
新FFセリカも注目されたが、この「160型」は、実は作ったメーカーもビックリというヒット作を生んでいた。カリーナEDである。これは型式名でもわかるように、カリーナ・セダンとは何のかかわりもなくFFセリカの兄弟機種で、比較的コンサバなカリーナ・セダンから大きくジャンプし、突如として優美にして華麗な「4ドアのクーペ」として登場した。
そして、おもしろいことが起こった。マーケットはこのEDのカッコよさを歓迎し、パーソナルに使えるおしゃれなモデルとして、とくに女性層からは絶大な支持を受けた。しかし、一方でジャーナリズムは、このクルマの「4枚ドア」という事実を盾にとって、そうであるのに(4ドアは実用的であるべきなのに、という意味だったのだろうか?)このクルマの居住空間の狭さは何なんだ!……といった類の論陣を張ったのだ。
……いや、たしかに、このEDのAピラーの傾斜はきつく、また、大柄な男にとっては天井に頭がつかえて、フロントウィンドーも近すぎる、そんな造形ではあった(注1)。しかし、街を走っているカリーナEDを観察しても、小柄な日本女性にとってはヘッドルームにも余裕があり、この居住空間でも何ら不満はないように見えた。
そもそも、「狭いわね!」と思われていたなら、誰も買ってない。要するにそれだけのことで、またメーカーがどこであれ、カッコいいとかカワイイとか、そうした自分なりの評価と判断があれば、誰に何をいわれようとも、その感覚をもとに人はクルマを買う。そういう時代が来ていた。
いまにして思えば、この頃、つまり1980年代の半ばあたりから、わが国のリアルなマーケットやカスタマーの状況と、メディアや自動車ジャーナリズムとの間での微妙な乖離が、少しずつ始まっていたのかもしれない。
○注1:それを言うなら、あの名匠ジゥジアーロのデザインといわれたピアッツァの前窓の前傾、そしてルーフの低さも相当なものだった。造形をあくまで優先し、好きな人だけ、乗れる人だけ買ってくれ(!)というクルマ作りは、トヨタに限らずどのメーカーであれ、やる時は「やる!」のではないか。
(ホリデーオートBG誌「80's 絶版車アルバム」2000年4月より 加筆修整)
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00年代こんなコラムを | 日記
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2016/05/24 17:54:36