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2016年03月07日

フォードの不在……《2》

フォードの不在……《2》 フォード・モーターという会社は米国はデトロイトで創立され、そして今日でもそこに本社がある。しかし、この会社というかグループは、デトロイトに発した“世界企業”であり、日本市場に入ってきたフォード車にしても、そのすべてが「アメリカ車」ではなかった。

たとえば、イギリス・フォードがあり、そしてドイツ・フォードもあった。ただ、ちょっと確認してみたら、1967年という時点でそれらは「欧州フォード」として統合されていたという。その前、1950年代後半から1960年代初期あたりでいえば、日本に入ってきたアングリアとかコンサルは「英フォード」だった。さらに、1960年代後半以降だから、既に「欧州フォード」だったのだろうが、エスコートとかコルチナ(コーティナ)には濃厚な英国の匂いがあり、そして、タウナスやカプリはドイツ産だったはずだ。

つまりフォードは、どでかいアメ車を狭い日本で無理やり売ろうとした……わけではない。アメ車はたしかに売ったが、欧州車も売ったのだ。そうした歴史を経ての今日であり、マスタングやエクスプローラーなど、プロデュースと生産が「米フォード」であるモデルとともに、フォーカスやフィエスタといった、VWやプジョー・シトロエンやルノーやフィアットなどをライバルとする「欧州車」を日本市場には導入していた。

まあ、その「産地」が異なること、それによるクルマのキャラや走行フィールの違いなどを、当のフォード側がどの程度きちんと、日本のカスタマーやこのマーケットに伝えてきたか。これについては、若干疑問なしとしない。また、フォード車には「米」と「欧」があるという点について、フォード側が意識的だったとも思えない。おそらくは、PR戦略面でのこうした不備……というより「無さ」が、今回の「撤退」にもどこかで繋がっていると思う。

それはともかく、フォーカスにしてもフィエスタにしても、その「欧州車ぶり」にはいつも注目していた。フォード車に乗って、そして走らせてみると、ドイツ的なある種の硬さはなく、一方でフランス風の“柔軟性”にも振ってない。さらには、しばしば“血湧き肉躍る”パッションのイタリアンでもなく、質実を主張していた北欧系ともやっぱり異なる。

しかし、そうであっても、ワインディング路こそがその本領発揮の場であるという、ヨーロッパ車特有の主張性では、欧州フォード車はまったく他車に負けていなかった。少なくとも私は、フォーカスやフィエスタで山岳ワインディング路を走るのは積極的に楽しかったし、その走りのキレの良さと快適性とのバランスには感心することも多々だった。

そういうフォードの立ち位置が“無国籍”だといえば、それはまあ、そうなのかもしれない。ただ、そうしたナショナリズムに触れるのがクルマの愉しみのひとつであることは認めるものの、一方で“国籍”を振りかざしてくる部分が、普通にクルマを使おうとする際には邪魔になることも時にはある。濃すぎるキャラが浮く場合、あるいは、その“濃さ”がクルマの“守備範囲”の狭さに繋がる場合だ。ゆえに、フォード車が示していた淡白さと無国籍性は、私には何らネガではなかった。

そして、世に「中庸」という言葉もある。乗り心地の“作り方”にしても、ドイツ的でもなくフランス風でもない。でも、やっぱり「欧州的」だな……という、フォードのそんな“真ん中へん”の感じは、触れていて新鮮だった。そして、コーナリング性能と乗り心地のバランスといったことでも、(そうか、いまのヨーロッパって、このくらいが“真ん中”なのかもしれないな)と、欧州フォード車を走らせながら、私はしばしば、ひとりで納得していたし、もっと言うなら「学習」をしていたと思う。

先にフォードについて「水準器」という言い方をしたのは、このような意味だった。フォードは私に、「中庸」と一緒に「ヨーロッパの現在」も教えてくれた。そうした“モノサシ”は、やっぱりあった方がいい。フォードの「不在」を、私は望まない。

         *  

フォード絡みのそんなニュースを聞いてから、そういえば、書棚の片隅に、あまりにも重すぎるので(笑)ほったらかしだった本が一冊あるのを思いだした。ページ数でいえば270ページ超という程度なのだが、使用している紙がものすごく厚く、それで本がヘビー級になっている。タイトルは「 THE FORD CENTURY 」、日本語訳のタイトルが「フォード100年史」。2003年に創業100年を記念して、米国本社が制作したものという。

つまりこれは、フォードは「フォード自身」をどう語っているかという書である。そして、スタイルとしては写真集なので、クルマのフォトは満載であるわけだが、パラパラとめくっていたら、われらがミゼットみたいなモデルが出て来た。よく見ると、それはミゼットではなく、キャプションも付いていて、1964年式のマツダの軽三輪、K360だった。

その写真説明には「歴史の継承」という題が付き、「フォード傘下には、その経営支配権を有するマツダや1999年に買収したボルボ・カーズをはじめとする有名ブランドが揃っている」と続く。また、本書には「 HEART AND SOUL 」という章があり、フォードこの100年における「情熱と興奮を呼び起こす25台」がピックアップされているが、ここでも、その「フォード・モーター傘下」のブランドが登場する。

その「25台」の中で紹介されている“フォード以外”のクルマを見ていくと、まず、1954年ジャガーDタイプ、1961年ジャガーEタイプ。1964年アストン・マーチンDB5、1964年ボルボ1800S、1970年レンジ・ローバー、そして、1990年マツダ・ミアータ(日本名・ロードスター)がそれに該当する。

しかし、アストン・マーチンを傘下に収めたのは1987年で、ジャガーをGMと競り合いになっても買ったのは1990年。また、マツダがフォード・グループに入ったのは1992年で、1999年にボルボ、さらに2000年にランド・ローバーが傘下に入った……とは、まさにこの本に書いてあること。

この「25台」に登場する“フォード以外”の傑作車は、すべて、フォードが絡む前のそのメーカーのプロダクト。一旦あるメーカーを買って──いや傘下に収めたら、そのメーカーの仕事は、過去も含めて全部を「フォードの100年」の中に収めてしまっていいのか!? ……と一瞬思ってしまうのだが、これはあまりにも資本主義というものを知らないコドモの感想なのだろうか?

(つづく)
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Posted at 2016/03/07 07:35:32

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この記事へのコメント

2017年11月21日 23:53
the Ford centuryには暗黒史は載ってません。(≧∇≦)

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