ドイツの軍歌に対抗するフランス国歌の大合唱である。

この映画がプロパガンダであることに気づくと、英国人でもフランス人でも、またアメリカ人でもない身としては、この映画は見ていて若干、居心地がよくないところがある。イタリア軍はあまり強くないので(?)揶揄で済ませたが、しかし、手強いドイツ軍とドイツ人には敵意を剥き出しにするのがこの映画だが、そうなると、この枢軸二国の向こう、距離は離れて太平洋の西端にある島国で、欧州の二国とは「日独伊三国同盟」を結んでいる国は、果たしてどんなイメージか?

この映画のアメリカでの公開は1942年だというが、実際に映画が企画・製作されていたのは、日本海軍の「真珠湾・奇襲」(1941年12月)よりも前だろうか。アメリカは欧州戦線で苦戦する(パリは陥落してしまった)フランスとイギリスを武器や物資面で援助しつつ、アメリカ自身も「対独開戦」に踏み切ろうとしていた。そんな時期だったので、映画公開のタイミングも重要。そのため、脚本が全部できあがってなくても、とにかく、その日に撮れるシーンを撮って行く。そんなふうにして作られた映画であると伝えられている。

とにかく第二次大戦時、アメリカにとってのさまざまな問題がまだ大西洋側(ヨーロッパ戦線)集中していた頃に作られた。ゆえにこの映画では、太平洋側(アジア、日本)についての言及はない。そんなふうに製作時期が微妙にオッケーだったおかげで、われわれ日本人も、この「カサブランカ」を映画として見ることができる。しかし、もし一年、いや半年(真珠湾以後)でも製作がズレていたら、どうだっただろう? 言葉も文化も通じない黄色い異人種を、プロパガンダとしての映画がどう描写するか。うーん、これはあまり想像したくないな!(笑)

そしてアメリカは、そんな時期だったから、「対独開戦」に向けての国民的な戦意の昂揚が必要だった。このようにして、人や世論を戦争に駆り立てるためにメディアを用いる際の内情は、映画「父親たちの星条旗」が細密に描いている。太平洋戦争での硫黄島での戦いで、擂り鉢山にアメリカ国旗を立てた時、ほとんど偶然に写真に撮られた兵士たち。その彼らが本国で英雄になってしまい、戦時国債を買わせるためのPR活動に従事させられるという内容だ。

さて、そんなプロパガンダの極みがフランス国歌のシーンである。リックのカフェで、ドイツ軍人がいい気分でドイツの軍歌を歌っていた。それを見た対独レジスタンスの闘士ヴィクター・ラズロは、すぐに、カフェの専属バンドに「ラ・マルセイエーズ」をリクエストする。夫のそんな姿を、静かな笑みとともに見守る妻のイルザ。

この時、カフェ・オーナーのリックはバンドに目配せし、フランス国歌の演奏を許可する。ラズロが宣戦を布告し、リックがそれに呼応したのだ。この時点でリックは、それまで装っていた“ノンポリ”というポジションを捨てたと思う。これ以後の彼の行動は、このことを抜きに考えてはならない。リックはいずれ自身が対独の戦士となることを、胸の奥底で、この時に決めていたのではないか。

そして、ここで歌われた「ラ・マルセイエーズ」にドイツ軍人が怒り、リックの店を営業停止にしてしまうのだが、まあそれもわかる気がする。というのは、このフランス国歌、その内容がハンパではないからだ。そもそも、これは進軍歌だったという。18世紀のフランス革命時に、ある軍隊がこれを歌いながら行軍した。戦いの前に自軍を鼓舞するためだから、その歌詞は過激だ。そして歌の意味は以下のようであるという。

“血塗られた旗とともに、敵がやってきた。ヤツらは(われらの)子どもや妻の喉を裂く。市民たちよ、武器を取れ! 軍を組織し、前進しよう! われらの畑に(ヤツらの)汚れた血を吸わせてやるために!”

こんな血生臭い内容の歌を「国歌」にする国もすごいと思うが、とにかく、この歌「ラ・マルセイエーズ」に、カフェに同席していた(ドイツ人以外の)全員が唱和する。それまでドイツ人とデートしていたはずのフランス女も声を張り上げ、歌い終わると「ビバ、フランス!」と呟いて、一筋の涙を流した。プロパガンダとわかっていてもやっぱりちょっと感動する、この映画の名シーンのひとつだ。

(つづく)
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Posted at 2016/02/06 21:13:44

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