
◆ロゴ&ストーリア
日常的に普通に使うクルマのカタチというのが、いま変わろうとしている。前世紀の馬車の用語に端を発する既存のボディ用語では、もう収まりきれなくなっており、かといって、「RV」というくくりではあまりに曖昧すぎる。それが昨今の状況であろう。
この両車は、ともに、新世代のセダン(日常使用車)はこう変わるべきではないかという提案で、ロゴは「高さ」、ストーリアは「スクエア」がテーマになっている。そして両車ともに、その基本の狙いをあまり目立たせないように、スタイリング上で工夫をしている。このへんが、なかなか巧みであると同時に、デザインだけの“遊びクルマ”ではないという一線を画している。
ロゴの全高は“トールボーイ”で一世を風靡したシティと同じ。しかし、そうは見えない。一方ストーリアだが、これは本当はすごく「四角い」クルマ。各ピラーは立っており、こういう造型というのは、ショルダースペースが非常にワイドになる。
そして、ストーリアがあまり「高さ」の方向に振らなかったのは、あくまでも「RV」ではないという立ち位置から。さらに、欧州への輸出も考えているため。ヨーロッパでは、日米ほどクルマに対して「変革」を求めていず、ハコ(ワゴン)志向もないからだ。
どちらも、表面的なそのデザインにだまされず、その作り手の意図と結果として生じたユーティリティを生かして、カシコく乗りたいクルマ。ともに、ワカル人向きの渋めのチョイス。
◆ワゴンRワイド&キューブ
「高さ」というのは、ユーティリティにとって実に効果的だ。軽規格のワゴンRに乗って、こう感じた人は多いだろう。これでほんとにミニなのかと言いたくなる室内空間のマジックは、十分な「高さ」のゆえ。もちろんエンジンを排気量アップしたこのワゴンRワイドでも、それは同じである。
もうひとつ、このワゴンR系の魅力は、そのスタイリングであろう。背の高いただのハコだからこそ、実はとってもむずかしい。しかし、それをよくこなし、十分な個性すらある。後発の各車も、この点では及ばないのではないか。
そしてキューブも、遅ればせながら登場の、ニッサンからの「ハコ」提案。これはマーチという定番のヒット作をベースにした安心感と、無段変速のメカニズムがウリだ。発表直前になって、デザインのディテールを思いっきりワカモノ&アメリカン方向に振ったというウワサもあり、結果的にはこれが大成功。いま日本のクルマ状況がナダレのごとくアメリカンになっているのに、ジャストフィットした。
思えば、道路状況や制限速度など、モータリゼーションや使い方が日本と似ているのは、ほんとは、ヨーロッパよりもアメリカだった。若い人ほど、その事実にすばやく気づいている。このようなクルマにおける日本の“アメリカ化”というのは、もう止めようがない。いま、この国(日本)の人々は、こういうクルマに普通に乗るのだ。
◆ヴィータ&トゥインゴ
同じ実用車が、やはりヨーロッパへ行くと、その様相を変える。オペルとルノー、ともにあちらの量販車メーカー。それでも、日米とは一線を画す。ひとつは空力造型、そして、矛盾するようだが、もうひとつは保守性。クルマというモノについての、強固なイメージがあるのが欧州だ。
そしてこの2車だが、片やオペルは、ドイツ流の太いトルクを、こんな小さなエンジンからも吐き出すという驚異の設定。一方のルノーは、やっぱりラテンか、たかがスモールカーでも、デザインのセンスは忘れませんわ!……というエスプリ路線。
陰鬱で速いアウトバーンというシビアな環境は、どんな状況でも操作しやすいような、でっかいスイッチ類をインパネに配し、一方、もっと明るく高速巡航しますというフランスでは、陽光をたっぷり取り入れる大きな窓と低いウェストラインで、ドイツ車のように外界を遮断しない。
国際化の波で、欧州各国のクルマの国籍性が薄れている現在だが、くらべてみると、やっぱり違う。こういう小さなクルマだからこそ、その差異が浮き出てくる。そんな感慨に浸りつつ、ドドッとトルク走りをするか、おしゃべりでもしながらの2ペダル・ドライビングで流すか。そんな使い方でポジティブに異文化に迫ってみるのが、この2車の“正しい”乗り方でありましょう。
(JAF出版「オートルート」誌 1998年に加筆修整)
Posted at 2015/11/16 12:32:32 | |
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