
○さて、チャングムは何を選ぶ?
『チャングム』は韓流のドラマらしく、美女たちの競演という面でも大いに楽しめた。そして、このドラマだけなのか、あるいは韓流全体の傾向か。日本人から見て割りとサラリとした印象の女優が主役もしくは善玉を演じ、“濃~い”顔の美女の方がライバルもしくは悪役だった。(この傾向は『冬のソナタ』でも同様)ただ、チェ・ジウ(冬ソナ)もイ・ヨンエ(チャングム)もクリアな顔だちだが、そこには単なる美形を超えた“人生”があった。
こうして見ていくと、チャングムに似合うクルマは、デザインも重要になりそうだ。また、ワールド・プレスティージやブランド性はチャングムに似合うとは思えない。結果的に彼女は王の直近にまで出世するが、上昇志向は彼女のテーマではなかった。だから“庶民派”のチャングムがレクサスに乗ることはないだろう。
そして、保守にすぎるというのも、これまた「チャングム的」ではないと思う。当時の身分制度に風穴を開けたというのがチャングムの“立ち位置”で、この観点からは、今回のモデルでやや「立ち止まってしまった」感のあるカローラは脱落か。
一方でチャングムは、過去や歴史を踏まえての行動を好んだ。勉強家である分、好奇心も強かったが、ただ、まったくの新ジャンル、いわば未知に対してはどういう姿勢だろうか。コンセプトをピュアEVまで“飛ばした”三菱「i」と、果たしてミートできるか?
こうして思いつくままに条件を並べていくと、過去や歴史へのリスペクトは忘れず、現在への関心があり、そしてそれらに立脚しての変革は厭わない。つまり、スタンダードとレボルーションのコラボ……というと、さらにワケがわからなくなってしまうが(笑)、そういえばチャングムには、宮廷内の料理人と王室に出入りした医女という二つの顔があった。
こうしたクロスオーバーが「チャングム的」だとすれば、今年、彼女のために選抜すべきモデルは、これしかないかもしれない。そう、スズキのSX4である。そういえばこれ、デザインの基本はあのジゥジアーロのはず。単なるハコ造形を超えた細部の魅力は、日伊ミックスの産物でもあったか。
(了)
(「ベストカー」誌 2006年10月の原稿に加筆修整)
○2015年のための注釈的メモ
ひとつイイワケすると、雑誌にこの原稿を書いた時『チャングム』の放映はまだ終わっていなかった。つまり、ドラマの結末は知らない。終盤、医師チャングムはハリで麻酔をして外科手術までやってしまうが、それは未見という状態。物語を最後まで見ると、チャングムは“あの時代”に医学の「未来」に向かって突っ走っていたことがわかる。
雑誌の企画に戻れば、時代をそこまで超えようとしていた先鋭的な「大長今」(チャングム)であれば、彼女がこの年に選ぶべきはもはや内燃機関車ではなく、ピュアEVの「i」だったかもしれない。……のだが、チャングムらしく地に足がついていたという意味で、SX4もけっこう“いい線”だったとはいまも思っている。
Posted at 2015/10/17 12:17:56 | |
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