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2016年12月25日

【 20世紀 J-Car select 】vol.11 パブリカ

【 20世紀 J-Car select 】vol.11 パブリカ 日本のモータリゼーションとその「大衆化」は、1966年に登場したニッサンのサニーとトヨタのカローラがその両輪となって本格的に進展した。この見方は、やはり正しいと思う。

ただ、サニーやカローラ以前にも、多くのコンパクト車が存在した。いや、むしろ、1950年代後半から1960年代前半という時期での日本メーカー各社のさまざまなトライと提案があったがゆえに、それらを基盤として、1966年以降の爆発的な「クルマの大衆化」現象が起こったと考えるべきであろう。

そして、空前のヒット作となったサニーとカローラは、小型のクルマでありながら、メカニズムとしては平凡な「FR」だった。これら以前のコンパクト車の方が「RR」だったり「FF」だったりと、機構的にははるかにチャレンジングでバラエティに富んでいた。それは「カローラ以前」のトヨタ車においても、実は例外ではなかった。

1955年に政府筋が発した、クルマをこの国で一般化させようという「国民車構想」にトヨタも呼応し、その翌年にはプロトタイプを作っていた。その時の小さなクルマが、空冷の水平対向2気筒エンジンをフロントに置く「FF」だったのだ。

そのスモールカーは、のちに「パブリック・カー」を縮めた「パブリカ」という名で世に出ることになるのだが、しかし、そのデビュー時には「FF」という方式はさまざまな意味で時期尚早だとして、採用が見送られた。

その「FF回避」の理由の中には、その頃の道路状況もあったと、後年、パブリカの開発陣が明かしている。「当時の日本の道路はあまり舗装されてなく、蒲郡のある旅館の玄関まで着けるのに、砂利道の急登坂路があって、その登り坂をFFの試作車では、前輪の荷重が軽くなって、滑って上れなかった」と証言するのは、パブリカの開発に携わった佐々木紫郎氏だ。

そして、これに続けて氏は、「設計技術もよくなかったけど、精密な加工技術がなかったので、等速ジョイントの良いものができなかった。この二つが、パブリカのFFを諦めざるを得なかった理由だったと思う」と語っている。(「トヨタをつくった技術者たち」2001年・刊より)

さて、こうして「FFではなくなった」パブリカ(UP10型)が発表されたのは、1961年の6月だった。このモデルは“光りもの”がほとんどないシンプルかつプレーンなデザインのクルマだが、ただ、後のカローラほどのヒット作にはならなかった。……というより、このパブリカでの“失敗”を踏まえて、トヨタはカローラで大成功を収めることになるというのが史実に近いだろう。

その理由として、カローラはパブリカと違って「豪華」だったからというのがあって、これはもちろん正解である。ただ、もうひとつ。ここで、当時の「大衆」がクルマに対して持っていた「意識せざる願望」という要素を挙げておきたい。

当時、つまり1960年代の初頭。日本の“一般ピープル”にとって、クルマというのは生涯に初めて買うことになる超・高価な商品だった。ゆえに、自分たちがようやく買おうとしている大衆的なサイズと価格のクルマが、それまでに見てきた普通車あるいは上級車とは異なるコンセプトであったり、また、小型車特有のメカニズムであることを(無意識のうちに)望まなかった。「大衆」のために“別仕立て”になっているクルマではなく、上級車と同じようなものでありつつ、しかし安価な自動車を希求したのである。

そんな状況を経ての1966年、それまでに見てきた上級車と同じメカニズムで、そしてサイズだけを縮小版にしたようなクルマが登場した。さらに、そんな小型車を、それまでに上級車を作っていた二つのメーカーが作ってくれた。この時、「大衆車」という言葉も、ポジティブなものに変わった。それが「サニーとカローラ」だったのではないか。

ただしトヨタは、この“失敗作”パブリカのために作った「空冷水平対向2気筒」というパワーソースをムダにしなかった。1967年、この小さなエンジンと軽量ボディを巧みに組み合わせたスポーツカーが誕生。通称「ヨタハチ」、トヨタ・スポーツ800である。初代パブリカのための“心臓”はしたたかに生きて、歴史に残る傑作スポーツ車へその命をつないだのだ。

(2002年 月刊自家用車「名車アルバム」より 加筆修整)
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Posted at 2016/12/25 23:39:16

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